『日本人拉致』蓮池薫
1978年に北朝鮮に拉致され2002年に帰還を果たした著者が、24年におよぶ北朝鮮での生活と経験を振り返って克明に書き記すと共に、俯瞰的かつ詳細な分析を行っています。当事者による貴重な一次資料であり、かつ読み物としても極めて興味深い内容です。
著者が、どの時期にどこで暮らし、どのような立場で、何をさせられていたか、その時々に何を考えて過ごしていたか。自身による記録であるだけに、非常な重みがあります。独裁体制の管理下にあって自由がない生活の苦しさが伝わるのと同時に、それなりに特別待遇されている層に属しているが故の心苦しさも吐露されていて、読んでいて辛いものがありました。マインドコントロールされつつも、客観的な冷静さも失われていなかった著者の、やり場のない心境が随所に滲み出ています。
多くの外国人を拉致したものの、場当たり的なやり方を繰り返していたために、度重なる方針転換を余儀なくされ、結果的に北朝鮮にとって得たものは殆どなかった実態も分析されています。また、他の日本人拉致者との交流や知り得た消息の事実から、未帰還者に関して死亡等として片付けようとする北朝鮮の言い分の出鱈目さが、はっきりと言明されています。あまりにも無意味に、多くの人々の人生が台無しにされている訳で、本当にやり切れないです。
一方で、国の言いなりに動いている人が多い中にあって、真に親身になってくれた現地の人がいた事も、著者は強調しています。国家体制(に限らず何らかの組織)が異常だからと言って、そこに属する全員が異常な訳ではない、そんな当たり前だがつい忘れがちな事を、改めて肝に銘じておきたいです。
そして著者を何よりも突き動かしているのは、未帰還者への想いであり、問題が忘れられることへの危機感です。今この瞬間も未帰還者は北朝鮮で不本意に暮らしているのであり、事件が現在進行系であることを忘れてはならないです。

