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小説『天使さまと呼ばないで』 第15話


ミカに連絡をしてきた人物、それは親友のナミだった。

久しぶりー!元気?そっちでの生活はどう?
ちょっと話したいことあるんだけど、今日電話できるかな?


一体何の要件だろう。とりあえず、夕方に電話するなら大丈夫だと伝えておいた。



ナミとは中学の時から友達だ。高校も一緒で、大学に進学したミカと違ってナミは看護学校に進学したが、それでも学生時代は月に一回必ず会っていた。

就職してからもその仲は変わらなかったが、ミカが結婚してからは会う頻度がぐっと減ってしまった。

それはミカが気兼ねなく夜に飲みに行けなくなったことも原因にあるが、一番の要因は、結婚したことで独身のナミに何となく優越感を抱くようになったことを悟られたくなかったからである。


昔から、ナミはミカよりもスタイルが良くて、顔も可愛くて、学校の成績も良かった。それに、ミカよりも早く彼氏ができたし、ミカよりモテていた。

ミカはそんなナミのことを尊敬していたし、自慢の友人だと思っていたが、一方で少しばかり嫉妬心も抱いていた。

ミカが結婚の報告をしたとき、ナミは笑顔で「おめでとう」と祝福してくれた。その少し前に、ナミは医者の彼氏と別れていたにも関わらず。

ミカはこう思った。

(私がナミよりも早く結婚できたなんて!私の方がナミよりも幸せな人生を歩めるなんて!!)


ナミは現在も独身だ。


ミカはナミのことが大好きだし、幸せになってほしいと心から願っている。しかし・・・しかし、自分が大手企業に勤めるコウタと結婚できて、ナミが医者の彼氏を逃してしまったことを考えると、どうしても少しばかり意地悪な笑みが溢れてしまうのだ。


(今までずっと嫉妬していたナミに、今度は自分が嫉妬される側になった!)


同時にミカは、そんな汚い感情を抱いてしまう自分を恥ずかしく思っていた。

ナミは、ミカに対して「なんであんたの方が先に結婚できたのよ」だとか「私よりデブのくせに」などと口にしたことなど一度もない。ミカの結婚報告も、自分のことのように喜んでくれたのだ。今まで一度たりとも、自分の方がモテることや容姿が優れていることや勉強ができることでマウントをとってきたりもしなかった。

ナミはいつも対等に、ミカに接してくれていた。


だからこそ、そんなナミに対して嫉妬心や、見下す感情を抱いてしまった自分が嫌だったのだ。

そして、そうした感情がナミに伝わらないかいつも不安だった。

結婚生活のノロケはおろか、不満を言うことすら憚れた。自分ではそんなつもりがなくとも、ナミには"自虐風自慢"と捉えられてしまうかもしれない。

こうして、結婚してからは年に一度会うか会わないかの関係になってしまった。

コウタの転勤で引っ越してきてからは、物理的な距離もあって一度も会うことができていない。




夕方になり、ナミからの電話が鳴った。

「もしもし?」

ミカは恐る恐る取る。

「もしもし、ミカ?元気?」

「うん、元気だけど・・・どうしたの?何かあった?」

「うーん、あのさ、単刀直入に言うけど・・・

ミカ、今カウンセリングやってるの?あ、やってるってのは、クライアントじゃなくてカウンセラーの方ね」


やっぱり。

何となく、そんな気がしていた。


「え?何いきなり?どうしたの?」

すぐに『うん』とは言えず、慌てて誤魔化す。

「いやー、なんかたまたま見たブログに、ミカにめっちゃ似てる人が載ってて・・・しかも名前も同じ"ミカ"だし、住んでる場所もA県だったからさぁ・・・」

これは言い逃れはできなさそうだ。ミカは観念した。

「・・・うん、やってるよ」

「しかも天使とか、ちょっとやばくない?」

「やばいって?」

「いや、なんつーか、めっちゃ胡散臭いよ」

そう言われて胸がズキンと痛む。しかし、平気なふりをして答える。

「あー、ナミに言ってなかったか〜。実は、私小さい頃から天使が見えてたの・・・。ごめんね、馬鹿にされたくなくて、今まで秘密にしてたんだ。もちろん、ナミが信じられないのなら、信じなくて良いんだけど」

「ふーん」

「でね、その天使の言葉をひとに伝えていったら、すごく感謝されるようになって・・・それで、カウンセリングというお仕事を始めてみたの」

「うーん、よくわかんないけど、カウンセリングって人様の心を扱うお仕事でしょ?うまくいかないと、鬱がひどくなったり・・・言いたかないけど自殺しちゃう人も出るかもしれない仕事でしょ?

