Кириллица(キリル文字)|5分で学べるロシアの小さな物語
最初に見たとき、正直こう思った。
「記号じゃん」
AでもBでもない。Rに見えるのにRじゃないし、PみたいなのにPじゃない。読めそうで、全然読めない。
「これは“Я”。ヤじゃなくて“ヤー”ね」
そう言われて、余計に混乱した。
キリル文字。
ロシア語で使われている文字だ。
アルファベットに似ているのは偶然じゃない。
ギリシャ文字をもとに、9世紀ごろに作られた文字体系で、ロシア語だけでなく、ウクライナ語やブルガリア語など、いくつもの言語で使われている。
でも、学び始めたばかりの頃は、そんな歴史よりも、とにかく目が滑る。
看板を見ても読めない。
地下鉄の路線図も、呪文みたいだ。
「これ、覚える気する?」
そう聞いたら、隣の人が笑った。
「最初は誰でもそう」
紙に書かれた文字を、指でなぞる。
А、Б、В。
アルファベットみたいだけど、音は違う。
面白いのは、「読めない=意味がない」わけじゃないことだ。
たとえば、МАГАЗИН。
最初はただの並びにしか見えなかった。
でも、ある日ふと分かる。
ああ、これは「店」だ。
意味が分かった瞬間、文字が“風景”になる。
それまでは、ただの壁だったものが、突然、入口になる感じ。
キリル文字は、見た目が強い。
角ばっていて、少し無愛想で、親切に読ませてくれない。
でも、慣れてくると不思議と裏切らない。
発音はだいたい書いてある通り。
英語みたいに、読めるのに読めない、は少ない。
「正直だよね」
そう言うと、
「ロシアっぽいでしょ」と返ってきた。
確かにそうかもしれない。
キリル文字は、最初は距離を取るけれど、一度中に入ると、案外素直だ。
読める文字が増えると、街の輪郭が変わる。
広告が読める。
駅名が分かる。
スーパーで、何を買っているかが分かる。
世界が、少しだけほどける。
完璧に理解できなくてもいい。
全部読めなくてもいい。
キリル文字は、「分からないまま、進んでいい」という顔をしている。
だから今日も、読めない文字を、読む。
その繰り返しの中で、いつの間にか、記号だったはずの文字が、言葉になっている。
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【学びメモ】
・キリル文字は9世紀ごろ、ギリシャ文字をもとに作られた
・ロシア語だけでなく、東欧・中央アジアの多くの言語で使用
・見た目はアルファベットに似ているが、音が異なる文字が多い
・発音と綴りの一致度は比較的高い
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この文庫では、
こんな「少しだけ世界が近づく話」を、
短い物語と知識で書いています。
また、次のページで。
