宇宙人チョピット⑩『トラチャン、歌をうたう』
『トラチャン、歌をうたう』
フフン、ハハン、ピラピラピャー♪
ハップル、ペラペラ、ピッタラプッタラピャー♪
チョピットは、朝からずっと、ごきげんな鼻歌をうたっています。
それもそのはず、今日は、トラのトラチャンと、海へあそびにきているのです。
ピピット星からやってきた、宇宙人チョピット。
ピピット星には海がありません。
ですからチョピットは、今日という日を、とても楽しみにしていました。
「おもしろい歌だね」
トラチャンもゆかいそうに、しましまのしっぽをゆらしていいました。
「ハイ! これは、今ワタクシがつくった『海のうた』です!」
チョピットはそういって、肩からさげたちいさなポシェットの中から、大きなスコップをとりだしました。
ポシェットの中には、ほかにも、うきわ、ビーチボール、サングラス、パラソル、スイカにパイナップル、それからトラチャンがつくってくれたおにぎりに、だいすきなこんぺいとう…まだまだたくさんはいっています。
ジャジャポぺピ~、プ、プ、プ、ポぺポジャジャ~♪
チョピットが、こんどは『砂のうた』を口ずさみながら、せっせと砂あそびをはじめると、チョピットがかぶっている、まっ白な雲みたいにもこもこした頭巾の中から、すみれいろのふわふわのことり、チーチーが、ぴょこっと顔をだしました。
「地球でいう『海』とは、この星の表面の約70パーセントを覆っている、大きな大きなしょっぱい水のかたまりのことだチーチー」
チョピットの頭巾の中にすんでいる、物知りなことりチーチーは、チョピットの『チョットチーチーチー』です。
そのチーチーも、今日は、頭にかわいらしい麦わら帽子をかぶっています。
「へぇ、地球の海はしょっぱいのですね! それはぜひ味見をしなくては!」
チョピットはそういって、ポシェットからスプーンを一本とりだすと、波打ちぎわまで走っていきました。
海はどこまでも青く、空へとつながっています。
トラチャンは、あたたかい砂に足をうめて、うーんと、のびをしました。
海のにおいのする風が、トラチャンのひげをさわさわとなでていきました。
ざざん、ざざーん。
波の音にのって、チョピットが歌う(たぶん)『しょっぱい歌』が聞こえてきます。
なんて気持ちいいのでしょう。
「ああ、こんなとき、ぼくもチョピットみたいに歌えたらな」
トラチャンは、目を閉じました。
大海原で、心のままに、のびのびと歌う自分を思い浮かべてみます。
その歌声は、風にはこばれ、波をこえて、どこまでも飛んでいくのです。
「歌えばいいチーチー!」
チーチーの声に、ハッと目を開けると、いつのまにかチョピットまで、「ハイ!どうぞ!」と、こちらにマイクを向けて立っていました。
「いや、ムリムリムリムリ!」
トラチャンは、うちわみたいに両手をバタバタふりました。
「ぼくはチョピットみたいに、上手じゃないもの。ぼくなんかが歌ったら、わらわれちゃうよ」
するとチョピットは、きょとんとしていいました。
「上手な歌って、どういうものですか?」
「えっと、それは…きれいな声、とか?」
「とか?」
「リズムがいい…とか?」
「とか?」
「えっと、あとはね、えーっと…」
トラチャンが困っているので、チョピットは、チーチーにちらりと目をやりました。
ところが、いつもはなんでもスラスラ答えるチーチーも、すみれいろの羽をひろげて、首を「はてな?」とかしげています。
「トラチャンもチーチーもわからないのですか⁈」
チョピットは、目をまんまるくしました。
「こうなったら、先生に聞いてみましょう! ワタクシ、いい先生を知っています!」
そういうとチョピットは、ちょうど手にもっていた、マイクのスイッチをオンにしました。
そして、おなかいっぱい息をすうと、海のうんとむこうにむかって歌いました。
オ~~オオゥ~オウオウ~~~♪
ウ~ア~アア~オウオウ~~~♪
すると、どうでしょう!
海のうんとむこうから、
ゥ~ゥ~ァ~ァ~ァ~~
と、返事が聞こえてきました。
…と思ったら、ぽっこりぽっこり、海に、島がふたつあらわれました。
…と思ったら、その島がぐんぐんこっちに近づいてきます。
…と思ったら……!
あれは、島じゃない!
クジラだぁーーー!
