掌編小説|死神の宿題を見てあげた夜 #はじめてのnote
夏休み初日に届くはずだった僕の誕生日ケーキが、まだ来ない。
ケーキに合う紅茶も奮発して買ったのに、独り家で待つだけ待って、僕の三十歳の誕生日が終わろうとしている。
「なんだこの無駄な一日」
居間のソファで仰向けに寝転ぶ。
誰も祝ってくれないけれど、めげずにハッピーな誕生日にしようとあがいた結果がこれだ。
インターホンが鳴る。ようやく来た。
なんと文句を言おうかと玄関モニターを見ると、黒いローブを纏った女の子が手を振っていた。
「死神のシイと申します」
シイちゃんの言葉を信じたのは、僕の生年月日をぴたりと言い当ててきたからだ。生まれた時刻まで。
「僕、死ぬの?」
恐る恐る問うと、シイちゃんは首を傾げた。
「いえ、宿題手伝ってほしいんです」
「死神に宿題とかあるの?」
「はい、夏休みの宿題です」
「なんで僕が?」
「名簿でたまたま見かけて。今日が誕生日の人の名簿です」
「どんな宿題?」
「これなんですけど」
シイちゃんは人名がずらりと書かれたノートを見せてきた。
「この人たちの寿命を一日減らすんです」
「それが宿題?」
シイちゃんは頷く。
「死神みんなで手分けして、いつも人の寿命を一日ごとに一日ずつ減らしてるんです。これは今日、アタシがやるぶん」
「この量、一日でやるの?」
「ほんとうは夏休み初日から今日までコツコツやるものなんですけど」
「けど?」
「やる気出なくて」
「そういうの死神も同じなんだ」
手伝うのは気が引けたので、僕は紅茶を出して見守った。
「良い香りですね、これ」
ノートの名簿にひたすら「−1」を書き入れながらシイちゃんは言う。
一時間ほど経ち、シイちゃんがノートを閉じた頃、また呼び鈴が鳴った。
「ケーキですか?」
ようやく届いた宅配物を見て、シイちゃんは目を輝かせている。
「宿題終わったし、一緒に食べる?」
シイちゃんは強く頷いた。
生クリームを口もとにつけながら、シイちゃんがノートの仕上がりを見せてくる。名前の一覧の中に僕の名前があり、「+1」と書かれている。
「僕だけプラス?」
「アタシのために時間を使ってくれたから」
「怒られない?」
シイちゃんは生クリームをぺろりと舐める。
「ぜんぶ正解より、ちょっと間違ってたほうが毎日やってたっぽいでしょ」
「そういうの死神も同じなんだ」
どうやら無駄な一日が帳消しになったらしい。
あらためて、僕とシイちゃんは紅茶で乾杯した。

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