小説|肩書を流す雨
風邪を引くわけにはいかない。そう考えて彼女はパン屋さんの小さな軒先テントで雨宿りをします。職場では主任、家では妻であり親、実家では親を介助する娘。風邪で休むような時間はありません。夜の雨空を見上げます。
ガラス越しにパン屋の暗い店内を覗けば、パンダの顔を模したパンの値が書かれた張り紙が見えます。彼女が振り返ると、軒下の前を濡れたパンダが歩いていました。思わず彼女はパンダを引き止め、一緒に雨宿りをします。
軒下は狭く、ふたりの肩は濡れました。にわか雨が止むのを待ちながら、パンダは語ります。動物園に務めていること。人気者は疲れること。客足が遠のくから雨を好むこと。彼女も自らの身の上を話しました。
パンダは彼女の肩を抱き言います。人気者、主任、妻、親、娘。肩が凝る肩書を雨はひととき洗い流す。雨を恐れなくていい。風邪を引いてもいい。人気者である前に、僕はただのパンダだから。君もただの人でしょう?

ショートショート No.333
昨日の小説
#ショートストーリー #短編小説 #物語 #読書
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