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それを恋と呼ぶには、あまりにも呪いだった

私はずっと、やすばの亡霊だ。

「だった」じゃない。

今もなお、現在進行形で。

何年も前に終わった話なのに。

本人たちは前を向いているのに。

世界は変わったのに。

私は未だにあの日から置いていかれている。

最近になってようやく気付いた。

私は渋谷すばるを恨んでいるわけじゃなかった。

私はただ、約束を破られたことが悲しかったのだ。

子どもみたいに。

ただそれだけだった。


ここで少しだけ説明をさせてほしい。

やすば。

それは関ジャニ∞の渋谷すばると安田章大のコンビ名だ。

アイドルを好きな人なら分かると思う。

グループには自然と名前の付く組み合わせが生まれる。

仲の良い二人。

シンメトリー。

人気のペア。

そういうものだ。

だけど私にとってのやすばは、そういう言葉では少し足りなかった。

渋谷すばるは関ジャニ∞のメインボーカルだった。

圧倒的な歌声を持つ人だった。

安田章大はギタリストだった。

優しくて。

繊細で。

誰よりも愛情深い人だった。

二人は正反対だった。

だからこそ惹かれ合ったのかもしれない。

歌う人と支える人。

炎みたいな人と、水みたいな人。

光と影。

そんなふうに見えていた。

そして何より。

二人は音楽で繋がっていた。

私はその関係が好きだった。

いや。

好きというより、信じていた。

お互いを理解しようとして。

支え合って。

ぶつかって。

それでも隣にいる。

そんな関係性がこの世に存在することが嬉しかった。

だから私はやすばが好きだった。

というより。

やすばという世界を信じていた。


私がやすばを好きになったきっかけは、たまたま見たテレビだった。

『ぐるぐるナインティナイン ゴチになります』。

そこに出演していた渋谷すばると安田章大。

当時の安田章大は今よりずっと可愛らしい雰囲気を纏っていて、私はただ思った。

「可愛い男性アイドルがいるな」

その程度だった。

関ジャニ∞にも詳しくなかった。

やすばなんて言葉も知らなかった。

だけど人を好きになるきっかけなんて案外そんなものだ。

そこから歌を聴いた。

番組を見た。

雑誌を読んだ。

ライブ映像を見た。

気付けば私は二人を追いかけていた。


渋谷すばるは言った。

「渋谷すばるは安田章大のギターでどこまでもいけるみたいです」

私はこの言葉が大好きだった。

本当に大好きだった。

だってそう見えたから。

渋谷が歌う時。

その隣には安田がいた。

安田がギターを弾く時。

その音を受け取るのは渋谷だった。

二人は音楽で繋がっていた。

だから私は信じていた。

この二人はどこまでも行くのだと。


渋谷すばるはブログでこうも書いていた。

「やす、いつも本当にありがとう。

優しさ、熱さに何度も助けられてます。

運命共同体。

どうせ死ぬまで一緒。

だったら行ける所まで行くだけの事やな。

これからも仲良くしてくれよ。」

私はこの文章が大好きだった。

今でも好きだ。

何年経った今でも。

だから苦しい。

運命共同体って言ったじゃん。

どうせ死ぬまで一緒って言ったじゃん。

行ける所まで行くだけって言ったじゃん。

なんで。

なんで離れたの。

なんで別々の道を選んだの。

私は今でも分からない。


2018年。

渋谷すばるの脱退が発表された。

頭が真っ白になった。

信じられなかった。

信じたくなかった。

誤報だと思った。

何かの間違いだと思った。

だってありえないじゃないか。

運命共同体だったのに。

どこまでも行けるって言っていたのに。

どうせ死ぬまで一緒って言っていたのに。

なのに。

なんで。

なんで置いていくの。

私はその言葉だけを繰り返していた。

怒りだったのかもしれない。

悲しみだったのかもしれない。

絶望だったのかもしれない。

今となっては分からない。

ただ一つだけ分かる。

私はあの日から取り残された。


そして私が一番許せなかったのは。

安田章大の休養と、渋谷すばるの脱退が重なったことだった。

なんで今なんだ。

なんでそのタイミングなんだ。

ふざけるなと思った。

安田がどれだけ苦しかったか。

どれだけ不安だったか。

私には分からない。

でもきっと。

どんなに辛くても。

どんなに苦しくても。

安田章大は渋谷すばるを笑顔で送り出したんだろう。

私はそう思う。

だってあの人はそういう人だから。

だから余計に苦しい。

それは優しさだったのか。

愛だったのか。

それとも。

渋谷すばるへの一生解けない呪いだったのか。

私には分からない。


私は『desire』が大好きだった。

渋谷すばると安田章大。

二人がお互いを想って作詞作曲した歌。

壊れそうなガラス細工みたいな歌。

透明で。

繊細で。

触れたら消えてしまいそうな歌。

ある時ファンが聞いた。

「またライブで歌わないんですか?」

渋谷は答えた。

「歌いません。ウソついてもしゃーないから、正直に答えるよ。」

私はその言葉を聞いて泣きそうになった。

悲しかった。

寂しかった。

でも同時に思った。

ああ。

この曲は二人にとっても特別だったんだな、と。

軽々しく歌えないくらい。

思い出として消費できないくらい。

大切だったんだな、と。


そして『ゆ』。

数年後に二人が書き下ろした曲。

作詞は渋谷。

「まだ夢の途中

まだ夢の途中

見て見ぬふりをしてたら置いてかれるから

だからどこまでも進む

どこまでも続く」

私はその歌詞が好きだった。

だって未来があったから。

続いていくと思ったから。

夢の途中だと思ったから。

でも違った。

二人の進む道は別れた。

平行線になった。

