宇宙人チョピット⑧『トラチャン、かぜをひく』
『トラチャン、かぜをひく』
「はーーーーっくしょん!!」
おうちがボンっ!とふくらむほどの大きなくしゃみ!
チョピットが、ヒャっ!ととびあがってふりむくと、かわいそうに、トラのトラチャンが、目をしょぼしょぼ、しっぽもひげもだらんとさせて、鼻水をツツ―っとたらしていました。
「トラチャン、どうしましたか? からだがしぼんでます!」
チョピットがかけよると、トラチャンが、ガラガラ声でいいました。
「ぼく、かぜをひいちゃったみたい…」
「カゼ? ひゅうっとふいて、葉っぱをさわさわーっとさせる、あの風ですか?」
ピピット星からやってきた、宇宙人チョピット。
チョピットは、かぜをひいたことがありません。
すると、そのチョピットがかぶっている、まっしろい雲みたいな、もこもこした頭巾から、すみれいろのふわふわしたことり、チーチーが、ぴょこっと顔をだしました。
「その風じゃないチーチー!」
物知りなことりチーチーは、チョピットのチョットチーチーチーです。
「トラチャンがいう『かぜをひく』とは、ウイルスの侵入によって、発熱、鼻水、せき、倦怠感などを引き起こし……つまり、元気エネルギーが低下することだチーチー!」
「それは大変です!」
だいすきなトラチャンの大ピンチ!
「ワタクシ、元気がでるダンスをします!」
そういって、チョピットは、ぺったらぺったら、どんどんどん、と、へんてこなステップをふみはじめました。
「どうですか? トラチャン、元気でましたか?」
ハァハァと息をきらせて、トラチャンをみると…
トラチャンは、こまったようにわらいながら、まっかな顔でふぅふぅいっています。
「元気、でてないですね…」
「こんなときは、水分をたっぷり、それからあったかくするといいチーチー!」
「水分…あったかく…わかりました!」
チョピットは、洗面器にたっぷりの水をいれて、よいしょよいしょ、とはこんでくると、トラチャンのまっかになった顔を、ジャブジャブあらいました。
「水分、オッケーです!」
それからこんどは、肩からさげた小さなピンクのポシェットから、毛布をつぎつぎひっぱりだして、トラチャンを、雪だるまみたいにぐるんぐるん巻きにしました。
「あったかい、オッケーです!」
ところが…、ああ、だめだめ!
トラチャンは、ますますまっかになって、ずいぶんくるしそう。
「どうしましょう、どうしましょう」
「もう方法がないチーチー!」
チョピットもチーチーも、オロオロするばかり。
と、そのときです。
「おーい!」
外から大きな声が聞こえてきました。
チョピットが窓からのぞいてみると…
「ロクさん!!」
そこには、頭にねじりハチマキをまいた、クマのロクさんが、相棒の自転車といっしょに立っていました。
「おう! 元気にしてるか!」
クマのロクさんは、パン屋さんです。
いつも、相棒の自転車にのって、やきたてのパンを配達しています。
すこし前に、チョピットたちが、ロクさんの自転車をたすけたことがきっかけで、すっかりなかよくなったのでした。
「ロクさ~ん!」
とびだしてきたチョピットの様子をみて、ロクさんはおどろきましたが、チョピットとチーチーの話をきくや、
「よし、まかせろ!」
と、たのもしくいってくれました。
ロクさんはまず、ぐるんぐるん巻きの毛布をほどいて、トラチャンをベッドにねかせ、おふとんをそっとかけました。
それから、キッチンへいくと、おなべにミルクをいれて、弱火であたためました。
そこに、自転車の荷台からもってきたパンをちぎってひたして…
ことこと、ことこと。
パンがとろっとしてきたら、バターをすこし。
はちみつを、たらぁり。
ふわふわでやさしい、「パンがゆ」のできあがりです。
「ほわぁ…」
うっとり湯気につつまれながら、チョピットたちもひとくち…
ふうふうして口にはこんだら、ほろっととけたパンがほんのりあまくて、心まで、じんわりぽかぽかしてきました。
トラチャンも、ひとくちたべたら、ほぅっとにっこり。
もうひとくち、もうひとくちと、あっというまに、きれいにぜんぶたいらげました。
