宇宙人チョピット①『はじめまして! チョピットです』
『はじめまして! チョピットです』
ストーブの上においたやかんが、しゅんしゅんと音をたてています。
トラのトラチャンが、大きな肉球で、湯気でくもった窓をきゅっとぬぐってみると、外はぽってりとした雪が降っていました。
トラチャンは、ぶるっと身ぶるいをひとつすると、こたつにもぐりこんで、アイスクリームのふたを、そうっとあけました。
「さむい日に食べるのが、おいしいんだよね」
そういって、ふたのうらを、ペロっとなめた、そのとき…
とつぜん玄関のドアがガチャッとあいて、
「ただいまー!」
と、元気な声がきこえてきました。
「えっ!」
トラチャンはびっくりして、耳がひゅっ!ぺたん!となりました。
トラチャンはひとり暮らしですから、この家に「ただいま」というのは、トラチャンだけのはずです。
こわごわのぞいてみると、そこには、雪がどっさりつもった傘をさした、見たこともない子が立っていました。
頭には、雲みたいにもこもこした頭巾をかぶっています。
…にんげんの、子どもかな?
いいえ、だっておしりには、ぴこぴこ動く、丸いしっぽ…
「あ、あの…どちらさま…?」
おっかなびっくりしながら、トラチャンが聞くと、その子はにっこり笑っていいました。
「ハイ! ワタクシ、ピピット星からやってまいりました、宇宙人チョピットともうします! ハジママ…ハジテマテシシ…ハジメマシテ!」
そうしてチョピットは、傘につもった雪をぱくっと食べて、その傘を、肩からかけた小さなポシェットに、まるで魔法のようにシュッとしまいました。
「ウチュウジン…⁈」
あまりのことに、トラチャンは口をあーんぐり。
トラチャンがかたまっている間に、チョピットは、楽しそうにおしゃべりを続けながら、トコトコと家にあがってきました。
「チキュウではですね、家にはいるときに『ただいま』っていうと聞きました!」
「いやあの、でもそれは、自分の家に帰るときなんだけど…いったいだれにそう聞いたの?」
「チョットチーチーチーの、チーチーです!」
そのとき、チョピットの頭巾が、もぞもぞっと動いたかと思うと…
ぴょこっ!
ちょんとした小さな目、黄色いくちばしに、すみれいろをしたふわふわの羽のことりが、「よんだ?」と顔をだしました。
「キャッ!」
おどろいたトラチャンは、どっしんと、しりもちをつきました。
チーチーは頭巾から飛び出すと、羽をパタパタさせながら、トラチャンのことをじーっとみつめて、いいました。
「おなまえを、ドーゾ」
「え?ぼく? えっと、トラチャンです…」
「トラチャンはトラです。ほにゅう類ネコ科ヒョウ属の大型肉食動物。勇敢で恐れ知らず。するどい牙と爪をもち、きわめて危険なやつチーチー」
トラチャンは、あわてて首をふりました。
「勇敢で恐れ知らずなんて…ぼく、ちっちゃな虫でもこわいのに…」
チョピットも、まゆげをひそめます。
「きわめてキケン、なやつ…にも見えませんが?」
「そんなに強そうに見えないっていいたいんでしょ? そうだよね、トラなのに弱いなんてヘンだもんね…」
そういって、トラチャンは、りっぱなひげをしょぼんとさせました。
するとチョピットは、目をキラキラさせていいました。
「ハイ! とーっても、『ヘン』です!」
「ええっ!」
いくらなんでも、はっきりいわれて、トラチャンはびっくり!
「やっぱりヘンか…。ぼくはトラ失格だね」
だけど、チョピットは、なんだかとってもうれしそう。
ぴょんぴょんはねて、こういいました。
「シッカク…? いいえ、シカクじゃなくて、サンカクじゃなくて…えーっと、マルマル…メマル…クチマル?…あ! おもいだしました! ハナマルです! とーってもヘンで、ハナマルです!」
「ヘンで、ハナマル…?」
きょとんとするトラチャンの耳元で、チーチーがいいました。
「ピピット星では、『ヘン』は『自分にしかない宝物』という意味で、最高のほめ言葉だチーチー。『ヘン』っていわれたら、お礼をいうのがマナーだチーチー」
なるほど、チョピットをみると、いかにもお礼をいってもらいたそうな顔で、足をくにゃんくにゃんさせています。
「えっと…あの、『ヘン』ってほめてくれてありがとう」
トラチャンがそういうと、チョピットは、ぽっとほっぺを赤くしました。
「ハイ! 『ヘン』は、ユイーツムニュ…ユイイツ…ムニ! 唯一無二のタカラモノです!」
それから、
「あっ! あれはなんですか!」
と、トラチャンがこたつの上においていたアイスクリームにかけよりました。
するとすかさずチーチーが、
「それは『ユキ』だチーチー。食べるとつめたくてあまくてとろけるチーチー」
と、とくいげにいいました。
「『ユキ』ならここにくるまでずっと食べながらきましたが、ちっともあまくなかったですよ」
チョピットはそういって、チロリとチーチーをにらみました。
トラチャンは、思わずぷっとふきだして、
「これはアイスクリームだよ。よかったらどうぞ」
と、もうひとつアイスクリームをもってきて、チョピットとチーチーにすすめました。
「ふたのうらをペロっとなめるとおいしいんだよ」
トラチャンをみならって、チョピットも、ふたについたアイスをペロっとなめてみます。
「ナナナナ!ナンデスカコレハ! つめたくてあまくてとろけますぅ~」
チーチーも、興味しんしんで、チョンチョンとアイスをつつきました。
「コレはコレは! とっても『ヘン』な味がするチーチー!」
「ふふふ。『ヘン』ってほめてくれてありがとう」
トラチャンは、アイスクリームにかわって、お礼をいいました。
そうして三人は、こたつにならんで、アイスクリームを食べました。
「おいしいものをいっしょに食べる! これを『カゾク』というチーチー」
チーチーが、えっへん!といばっていいました。
「うーん、それはちょっとちがうかなぁ」
トラチャンが首をかしげると、
「では、なんといいますか?」
おかわりしたアイスクリームのふたをなめながら、チョピットがたずねました。
「そうだねぇ…『なかよし』…かな?」
「『なかよし』! とってもいいです! トラチャンとチョピットは『なかよし』です!」
チョピットに「なかよし」といわれたトラチャンは、なんだかうれしくて、しましまのしっぽがぴょんとはねました。
やがて、
「ワタクシは、もうチキュウの『ネココ』です…」
アイスクリームを3個たいらげたチョピットが、うっとりうとうとしながらいいました。
「それをいうなら『トリコ』だチーチー…」
チーチーも、むにゃむにゃそういって、チョピットの頭巾にもぐりこみました。
トラチャンは、チョピットのちいさな背中に、そっと毛布をかけました。
(だれかに『ただいま』っていわれるのもわるくないな)
いつのまにか雪はやんで、まっしろになった窓の外は、おひさまの光をうけて、気持ちよさそうにかがやいています。
ピピット星からきた宇宙人チョピット。
これからなにかが始まるような…そんな予感がして、トラチャンは、ひげのあたりがムズムズしました。
「ようこそ、地球へ…宇宙人のチョピットさん!」