きっともう交わらない。

私はその事実を受け入れられない。


昔の雑誌の対談も好きだった。

渋谷が言う。

「昔はよく2人でカラオケ行ってたけどな」

安田が笑う。

「男2人でバラード歌ったりな」

渋谷が続ける。

「実はヤスのこと、落とそうと思ってて。でも堅かったわ〜(笑)」

安田が返す。

「ホンマは落ちてたんやけどな。そういうのも、ちゃんと伝えなあかんな〜(笑)」

冗談だ。

そんなことは分かっている。

でも好きだった。

たまらなく好きだった。

しかもその時歌っていたのはKiroroの『長い間』だった。

そんなエピソードまで含めて好きだった。


ミサンガもあった。

お揃いの指輪もあった。

渋谷が安田に提案した互いのメンバーカラー。

安田は赤を身につけ。

渋谷は青を身につけた。

まるで。

まるで世界中に向かって。

「こいつは特別だ」

と宣言しているみたいだった。

私はそんな二人が好きだった。

シンメなんて言葉じゃ足りない。

共依存だったのかもしれない。

独占欲だったのかもしれない。

二人で一つの悲しい生き物だったのかもしれない。


安田章大がライブで読んだ手紙も忘れられない。

「グループにとって、あなたは誰の代わりにもならない大事な人です。

そして、僕の友達としても、代わりはいない大事な友達です。

だから、これからも、一番とは言わんけど、

メンバーの中で何番目かに愛してください。

これからもよろしくね。

ありがとう。」

私は泣いた。

だって。

こんな言葉。

一番に愛されたことがある人しか言えないじゃないか。

私はそう思った。


安田章大も。

きっと渋谷すばるが好きだった。

好きなんて言葉じゃ足りないくらい。

もっと深い何かで包んでいた。

愛していた。

そう言ってしまいたくなるくらい。

深く。

優しく。

温かく。

包んでいた。

なのに。

渋谷はその手を振り払ってしまったように見えた。

もちろん違うのかもしれない。

でも私にはそう見えた。

だから苦しかった。


私はずっと思っていた。

これからも一緒にいるのだと。

関ジャニ∞が終わっても。

年を取っても。

芸能界を辞めても。

どこかで繋がっているのだと。

信じていた。

だけど違った。

私はその未来を失った。


そして何より苦しいのは。

今でも安田章大が大好きだということだ。

渋谷が辞めてから。

安田の見た目が。

安田の歌声が。

時々どうしようもなく渋谷と重なって見えるようになった。

だから私は直視できない。

一番の推しなのに。

大好きなのに。

苦しい。

安田を見ると渋谷を思い出す。

渋谷を思い出すと安田を思い出す。

だから終われない。

二人で一つの記憶になってしまったから。


そして私は思う。

私が失ったのは渋谷すばるじゃない。

安田章大じゃない。

やすばじゃない。

私は。

二人が音楽という繋がりを通して見せてくれていた世界を失ったのだ。

渋谷の歌があって。

安田のギターがあって。

二人がお互いを見ていて。

二人がお互いを信じていて。

二人だから見えていた景色があった。

私はその景色が好きだった。

その世界が好きだった。

だから悲しい。

だから悔しい。

もう二度と見られないから。


そして私は安田章大の人生を思う。

髄膜腫になった。

手術をした。

後遺症が残った。

光が苦手になった。

色付きメガネがないと生活もままならない。

人々に笑顔を届ける存在が。

人前に立つアイドルが。

「光」に苦しめられている。

なんて皮肉なんだろう。

私は何度も思った。

神様はなんて残酷なんだろう、と。

でも同時に思った。

生きていてくれてありがとう、と。

生きていてくれるだけでいい、と。


たぶん私は今でもぐずっている。

約束を破られた子どもみたいに。

運命共同体って言ったじゃん。

どこまでも行けるって言ったじゃん。

どうせ死ぬまで一緒って言ったじゃん。

約束したじゃん。

なんでなの。

どうしてなの。

私は今でもそう思っている。

みんな前に進んでいる。

渋谷すばるも。

安田章大も。

ファンも。

みんな。

でも私はまだ進めない。

置いていかれている。

あの日のまま。


私の呪いは解けるのだろうか。

分からない。

一生解けないのかもしれない。

でも。

今はまだ向き合いたい。

忘れたくない。

だってこの呪いは。

私が本気で信じた証だから。

本気で愛した証だから。

本気であの世界を美しいと思った証だから。

私はずっと、やすばが好きだったのだと思っていた。

渋谷すばるが好きだった。

安田章大が好きだった。

二人の関係性が好きだった。

そう思っていた。

でも違ったのかもしれない。

私はあの二人が見せてくれた世界に恋をしていた。

渋谷の歌声と安田のギターが重なった時にだけ見える景色。

言葉にできない信頼。

運命共同体という約束。

どこまでも続いていくと信じていた未来。

私はあの世界を愛していた。

だから失った。

だから苦しい。

だから何年経っても前に進めない。

恋なら。

いつか思い出になるのかもしれない。

恋なら。

いつか「好きだったね」と笑える日が来るのかもしれない。

だけど私は今でも問い続けている。

運命共同体って言ったじゃん。

どこまでも行けるって言ったじゃん。

どうせ死ぬまで一緒って言ったじゃん。

約束したじゃん。

なんでなの。

どうしてなの。

こんなにも長い間。

こんなにも深く。

私の心に棘を残し続けるものを。

失った今もなお、私を縛り続けるものを。

きっと恋とは呼ばない。

だから私は今日も、やすばの亡霊のまま生きている。

それを恋と呼ぶには、

あまりにも呪いだった。

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