ふたつの島だと思っていたものは、大きな大きな、二頭のクジラでした。
「ベルカント先生と、オルフェ先生です!」
チョピットは、パッと両手をひろげていいました。
「やぁ、チョピットくん! ひさしぶり」
「まさか、地球で会えるとはねぇ!」
クジラのベルカント先生とオルフェ先生が、よくとおる、すてきな声でいいました。
トラチャンは、あまりのことに、口をあーんぐり!
「トラチャン、前に宇宙エレベーターの話はしましたよね」
「宇宙は空の上にあるけれど、その入口は下にあるって話?」
「ハイ! 星と星は、星の中心、つまり、おへそとおへそでつながっているという話です!」
「星の中心には、『コアどうろ』とよばれる道があって、それは、宇宙の地下鉄みたいに、遠くの星とつながっているチーチー!」
「そのとおり!」
ベルカント先生がいいました。
「そしてその宇宙の地下鉄をつくっているのが…」
オルフェ先生がいって、
「われわれ…」
「クジラなのでーす!」
ふたりがハモるようにいいました。
「じゃ、じゃあ、クジラさんも…、う、宇宙人?」
トラチャンは、むねがドキドキするのを、なんとかおさえながら聞きました。
「うーん、そうだなぁ」
ベルカント先生。
「宇宙人というよりは…」
オルフェ先生。
「星と星の間をわたる…」
「星遊人(せいゆうじん)ね」
「われわれはうたうーーー」
「あたらしい星をもとめてーーー」
「うたがとどけばーーー」
「星がつながるーーー」
ふたりのみごとなハーモニーに、トラチャンは、思わず手をたたきました。
「ぼくも、おふたりみたいに、歌が上手くなりたいです!」
ベルカント先生とオルフェ先生はいいました。
「歌は、上手いかどうかじゃないーーー」
「とどくかどうかーーー」
「だれかにーーー」
「あるいは、じぶんにーーー」
「たとえば、われわれをみて、どう思った?」
ベルカント先生が、トラチャンにたずねました。
「びっくりしました…」
トラチャンが、ちいさな声でこたえると、
「あら、そのていど?」
オルフェ先生がフフフ、とわらいました。
いえいえ、そんなもんじゃありません。
トラチャンは、ほんとうは、体じゅうのしましまがふっとんでしまうほど、
「びっくりしたーーーっ!」
のですから。
「いいぞ、いいぞ、そのちょうしーーー!」
トラチャンのおもいきりのいい声に、ベルカント先生が、ぶしゅーーーっ!と、潮をふきあげました。
「それじゃあこんどは、たいせつなだれかに、気持ちをつたえてみましょう」
オルフェ先生がそういうと、チョピットとチーチーが「ハイ!」「ハイ!」と手をあげて、
「トラチャン、だいすきーっ!」
と、大きな声でいいました。
それを聞いたトラチャンも、大きな声で、
「チョピットとチーチー、だいすきーっ!」
といいました。
おもいきっていってみると、心がぽかぽかしてくるから不思議です。
「すばらしいーーー」
「あいのうたねーーー」
ベルカント先生とオルフェ先生が、大きな目をうるませます。
「でも…」
トラチャンの耳が、ぴくりと動きました。
「メロディーやリズムは?」
「この地球上でも、数えきれないほどのメロディーやリズムがある」
ベルカント先生がいいました。
「ましてや、宇宙には?」
オルフェ先生もいいました。
「歌は自由さーー」
「とどけたい思いがあればーー」
「きみがメロディーでーー」
「あなたがリズムよーー」
歌声は、風にのり、波をこえて、どこまでも飛んでいきます。
空までも、どこか遠くの星までも。
ベルカント先生とオルフェ先生を見送ったら、おなかがぺこぺこになっていることに気がつきました。
歌うって、おなかがへるのです。
チョピットたちは、もってきたおにぎりをほおばりました。
ほんのりきいたしお味が、三人の心にじんわりしみわたります。
「ああ、おいしいね」
「おいチーチー!」
「ハイ! おいしいです!……あっ、これはもう『おにぎりのうた』ですね!」
ああおいしいね、おいチーチー、ハイ!おいしいです♪
ああおいしいねったら、おいチーチー、ハイ!おいしいです♪
ーー届けたい思いがあれば、歌は自由。
そして、その思いは、きっと届くのでしょう。
だれかの心に。
じぶんの心に。
さっき大きな声でうたった、
「だいすき」の気持ちみたいに。