めっちゃ責任重大な仕事だと思うんだけど・・・きちんとした勉強をしたりしないと、まずいんじゃないの?ミカはちゃんとそんな勉強した?」

「それは・・・」

「ってか、そもそも大学も文学部だったでしょ?まだ心理学とか専攻してたならわかるけどさぁ・・・。

ってか、旦那さんはこの仕事のことなんて言ってるの?」

「コウタにはまだ話してないけど・・・」

「ほらぁ、やっぱり後ろめたい部分があるんじゃない?」

「でもね、私のアドバイスのおかげで、就職したり、夫婦仲が改善したり、妊娠した人まで出てきたんだよ?

だから私、みんなにすごく感謝されてるし、ちゃんと実績を積んでるよ」

「うーん、それは良かったかもしれないけどさぁ・・・でも・・・それにしてもちょっと値段高すぎじゃない?」

耳がキーンと痛くなった。心臓が締め付けられるような感覚になる。

その痛みから逃れたくて、ミカは思わず語気を強めた。

「そんなことないわよ!"カウンセリング"でググってみてよ!私なんてまだ良心的な方よ、1時間で10万円も取る人もいるんだから!それに私は手作りのハンカチまでつけてるのよ?そのハンカチだってすごく評判なんだから!こんなにサービスしてるカウンセリングなんて他にないわよ!!!」

「・・・」

「それにねぇ、高いか安いかは買う人が決めることでしょ?みんなこの値段を適正と思うから買ってくれるわけ!お客さんはそれで満足してるんだから、外野がとやかく言うことじゃないでしょ!!」

「うーん、でも・・・うまく言えないけど・・・やっぱり、おかしいと思う。効果の保証ができないものを、さも効果があるように謳うのって。それが数百円とか、数千円ならまだわかるよ。神社のお守りみたいなもんだし。プラシーボ効果も実際にあると思うし。でも素人が万単位で取るのって、やっぱりおかしいと思うし、やめたほうがいいと思う」

「ナミ、あんた私に嫉妬してるんでしょ!」

「はぁ?」

「自分より劣っていた私が、先に結婚したこととか、カウンセリングの仕事でみんなから喜ばれてることとかに嫉妬して、足を引っ張ろうとしてるんでしょ!!!」

「はぁ?何それ?劣ってる?ミカが私より?

そんなこと、思ったことないよ・・・あのさぁ、たしかにミカが結婚がしたこと自体は、正直、羨ましいと思った時もあったよ。

でもさ、このカウンセリングは別。羨ましいとかないから。

あのさ、ミカの客が何人いるか知らないけどさ。

仮に100人いたとしてもね、それって日本の全人口のうちの0.001%以下なわけ。それでね、その0.001%以下の人はアンタのことを"天使"って崇めてくれるかもしんないけど、あとの99.999%のマトモな人にはどんなふうに見えてると思う?」

「・・・」

胡散臭い女、っていうか詐欺師にしか見えないよ。だから嫉妬するとか無いから」


心臓の底の部分が急に冷たい感覚になった。

灰色の壁に四方を取り囲まれて、この世界に自分がたった一人しかいないように思えた。


ミカは自分が傷ついていることを悟られないよう、精一杯強く何か言い返そうとしたが、頭が真っ白になって何も思い浮かばなかった。しかし何も言い返せないのも負けを認めてしまうような気がしたので、ただ冷たそうにこう答えた。

