~アイとはなにか~33歳婚約破棄で絶望した先に見えたもの エッセイ
(私…何してるんだろう)
穴の開いた障子、すきま風が入り込む古びた木製の襖(ふすま)。
冬の冷たい風が容赦なく吹き込む。
そして、時折聞こえる異国の言葉。
外は雪景色だった。
ど田舎で田んぼが一面真っ白で美しい…と感じる余裕は今の私には無い。
築50年くらいだろうか?
何年経つか分からないほどオンボロな木造アパート。
ここは中国人やベトナム人が住んでいる社員寮だ。
(一週間前まで、彼と一緒に戸建てで暮らしていたのに…)
今は年が明けたばかりの最初の土日。
お正月を楽しんで仕事が始まる直前の土日だから気分が憂鬱…という訳ではない。
(この後、退職決定日まで働いて…それで…)
私はとても憂鬱だった。
本当はもう仕事に行きたくない。今すぐ辞めて縁もゆかりも無いこの土地から離れて地元に戻りたい。
でも迷惑をかけてしまっている今、せめて向こうが指定した期間までは出勤しなければ…。
外ではしんしんと雪が降り積もっていた。
私はあの時のことを思い出していた。
「何…これ…」
私はぼんやりと手元の紙を見ていた。
『700万』
それは高額な借用書だった。家のローンではない、また別だ。
彼は借金を隠していた。
それだけでなく、過去の女性問題も隠していた。
お金の話は付き合う前に話していた。
でも気づかなかった。
何がいけなかったのだろうか。
アプローチがスムーズだったからそこに惹かれたところ?
バツイチで家持ちだから、逆に楽かもって安易に考えたところ?
それとも…。
考えたらきりが無いし、今の私には考えても分からない。
もう彼とは暮らせない。
私は家を飛び出した。
「ララさん、逃げてもいいんですよ」
…?
私は俯いていた顔を上げて目の前に座る男性を見た。
「こういうときは無理しなくていいんです」
若い派遣会社の担当者がまっすぐに私を見て力強く言った。
職場は家に住めなくなった私に社員寮を貸してくれた。
私はつい先日、結婚前提のお付き合いをし、一年間の遠距離恋愛を経て同棲を始めた彼の家を出て、外国人労働者が住む派遣先の社員寮に引っ越していた。
家を出ることになったのは、同棲を始めてわずか二か月程の出来事だった。
(なんでそんな風に言ってくれるんだろう?)
私はぼんやりと彼を見た。
私は疲れきっていて、とにかく落ち込んでいて、あまり頭が回っていなかった。
(今までの派遣担当者は、こんな風に言ってくれる人いなかったな…。)
でも、働き始めてわずか一か月程度、しかもこんな忙しい時期に急に辞めて逃げることはできない…と思った。
私は派遣先の上司が私のことで揉めているのを少し聞いてしまったのだ。
本当は、今すぐ辞めたかった。
「いえ…ご迷惑おかけしているので…少しでも働いて欲しい、というのであれば…」
私は目を伏せて自信なく呟いた。
それからしばらくして仕事を辞め、地元に戻り実家に帰った。
正直会社を休んでしまった日もあった。
職場や役所等、必要な手続きを無の感情で終わらせた後、私は実家のベットで死んだように眠った。
何日も何日も…起き上がる気力が湧くようになるまで。
憂鬱で何もできないし、考えたくないと思った。
親はありがたいことに、「すぐに働け」とは言わなかった。
静かに回復を待ってくれた。
そして月日が経ち、何かを考える元気が少し戻ったとき。
「愛ってなんだろう?」
考え出すと止まらなかった。
私の好きって、間違ってた??
愛があればお金なんて関係ない、そんなフレーズを思い出した。
『俺は相手の病気がどうとかって気にしたことないな』
私は彼が言った言葉を思い出していた。
自分は健康で、相手が病気を患って結婚することになっても気にしない。
そういう考えの人だった。
付き合ってしばらくして私は体調が急変して病院に行くことになった時。
『仕事午前休取ってそっち行くよ』
彼は高速で2時間かけて私の住んでいる場所まで来てくれた。
一緒に病院に付き添ってくれた。
私がそこで緊急入院することになった時。
コロナの時期で面会が禁止されていて会えず、入院が長期間になってしまい振られてしまうのではと、とても不安だった時。
彼は電話先で落ち着いた声で『待ってるよ、安心して』と言ってくれた。
私は彼に感謝していたし、彼をさらに好きになった。
私って間違ってた??
『苦労するって分かってて結婚する必要はないよ』
そんな家族のセリフが、静かに私の心に蓋をした。
私は愛について日々考えていた。
【愛するということ】エーリッヒ・フロムの哲学書を読んでみた。
悩みすぎてスピリチュアルに出会った。
興味があって恋愛リアリティーショーも観てみた。
そして、アインシュタインが娘へと宛てたとされる手紙を読んだ。
愛って、なんかいいな。
頭で考えるのもいいし、感覚的に感じるものも素敵だな。
私は「思考」と「感性」両方に集中した。
“色々経験して、自分も相手も大切にしたいと思うようになりました”
ふう、と深呼吸し、私はプロフィールにこう付け足した。
私は婚活を再開していた。
何人か男性と出会った後。
少し真面目そうで、身長が高くて体格が良く、男らしさを感じた1つ年下の男性とデートをすることになった。
「初めまして、よろしくお願いします」
「初めまして、こちらこそよろしくお願いします」
彼は少し緊張した面持ちでお店に入った。
ランチメニューを選ぶ手が少し震えていて、やっぱり緊張されているんだな、と感じた。
少し和やかな会話が続いたあと、彼は言った。
「自分も、ララさんのプロフィールに書いてあることをすごく実感したことがあって…自分も相手も大切にしたいって点」
私は少し驚いたと同時に嬉しかった。
彼がそう思った経緯を聞きたいと思った。
彼とは次回もデートをすることになった。
ー愛することー
私の中で出した結論は、「自分を大切にし、相手も大切にすること」。
悩みぬいた私の結論はこれだった。
無償の愛とか、深く人を愛するとか、難しいことはよく分からない。
でも、「自分を大切にし、相手を大切にする」これが私の第一歩な気がした。
自分に自信がなかった。
だから自分を蔑ろにしてきた気がする。
自分を大切にするだけでもダメだ。
自分がかわいいからって自己中になってはいけない、相手のことも大切にしたい。
自分に自信が無く、こんな私だからこんな風にされて当たり前。
そんな考えは無くしていきたい。
これまでの心の傷が、いつ癒えるか分からない。
この婚活の結末がどうなるか、分からない。
未来は私には分からない、誰にも分からない。
不安でいっぱいで弱い心を抱えている。
けれど私は進むしかない。
時には立ち止まることはあっても、進まなければ何も変わらないから。
たくさんの心の傷と少しの希望をもって。
私は今日を歩んでいく。
※本作は私の実体験をもとにしたエッセイです
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