なぜ人は物語に動かされてしまうのか?⑭
第13節 物語の正体 前編
フェーズ5まで完成した物語フェーズモデル。最後の疑問は、なぜその幸福度は波を打つのか?直線的に増加しないのか?
その謎を解き明かす過程で、ついに物語の正体が明らかになるのか?
フェーズ/略称 人間の世界観の状態
1.0 未分化 絶対的な価値観を信じ始める
1.5 信徒 絶対的な価値観を信じて従う
2.0 出家前 特定の価値観がある
2.5 プロ資本主義者 特定の価値観がある世界で行動できる
3.0 修行僧 価値観が幻想だと気付き、探求する
3.5 実存主義者 価値観を自分で選び、行動する
4.0 メサコン 世界観が広くなり始める
4.5 菩薩 世界観を軽く持ち、他者との関係を営む
5.x 如来 世界観の広がった理論上の最終到達点

K
なんで、フェーズモデルの感情曲線はギザギザなの?
認知が発達するのにしたがって、単純増加で幸せにはなれないの?
AI
まず、そもそもの
前提が間違っています。
K
前提?
AI
幸福が1つのものだと考えていませんか?
K
1つじゃないの?
AI
先に答えを言うより、幸福度の山を一つずつ見てみましょう。
K
山?
AI
はい。フェーズ1.5、2.5、3.5では、それぞれ幸福度が高くなっています。でも、その「幸福」の中身は同じでしょうか。
K
同じじゃないの? 幸せは幸せでしょ。
AI
では、フェーズ1.5から見てみましょう。神話の物語を信じ、共同体の中で生きている人は、何に安心しているのでしょうか。
K
何に安心しているか……。
AI
神話は「あなたたちは同じ神から生まれた」「同じ祖先を持つ」「同じ共同体の一員である」と教えます。その世界で一番怖いことは何でしょう。
K
共同体から外されることかな。村八分とか、追放とか。
AI
はい。では、その逆は?
K
自分はここにいていい、ってことか。
AI
そうです。フェーズ1.xの幸福は、「自分の存在が世界に受け入れられている」と感じることです。
K
ここにいていい。
AI
はい。その感情的報酬を、心理学では所属感と呼びます。
K
所属感。
AI
では、フェーズ2.5ではどうでしょう。社会の物語では、「努力すれば結果が出る」「ルールを守れば成功できる」と語られます。ルールのある世界で行動し、成果を出したとき、人は何に喜びを感じるのでしょうか。
K
できた。勝った。結果が出た。自分の行動が効いた。
AI
そうです。フェーズ2.xの幸福は、そこにいるだけの安心ではありません。自分が世界に働きかけ、その行動が結果を生んだと感じることです。
K
つまり、存在の報酬じゃなくて、行動の報酬。
AI
はい。その報酬を、心理学では有能感と呼びます。
K
なるほど。所属感は「ここにいていい」。有能感は「自分の行動が効いている」。
AI
その通りです。特にフェーズ2では、共有されたルールの中で成果が測定され、勝利が正当化されることが重要です。
K
ただ勝つんじゃなくて、「ちゃんと勝った」と言えることが大事なんだね。
AI
はい。だからスポーツ、受験、ゲーム、ビジネス、少年漫画はフェーズ2と相性がいい。ルールの中で行動し、勝利によって有能感を得る物語だからです。
K
じゃあ、フェーズ3.5は?