「あっそ」

「・・・ミカ、なんか変だよ。こんなカウンセリングしてるのもそうだけどさ。昔はもっとちゃんと人の話も聞いてくれたじゃない。あのどうしようもない男と付き合ってた時とかさぁ」


ミカは大学時代、年の離れた男性と付き合っていた時期があった。男性は独身と偽っていたが、実は妻子持ちというとんでもないやつだった。不倫と知っても未練があってなかなか別れられなかったミカに、強く「別れるべき」とアドバイスして背中を押してくれたのは、他でもないこのナミだった。


ナミは続ける。

「ミカの周りにいる、煽てたり崇めたりしてくれる人たちの中に、ちゃんとミカを注意してくれる人はいる?嫌われるかもしれないってわかっていても、損得勘定抜きに、ちゃんとミカに言うべきことを言ってくれる人はいる?

私はね、お金を落とす人よりも、甘い言葉をかけてくれる人よりも、そういう人たちを大事にしなきゃいけないって思うよ。そういう人こそが財産だと思うよ。

自分で言うのもなんだけど、私はおかしいと思ったらちゃんと言うよ。だってミカは大事な親友だもん」


涙が出た。でも、そう悟られたくなくて、無表情な声を振り絞って言った。

「・・・言いたいことはそれだけ?私忙しいの。結婚してるから。じゃあね」

『結婚してるから』を強調したのはミカなりの精一杯の強がりと嫌味だった。


ミカは電話を切った瞬間、急いでナミのLIMEと携帯をブロックした。そうしないと、たった一人の親友を失ってしまった悲しみに呑み込まれて息ができなくなりそうだった。

それに、自分からブロックしたことで、少しだけナミよりも優位に立てたような気がした。


とめどなく湧いてくる悲しみと虚しさを誤魔化すために、ミカはブログを書いた。


今日の天使さまの話は『あなたのそばに潜む悪魔』についてです♬
あなたが成功している時、幸せそうな時ほど、それを邪魔しようとする人が出てくること、ありませんか😃❓
たとえば、「それはやめた方がいい」と言ったり、「あなたらしくないよ」と言ってくる人・・・💧
そんな人は、あなたが羨ましくて、足を引っ張りたくて仕方のない、可哀想な"悪魔側"の人なのです😣💦
そんな人と出会ったときの唯一の対処法は・・・"離れること"です‼️
離れる・・・というと、なんだか悲しいイメージや、辛いイメージがあるかもしれませんね。でも、大丈夫🤗
これは、あなたが魂のステップアップをするために必要な修行なのです💪
確かに、最初は辛さや寂しさがあるけれど、それが大きい分だけ、更なる成長を手にすることができます✨だから、辛いとか寂しいなんて感じる必要はありません💖
そこからは、付き合う人のレベルがさらにアップするのです‼️
あなたがどんなに素晴らしい人間であっても、周りにいる人が悪魔的な思想だと、天使さまはその匂いを敏感に嗅ぎ取ってしまいます💦
ですから、天使さまのサポートを得るためにも、この修行を恐れないでくださいね💖
大丈夫‼️あなたは一人ではありません😊天使さまがそばにいることを思い出してください👼🌈✨
そして、全ての出来事は"必要だから"起こっていることなのです💖
天使さまも私も、愛を込めてあなたを見守っていますよ💕💕💕


投稿した瞬間、涙がどっと溢れてきた。

(大丈夫、これはステップアップするための修行だから)

(それに私には、たくさんの"仲間"がいる・・・)

そう自分の心に言い聞かせながら、ただ意味もなくスマホをいじる。

適当にネットを見ているうちに、いつのまにかブログにはコメントがついていた。

ミカさん😭いつも見守ってくださってありがとうございます🙏✨

ミカさんに出会えて本当に幸せです🎶ありがとうございます💖💖💖

今日もたくさんの氣付きをありがとうございます😍💕💕💕


(ああ良かった、やっぱり私は一人じゃない!

私にはたくさんの仲間がいる!)


信者たちからの"愛"のある言葉に包まれたらか、大切な親友を失った悲しみはどこかに消え、ミカの中にはただ妙な高揚感だけが漂っていた。



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第16話につづく

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