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短編小説|僕はスーパーで月を買う

 月の味を求め、スーパーの製菓材料売り場へ僕は行く。薄力粉や強力粉、ベーキングパウダーやホットケーキミックスなどが並ぶ棚に「月の粉ミックス」があった。高い。600gで1980円もする。貧乏学生には手が出ない。
 しかし、割引のシールが貼られた月の粉もあった。「表示価格より半月」と印字されている。つまり、半額だ。半額でも高い。でも、どうしても今日は月を食べたい。実家にいた頃、祖母がよく月を焼いてくれたのだ。

 祖母の命日に、僕は月を食べる。祖母の月が好きだった。ボウルに月の粉を入れ、牛乳と卵を入れる。かき混ぜた生地を、温めたフライパンに注ぐ。丸く広がった表面に、小さな泡がひとつ、またひとつと浮かんでくる。
 丸い生地にぷつぷつ穴が空くさまがおもしろく、僕は祖母のそばで飽かず眺めた。祖母を失って心に空いた穴は、月の生地に空く穴のように、いつかふさがるだろうか。思いながら僕は、なけなしのお金で月の粉を買う。

 家のキッチンで、僕は生地をフライ返しで裏返す。月の裏側は、こんがりウサギ色だ。焼き上がり、宇宙みたいな黒い皿へ載せる。バターを滑らせ、メープルシロップをかける。シロップと僕の涙が、星のように流れる。
 午前一時だった。窓外には本物の月が浮かぶ。祖母の命日はもう昨日だ。毎年、泣くから、月を焼くには勇気がいる。決心がつくまで先延ばしにしていたら、深夜になってしまった。アパートでひとり、月と向き合う。

 お腹が空いた。祖母ほどではないが、うまくできた。夜だけれど、熱い珈琲を淹れる。フォークとナイフで月を切る。月面を歩くようなふわりとした感触だ。湯気が立つ。一口、含む。甘さが試験勉強で疲れた頭に染みる。
 珈琲を飲み、目元を拭う。心の穴は、きっと一生、きれいにはふさがらない。考えながら、二口目、三口目と口へ運ぶ。穴は跡として残る。それでもいいと、窓の外の月が教えてくれる。クレーターは、生きた証だと。







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小牧幸助|小説・エッセイ 牛乳を買って金曜よるに一杯やります。

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