「食べなさい」が効かなかった次男を変えたのは、お兄ちゃんでした。
時計の針は19時半。
目の前には、スプーンを持ったままピタッと手が止まっている次男がいる。
口はもぐもぐと動いているのに、お皿の上のごはんは一向に減らない。
(もう時計の針が一周しちゃうよ……)
夕飯のたびに、わたしの心の中では小さな焦りが積もっていく。
世のママたちに全力で同意を求めたい。
子どもって、どうして麺類のときだけはあんなに早いのだろう。
うどんやラーメンなら、びっくりするくらいの勢いで吸い込んでいくのに、白米やおかずになった途端、時が止まる。
ちびちび、ちびちび。
まるでアリさんみたいな小さな一口で、気の遠くなるような時間をかけて食べる。
気持ちいいくらいによく食べる長男。
その隣で、ずっと同じおかずと見つめ合っている次男。
ふたりのお皿を見比べるたびに、胸がちくりとした。
「こんなに小食で大丈夫かな。」
「明日、元気に過ごせるかな。」
何度もそう思った。
「食べなさい」と言っても、「大きくなれないよ」と言っても、この小さな頑固者には全然響かない。
そんな我が家に、ある日突然、謎のブームがやってきた。
きっかけは長男だった。
夕飯の途中、次男の顔をのぞきこんで、にやりと笑う。
「よし。次はハンバーグ半分!」
そう言って、自分のハンバーグをぱくり。
すると次男も真剣な顔で、同じくらいの大きさをフォークで刺す。
そして。
せーので、ぱくり。
それからは、長男がスープを飲めば次男も飲む。
ごはんを食べれば、次男も食べる。
あんなにアリさん食べだったのに、びっくりするくらい同じペースで口に運んでいく。
最近では、ごはんをよそう時も、
「長男くんとおんなじ!」
と、弾んだ声で言うようになった。
さすがに少しだけ減らしてはいるけれど、それでも以前とは比べものにならないくらい食べるようになった。
台所で、思わず小さくガッツポーズをした。
大人がどれだけ正論を並べても動かなかった心が、「お兄ちゃんと一緒」というたったそれだけで、こんなにも動くんだ。
子どもたちは、子どもたちの世界の中で生きている。
親には見えないところで、お互いを見つめて、真似して、刺激し合って、少しずつ大きくなっている。
だから、時計を見てハラハラするのは、少しやめようと思う。
今夜も聞こえてくる。
「せーの、ぱくり!」
その声を、一番近い特等席で眺めていようと思う。
