見出し画像

小説『天使さまと呼ばないで』 第17話


ミカがカウンセリングの仕事を始めて半年近く経った。

ミカはパート先のスーパーで、昼休憩を取っていた。今日のお昼は近所のパン屋で購入した、ミカの大好きなアボカドシュリンプサンドだった。


スーパーでのミカの仕事は、主にレジ打ちだ。

同じ操作や作業を繰り返し、ひたすら客に頭を下げ、「ありがとう」という言葉を聞く機会などほとんど無い。何とつまらない仕事だろう。おまけに時給は900円だ。


それに比べてカウンセリングは、たくさんの人に感謝されるし、やりがいのある仕事だ。それに、たったの1時間でパート4日分も稼げるのだ。


本当はカウンセリング一本でやっていきたいぐらいだが、ミカにはそうできない理由があった。

それは、夫のコウタの存在だ。


コウタにはまだ、自分がカウンセリングの仕事、しかも"天使"の声を伝えるカウンセリングをしていることは言っていない。理系で非科学的なことは信じないコウタには、きっと理解してもらえない仕事だろう。


パートを続けているふりをしながら、カウンセリングすることも可能かもしれないが、いつ嘘がバレるかわからない。それに、年末調整や税金の手続きの時にバレてしまうかもしれない。危ない橋は渡りたく無かった。


(このパートで稼げるお金が月に8万円で・・・週2日のカウンセリングで8万円は稼げるから・・・月に稼げるのは40万円ぐらいかぁ)

さらに、その内の5万円は家計に入れるので、自分が好きに使えるお小遣いとなると35万円だ。

(この間買ったCHAMELのワンピースは80万円だから、またあんな素敵なワンピースを買おうと思ったら、3ヶ月は頑張らないといけないのよね・・・)

しかも、その間他の贅沢はできなくなってしまう。

(もし、パートの日数を少し減らして、カウンセリングの日にすればどうだろう・・・)

少し日数を減らすぐらいなら、体調が悪いとか、パート先のシフト調整の影響とか、コウタに何とでも言い訳ができるだろう。


(たとえばパートを週3に減らすとしたら、パートの稼ぎは月6万円になって・・・カウンセリングの稼ぎは4万円×週3×4週で48万円、そうするとパートとカウンセリング合わせて全部で54万円。ほぼ20万円も収入が増えるのかぁ)


20万円はでかい。しかもこれは少なく見積もっての値段だから、一日3件カウンセリングが入ったり、6万円のスペシャルカウンセリングが入ったりしたら、収入は更に増えるだろう。

(そうなったら、またあんなに素敵なワンピースがすぐに手に入るわ!)


そのとき、先輩のおばさん店員が声をかけてきた。

「あらぁミカちゃんお昼サンドイッチ?そんな手抜きしたらだめよぉ〜ちゃんとお弁当作らないと!栄養バランスを考えるのも主婦の仕事のうちよぉ!」


(うるせーよクソババア!)と思いつつも

「あははー!ですよね〜」と適当に流す。


(私がみんなからどれだけ慕われて、感謝されてるか、このオバサンは知らないんでしょうね)

ミカはオバサンの根本が白いパサついた髪と、すこしシワのついた安っぽい素材のシャツを見ながら意地悪く微笑んだ。

こんな平凡な世界しか知らなくて、私のように特別な力もない、ただつまらない人生を歩む惨めなオバサン。

(どうして私がこんなオバサンと一緒の空間にいて、昼食にケチつけられなくちゃならないのかしら)

やっぱりパートは週3日に減らそう、とミカは決心した。



------------------



それから2ヶ月間、ミカは自分の収入が月に50万円ぐらいになると当て込んで買い物をした。

買ったのは、高級ブランドの服や小物や化粧品だ。

使った金額は全部で120万円。後で一括で支払いをすればいいからと、全てリボ払いを選択した。


(120万円でも、3ヶ月ぐらい頑張れば利子も含めて返せるから大丈夫でしょ)



しかし、想定外のことが起きた。


カウンセリングの予約が、思ったよりも増えなかったのだ。

週に12万円稼げる算段だったのに、パートを減らす前と変わらず週に8万円ぐらいしか稼げない。カウンセリングの予約が一件も入らない日も目立つようになった。

そのうえパートの給料は減ってしまったものだから、ミカの収入は以前よりもむしろ少し減ってしまった。


預金残高がなかなか増えないことにミカは焦りと共に、苛立ちを覚え始めた。


(どこかで私のことを邪魔している人がいるに違いないわ・・・)


ミカは、ネットで調べてみることにした。

"ミカ 天使 カウンセリング"といったワードで、検索してみたのだ。


すると、ヒットしたのは大抵信者のブログだった。

素晴らしい氣付きを得ました💖

だとか

ミカさんは本当の天使だと思います(^^)

だとか

ミカさんからもらったハンカチを家宝にします✨

といった好意的な感想ばかりが並んでいる。


そうした礼賛を見るたびに、ミカはニヤニヤした。心がまるで風船のようにふわふわと浮かんでいくような感覚がした。


しかし、とあるブログを見た瞬間、その風船は針で刺されてパチンと割れてしまった。


巷?で話題の天使カウンセラーさんのカウンセリング受けてきましたー😁でも、期待してたほどでは無かったなー


そのブログはsunao1210というユーザーのブログだった。ブログタイトルは「気ままに素直に徒然日記」。


ミカは眉間に皺を寄せながら、そのブログを読み進めた。





-----------------
第18話につづく



いいなと思ったら応援しよう!