短編小説|曇りのち、ブルーハワイ
青い雨がカフェの窓を叩く。私はため息をついた。ブルーハワイのシロップが降る日は客が来ない。傘も靴もベタベタになるから、当たりまえか。バイトなので売上は気にならないけれど、暇で嫌になる。小さな店内に私しかいない。
カウンターを拭きながら何をしているんだろうと思う。同級生は卒業旅行でハワイへ行ったらしい。私は就職留年をして、だらだらバイトを続けている。私の稼ぎより、親の払う学費のほうが高い。スピーカーから「雨に唄えば」が流れている。
洒落たカフェでバイトをしたら、晴れやかな学生生活が送れると思った。ところが、いまや自分を見失っている。窓に流れる青い筋を見つめた。いまの境遇は、かき氷のブルーハワイと似ている。キレイに見えて何者か分からない。
ブルーハワイは何味か? 食べたことはあるが、私には答えられない。遠く雷が鳴った。暇だし、作ってみるか。思い立ち、棚からピッチャーを取り出す。窓を開け、青い雨を集めた。指までベタつく。手を洗い、業務用冷凍庫を開ける。
製氷機からキューブ氷を取り出し、ブレンダーにかける。パルスを二度、三度と行ってから、五秒ほど撹拌した。ピッチャーのブルーハワイは少し煮沸する。広口マグに盛った荒い氷へ、ブルーハワイのシロップをかける。完成だ。
わざとらしい青さが懐かしい。雨としては幾度も見ているけれど、ブルーハワイのかき氷を食べたのは、中学生のときに夏祭りで食べて以来だ。スプーンで掬い、一口含む。舌先が涼しく爽やかで、でもやっぱり何味か分からない。
いちごやレモンなど、味の明らかなシロップを、ブルーハワイはどう思うだろうか。私は就職した同級生が羨ましい。自分の「味」を探しに旅にでも出るべきか。たとえば、雨の降らないハワイとか? 自棄になり、かき氷をばくばく食べる。
雨音が遠ざかってゆく。最後のひとくちを口に入れると、ブルーハワイが教えてくれた。妄想の南国から帰ってこい、お前はここにいると。雨というより青空みたいな色の氷の冷たさを通じ、目の覚めるような頭痛として。
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