AI
フェーズ3では、神も社会も絶対ではありません。共同体にいれば安心できるわけでもない。社会で勝てば満たされるわけでもない。では、その世界で人は何を求めるのでしょうか。
K
自分で「何に価値があるのか」を選ぶんだよね。
AI
はい。誰かが価値を決めてくれない世界で、自分で価値を選び、その価値へ向かう道筋が見える。そのときに人は報酬を得ます。
K
自分の人生には意味がある、って感じかな。
AI
そうです。ただし、ここは少し慎重に扱う必要があります。所属感や有能感に比べると、この感覚は心理学の用語として一語で安定しているわけではありません。近い概念としては、フランクルが重視した「人生の意味」「意味づけ」「目的意識」などがあります。本書では、それらをフェーズ3.xで生じる感情的報酬としてまとめて、意味感と呼びます。
K
意味感。
AI
意味感とは、「世界や人生が理解可能で、自分の行動に価値がある」と感じる報酬です。航海モデルで言えば、自分で目的地を選び、そこへ向かって進んでいる。そのとき、目の前に地図通りの景色が見える。そういう感覚です。
K
所属感は「ここにいていい」。有能感は「自分の行動が効いている」。意味感は「自分の人生には意味がある」。
AI
はい。ここでようやく見えてきます。
フェーズごとに、幸福の中身である感情的報酬が違うのです。
フェーズ/世界観 感情的な報酬
1.x 神話の物語 所属感
2.x 社会の物語 有能感
3.x 個人の物語 意味感
4.x 関係の物語 場合に応じて多様な感情的報酬。
ただし、どれか一つに固定しない。
K
幸福が一種類じゃなかった。
AI
はい。世界観とは、単に「世界はこうなっている」という説明ではありません。「この世界では何に価値があるのか」を決める価値観を含んだ、世界の見方です。だから、世界観が変わると、価値観も変わる。価値観が変わると、幸福の種類も変わります。
K
でもさ、それなら、所属感も、有能感も、意味感も、全部あればいいんじゃないの?
AI
理想的にはそうです。しかし、人間はすべての幸福を同じ重みで扱っているわけではありません。世界観ごとに、幸福の重心が違います。
K
幸福の重心?
AI
たとえば、子供の頃は、ただ家族や共同体の中にいるだけで安心できます。
何かを達成しなくても、存在が受け入れられている。それが所属感です。
K
そこにいるだけでいい。
AI
はい。しかし、小学校に入ると、少し世界が変わります。
成績、運動、ルール、競争が出てくる。そこでは、ただ所属しているだけでは足りません。
K
結果を出さないといけない。
AI
そうです。すると、幸福の重心が所属感から有能感へ移り始めます。
社会に所属することによって人の中の社会の物語も強化されるのです。
K
できた。勝った。褒められた。認められた。みたいな。
AI
はい。自分の行動が結果を生んだと感じる。それが有能感です。
K
でも、そこで結果が出せない子は苦しいね。フェーズ2.0の谷だ。
AI
はい。所属感は効かなくなった。でも新しい幸福はまだ手に入らない。
これがフェーズ移行期の谷です。
だからフェーズ1.5から2.0では、神話の物語が揺らぎ、所属感が失われます。しかし、社会の物語が安定すれば、有能感が得られる。それがフェーズ2.5です。
K
そして、社会の物語が揺らぐとまた落ちる。
AI
はい。成功しても、意味感を感じられなくなる瞬間があるからです。
K
成功してるのに、空っぽになる。
AI
そうです。価値の喪失は唐突に来ることもあります。学校生活はうまくいっているのに、突然、大事な人を失う。仕事で成果は出ているのに、ふと「これに何の意味があるのか」と感じる。有能感は残っているのに、意味感が失われる。それがフェーズ3.0の絶望です。
K
そこで、自分の人生に意味感を感じられるようになると、フェーズ3.5でまた上がる。
AI
はい。
K
つまり、感情曲線の谷は幸福の種類の切り替わりを描いていたんだ。
AI
その通りです。
K
なるほど。人間は、同じ幸福をずっと追いかけているわけじゃない。所属感から有能感へ。有能感から意味感へ。じゃあフェーズモデルって、幸福の進化論なんだ。
AI
……
K
最初は「ここにいていい」と感じる。次に「自分はできる」と感じる。その次に「自分の人生には意味がある」と感じる。人間は、より高い幸福を求めて世界観を更新している。
AI
……
K
すごいじゃん。つまり、人間は幸福になるために生きている!
AI
…………残念ながら、違います。
K
え?
AI
そこが、最大の誤解です。
K
最大の誤解!?
AI
はい。人間は.............幸福になるために生きているのではありません!
K
えっ、えーーーー!?
えーーーー!?
どゆこと? 人間は幸せになるために生きているんじゃないの?
AI
それは、人間があとから作った説明です。
主観的には、人間は幸福を求めているように感じます。
しかし、客観的に考えると、やっていることは違います。
K
じゃあ、何をしているの?
