短編小説|日当たり最悪の物件を探して
三月は日当たり最悪の物件を探していた。
引っ越しシーズンだから物件数は多いけれど、北向きの賃貸は少ない。
苦労した末、窓の小さな北向きの賃貸を見つけた。でも、僕は結局、南東向きの大きな窓がある1DKのアパートを借りた。
「日当たり良いなんて最悪だよ。お前のせいだかんね」
僕は新居でのびのび日向ぼっこをしていたクロに言う。
拾った黒猫だ。
クロは日向ぼっこを愛している。
去年の二月に拾ったとき、多摩川の高架下の陰で震えていたから、日向にいると安心するのかもしれない。
僕にとっては迷惑な話だ。僕はハーフだから純粋な吸血鬼みたいに日差しで灰になったりはしないけれど、眠れないくらい痒くなる。
新居で僕は日差しを遮るように本棚を置き、安全地帯を確保した。
本棚の向こうの日向で、クロは背伸びをしていた。
Amazon の段ボールの中で震えていたクロを抱き上げたとき、僕の手も震えていた。二年付き合った彼女に振られた日だった。
「結婚するなって。親が」と彼女は言った。
親の世代は、まだ吸血鬼への偏見が強い。僕の両親も一緒になるとき、僕の祖父母と縁を切ったらしい。
吸血鬼が暴力で人の血を吸っていたのは数世紀も前だ。僕は献血センターから支給される血液しか口にしたことがない。
だけど、彼女との結婚は許されなかった。
「寂しかったね」
あのとき、そう言って僕はクロを抱きしめた。
南東の窓から注ぐ日を浴びたクロは、あくびをしている。
正直、羨ましい。なるべく、僕は日陰を歩いて生きてきた。光の下では、人よりちょっと鋭い八重歯が目立つし、なによりとっても痒くなる。
僕は日陰のソファで横になって目をつぶる。僕は彼女を恨んだりしない。好きだったからだ。日向で、幸せになってほしい。
顔に毛が触れる。クロが僕の顔に乗ってきた。
クロのフカフカのお腹に埋もれて、僕は大きく息を吸う。
日陰だけれど、猫特有の、お日さまの香りがした。
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牛乳を買って金曜よるに一杯やります。