「これで熱もさがるといいんだが」
ロクさんは、トラチャンのおでこにつめたいタオルをのせました。
「ロクさん、トラチャンをたすけてくれてありがとうございます」
「ありがとうだチーチー」
チョピットとチーチーが、ロクさんにおれいをいうと、
「なぁにいってやがんだい。おまえさんたちのおかげだよ」
ロクさんが、わらいました。
「でも…ワタクシたちは、どうすればいいかわからなくて、トラチャンを元気にできなかったです」
「できなかったチーチー」
しょんぼりするふたりに、ロクさんがいいました。
「どうすればいいかわかんねぇときは、だれかにたよればいいのさ。
おまえさんたちは、それがちゃんとできたじゃねぇか」
そうしてクマのロクさんは、ふたりに手をふって、また相棒の自転車にのって、帰っていきました。
トラチャンは、ロクさんのパンがゆをたべて、すこし元気がでたようでしたが、ほっぺはまだあかく、おでこはあついままでした。
チョピットは、トラチャンのそばをかたときもはなれず、ロクさんに教わったとおり、ぬるくなったタオルをとりかえたり、あせをふいたりしています。
ですが、とりかえてもとりかえても、タオルはぬるくなるばかり。
「だれかに、たよる…」
チョピットとチーチーは、ロクさんの言葉をおもいだして、顔をみあわせました。
それからこしょこしょ相談するとーーー
「チーチー、たのみましたよ!」
「まかせてチーチー!」
チーチーが、チョピットの頭巾から、ぴゅんっ!と、空へとびたちました。
やがて、あたりがうすぐらくなってきたころ、チーチーが、だれかをつれて帰ってきました。
「ポンポン!」
オバケのポンポンです。
シーツをかぶったような形のオバケのポンポンは、いつだったか夜の公園でひとりぼっちでいたところを、チョピットたちに出会って、なかよくなったのでした。
「ひやすことなら、あたしにおまかせ!」
ポンポンはそういって、ふうぅ~っと、つめたい息をはきました。
そしてその空気を、ねんどみたいにこねこねして、ぽちょん、とトラチャンのおでこにのせました。
トラチャンが、ほうっと気持ちよさそうにわらったのをみて、ポンポンは、「ねっ!」とウインクして、すぅっと夜のなかに消えていきました。
つぎの日の朝。
「ピンポーン!」
いつのまにねむってしまったのか…げんかんのベルで目をさましたチョピットがドアをあけると、トラチャンのおばあちゃんから、「りんごのコンポート」がとどいていました。
きのう、チーチーから知らせをうけたおばあちゃんが、いそいで作って送ってくれたのです。
ーーーはやく元気になるんだよ
おばあちゃんからのメッセージをつたえるように、つやつや光るりんごのコンポート。
ふわりとかおるシナモンに、三人のおなかが、グーっとなりました。
…三人?
そうです。
ふりむくと、ずいぶんと顔色のよくなったトラチャンも、おなかをおさえて、「えへへ」とわらっていました。
「トラチャン!」
「元気になったチーチー?」
チョピットとチーチーは、トラチャンにとびつきました。
トラチャンの熱も、どうやらすっかりさがったようです。
「チョピット、チーチー、たすけてくれてありがとう」
トラチャンが、ふたりをぎゅっとしました。
「ワタクシたちじゃないです」
「みんながたすけてくれたチーチー」
するとトラチャンは、ふたりをますますぎゅっとして、いいました。
「ふたりはずっとそばにいてくれたじゃないか」
♡♡♡
元気になったら、なにをたべたいかって?
それはもちろん、だいすきなアイスクリームです。
しかもきょうは、おばあちゃんがつくってくれた、りんごのコンポートをのせた、とくべつなアイスクリーム!
あ、でもちょっとまって!
ふたのうらについたアイスをぺろっとするのもわすれずに…それができたら、もう元気になった証拠です。
三人は、なかよくせーの!でぺろっとして、それから、とくべつなアイスクリームをたべました。
あまずっぱいりんごと、つめたくてあまいバニラが、舌の上でとけあって、それは、今まででいちばん、しあわせな味がしたのでした。
