太一
太一という後輩がいる。自分よりも一年半ほど後に会社に入ってきた後輩で、最初は別の店舗で働いていたが、今は同じ店舗で働いている。
とっつきやすい人となりで、愛されやすい。声が大きくてハキハキした喋り方をする。そんなわけで元気なキャラだと思われがちだが、根っからの元気キャラというわけでもない。落ち込んでいるときは表情に出る。「元気?」と聞くと、「めっちゃ元気です!」とから元気で答える。モテたいモテたいと自分では言っているが、話を聞いてると「結構モテてんじゃんそれ」と思ったりする。でも、たびたびフラれる。フラれて、ネタみたいにいちいち「こうめいさん、フラれました…!」と報告してきては笑っている。けれど「本当は悲しいやろ?」と聞くと、「本当はめっちゃ悲しいです。」と言う。フラれたその流れでなぜか「コーヒーおごります!」と言ってスタバに向かったかと思ったら、とてつもないサイズのコーヒーを手に「こっちでしか買えない一番デカいやつ買ってきましたー!」と楽しそうに笑う。素直で、人の話をちゃんと聞く。だからといって流されるばかりじゃなく、自分の意見もしっかりと持っている。スタッフ全員へのお菓子の差し入れをやたらたくさんする。「だって、あったらみんな嬉しくないすか。」と事もなげに言う。いつものお礼にとほんのささやかなものをあげただけで、それをめちゃくちゃ喜んで受け取る。やさしすぎるほど、やさしい。
太一は、そういうやつだ。
入社当初の太一は、仕事の上であぶなっかしい部分が多々あった。当時教育係だった僕は、太一にたくさん注意をしたし、厳しい言葉をかけたこともあるし、自分の教え方や伝え方についても「どうすればうまくいくだろう…」とたくさん悩んだりした。
けれど最終的に、太一は自分で乗り越えた。僕の至らなさからくるちっぽけな悩みをよそに、いつの間にか心配無用な存在になっていた。以前とくらべてミスは格段に減り、かわりに仕事のときの笑顔が増えた。
そんな太一。今では先輩となり、新しいスタッフの教育係を担っている。その頼もしい姿を見るにつけ、僕はいちいちグッときたりするのだった。
太一の教育係だったと前述したけれど、逆に僕のほうが太一からいろんなことを教わった。新しいスタッフの教育は計画性よりもとにかく実践あるのみだということ。見返りを求めないギブは、別の誰かに「ギブしたい気持ち」を伝染させるということ。ヒリヒリとした緊張感の中でも挑戦する姿はめちゃくちゃかっこいいということ。
本当にやさしい人は「信じる」ができるのだということ。
彼のまぶしすぎるほどの実直さが、自分がいつの間にか失ってしまっていたり見えなくなってしまっていたあれこれに気づかせてくれる。そんな瞬間が多々あった。太一には本当に感謝している。

「ここには、ずっとはいられない。」
数ヶ月前、僕は会社について確かにそう感じていた。ものすごく嫌なことがあり、どうやったってそれを頭から振り払うことができなかった。それまでは「どうにかこうにか会社のためにできる限り」と努めてきたものの、その思いはもうプツンと切れてしまった。
辞めることを真剣に考えた。でも愚図な僕は、そのことをずるずると引き延ばし先延ばしにし、今もまだ同じ場所で働いている。熱意を失い、だけれど辞めることもできやしない。骨抜きみたいな状態に嫌気がさしながら、毎日とぼとぼと出勤をしている。そんな自分を客観的に見たら、会社にとっても、自分という存在は必要のないものだと思ったりもする。
でも、太一は違う。太一は、この会社の希望だと僕は信じている。
僕が会社に対して感じている不健全さや不当さのようなものも、太一の手にかかれば、丸ごといい方向に変えていけるのではないかと真剣にそう思っている。時間はきっとかかるだろう。けれど「太一ならいつか、何とかしてくれるかもしれない。」という期待感が確かにある。
だから僕は ──いつまでいるか分からないけれど── これからは、太一を押し上げていくことに熱意を注いでいこう。太一の実現させたい理想が出てきたならば、自分ができる範囲で協力をしていこう。そう思っている。
僕は多分、その「いつか」の未来を見ることができないまま会社を去ることになるだろう。太一と同僚であるという関係性の中でその喜ばしい未来を見られないのは、個人的には残念な思いだ。
ただ、太一がゲームチェンジャーとなって状況を打破する未来が訪れたそのときには、対面でもオンラインでも何でもいいから、一番デカいサイズのビールで祝杯をあげたいと思う。そのときにはきっと、いま感じている後ろ向きなあれこれも、お互いベロベロに酔っ払いながら笑って話せるかもしれない。
そういえば、太一とは「飯行こう。」と以前も以前から言っていて、にもかかわらず今の今までまだ行けていない。次の給料が入ったら、いよいよ誘ってみようかなと思う。
