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木の幹のまま、逃げてきました【駄洒落小咄】


いやぁ、最近はね、防災訓練も多様になってきましたよ。
火災訓練、地震避難、竜巻シェルター体験なんてのもある。
そんだけやってりゃ、そりゃもう、逃げるほうも百人百様ってわけでして──

先日はとうとう、こんな人が走って逃げてきたんですよ。

とある中学校の学芸会。
みのりちゃんという女の子が、「木」の役を任されていました。

冬枯れの気配を表現するという、難しい役どころ。
ダンボールで作った幹の衣装に、肩からは枝がみょんみょん。
目立ちはしないけれど、存在感が問われるポジションです。

リハーサル直前、火災報知器が鳴り響いた。

「訓練です! 生徒のみなさん、落ち着いて避難してください!」

いつもの避難訓練かと思いきや、今回は本番形式の抜き打ち。

生徒たちは騒然。
衣装を脱いで制服に着替える子もいれば、
あわてて火の役のかつらを脱ぎ捨てる男子もいたとか。

⸻⸻

そんななか、みのりちゃんはというと──
ダンボールの幹を身にまとったまま、じっと考えていたそうです。

それから、ふと呟いたひとこと。

「……今さら制服なんて、着てられないわ」

⸻⸻

そして。

ゴッ、ゴッ、ゴッ──!

音をたてながら、廊下を小走りに避難。

先生が叫びます。

「おーい! そこの君……いや"幹"、廊下は走るなー!」

校長先生も目を丸くして言いました。

「……誰かと思ったら、"幹"か」

⸻⸻

避難場所の校庭。
ヘルメット姿の先生たちに混じって、
一本の木が、黙って立っていた。

風もなければ葉もないのに、どこかそよいで見えたんだそうです。

カメラを構えた先生が、シャッターを切りながら一言。

「そのまま防災ポスターに使えそうですね……」

みのりちゃんは、ポツリと呟いたそうです。

「木の幹のまま……着の身着のまま、逃げてきました」

⸻⸻

それからというもの、
彼女は“幹”というあだ名で呼ばれるようになりましてね。

防災訓練のたびに、なぜか枯れ木の役がまわってくる。

名前は『みのり(実り)』だっていうのに……

⸻⸻

みのりちゃんは今も、根を張って生きている──
学芸会の、あの“幹”のまま。

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