犠牲を出したくないから将棋が弱い【エッセイ#94】
僕は将棋が弱い。
駒の動かし方がわからないわけではない。まったく先が読めないわけでもない。
“犠牲を出したくない”から、弱い。
将棋の対局を見ていると、相手の王将を追い詰めるために容赦なく犠牲を払う。
相手の『金』が一歩前にズレてもらうためだけに、味方の『銀』が犠牲になることがある。
『金』にたった一歩だけ前に行って欲しいがために、『銀』はその命を散らす。
「銀ーーーー!!」
僕は涙が溢れそうになる。
あいつは良いやつだった。いつも朝早くに起きて、1人で鍛錬に明け暮れたやつだった。
家族もいた。この戦が終われば、息子と魚釣りに行きたいと言っていた。
それが、奥に控える『角行』が相手の『王将』を狙うため、ただそのためだけに命を散らした。
犠牲は、これだけでは済まない。
相手の『飛車』、それに挑む味方の『歩』
相手は空飛ぶ車。完全にオーバーテクノロジー。
しかもランクアップすると『竜王』になる。
ドラゴンの王。絶対に強い。
対する『歩』は、ただの歩兵。
身軽な装備に、細い槍を一本持って、空飛ぶ車に戦いを挑む。
『4五、歩』
『同、飛車』
突き出した槍はあっけなく弾き返され、轢かれて返り討ちに合う。
「歩ーーーーー!!」
すまない、絶対に敵うはずもない相手に向かわせてしまった。
しかし、その犠牲は無駄にはしない!後ろに控えていた味方の『飛車』が、すぐに駆け出す。
『同、飛車』
これで敵は取った!『歩』よ、安らかに眠ってくれ。
『同銀』
「飛車ーーーーー!!」
もうやめよう、こんな戦い。そんな願いも届かず、各地で戦いは続く。
『1五、歩』
『同、歩』
『同、香車』
「歩ーーーーーー!!」
『同、香車』
『同、銀』
「香車ーーーーー!!』
もうやめましょうよ。命がもったいない。
僕は、なるべく全ての駒を生かしたまま、進めていきたい。
けれど将棋は、それを許してはくれない。
だから、いつになっても弱い。犠牲を払うことができないから。
余計なストーリーをそこに作ってしまうから、きっといつまでたっても将棋は強くなれないんだろうな。
あとがき
あまり将棋の棋譜をよく知らないので、詳しい方から見ると「そうはならないでしょ」と思われるところがあったかもしれない。
そこはご愛嬌いただけたら嬉しい。
この記事は、『岩男』さんの「岩男を笑わせろ杯」への参加記事です。
ちょっとでもクスッとしてもらえたら、これまた嬉しい。
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路上にチップもらう用のシルクハットを置いてパントマイムするの、実はやってみたかったんです