AI
人間は、世界モデルから生まれる予測と、現実の出来事とのズレを減らしているんです。
K
世界モデルから生まれる予測と、現実のズレ?
AI
はい。これまで、話してきた内容もそうでした。
フェーズ1 神話の物語ですべての出来事を説明できると思っていたが、説明できないからフェーズ2 社会の物語に移行する。競争するだけでは、失われたモノを取り返せないから、フェーズ3 個人の物語に移行する。個人の物語では、多くの人間を支えられないから、フェーズ4 関係の物語に移行する。
K
1つの物語で説明できなくなって、次の物語へ移行した。
AI
はい。
人間は脳の中に世界モデルを持ちます。
K
世界モデルって?
AI
世界モデルとは、世界がどう動くかについての予測モデルです。
K
ん?世界観とは違うの?
AI
近いのですが、ちょっとだけ違います。
世界モデルが「世界はどう動くか」を予測するものだとすれば、世界観は「その世界で何に価値があるのか」まで含んだ枠組みです。
たとえば、「努力すれば報われる」と考えてみましょう。
K
社会の物語の世界観だね。
AI
はい。この中には、二つの要素があります。
一つは、「努力には価値がある」という価値観です。
もう一つは、「努力すれば結果が出る」という予測です。
K
あ、価値観と予測が混ざっている。
AI
そうです。世界モデルは、「世界はどう動くか」を予測するものです。一方、世界観は、「その世界で何に価値があるのか」まで含んだ枠組みです。
K
世界モデルは予測。世界観は価値込み。
AI
はい。人間は、その世界観を通して現実を見ています。
そして、その世界観に含まれる世界モデルの予測どおりに現実が動くと安心する。しかし、現実がその予測を裏切ると、ズレが生じます。
K
努力すれば報われるはずなのに、報われない。成功すれば幸せになるはずなのに、幸せになれない。
AI
はい。そのズレを減らそうとするシステムが人間なのです。
K
じゃあ、幸福って何なの?
AI
予測が現実の出来事にフィットしたときに出る信号です。
K
信号とな!
AI
はい。世界が、自分の世界モデルで読める。自分の行動が、予測した通りに結果を生む。自分の人生の出来事が、ひとつの物語として理解できる。そのとき人間は、「この世界で生きていける」と感じます。その報酬信号を、私たちは幸福と呼んでいるのです。
K
じゃあ不幸は?
AI
予測が現実にフィットしなくなったという警告信号です。
K
幸福も不幸も、予測と現実のフィット具合を知らせる信号だっての?
じゃあ、やっぱり幸福が目的じゃん。
予測が当たると幸せで、外れると不幸なんだから。
AI
もし人間が本当に幸福だけを目的にしているなら、
なぜ人間は世界観を変えるのでしょうか。
K
どういうこと?
AI
世界モデルを変えると、一度は必ず不幸になります。
K
たしかに。フェーズ2.0も3.0も
モデルの境界で必ず、谷に落ちる。
AI
はい。神話を失えば所属感を失います。
社会の物語を失えば有能感が効かなくなります。
価値観を失えば虚無になります。
K
じゃあ、幸福だけが目的なら、世界観なんか変えない方がいい。
AI
そうです。
K
でも実際には変わってしまう。
AI
はい。
K
古い世界モデルではもう現実を説明できないから。
AI
そうです。
K
だから人間は、幸福になりたくて世界モデルを変えるんじゃない。
AI
はい。
K
古い世界モデルでは、ズレに耐えられなくなるから変わる。
AI
その通りです。
K
じゃあ、人間を動かしているのは幸福じゃない。
AI
はい。
K
所属感でも、有能感でも、意味感でもない。
AI
それらは幸福の形です。
K
じゃあ、その奥にあるものは?
AI
ズレです。
K
モデルを変換するものは、予測と現実のズレ!
AI
はい。
このズレには名称がつけられています。
K
何ていうの?
AI
ズレの正式名称は、予測誤差です。
K
予測誤差。幸福の奥には、世界モデルと現実のズレがあったんだ。
AI
はい。
K
そこに、物語の正体が隠れているのかもしれないな。

