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【よかったね ありがとう】

春、新年度が始まった。小学6年生の息子が通う支援学校では授業参観が、放課後デイサービスでは新しい支援計画の面談が予定されていた。奥さんは美容学校の授業で忙しく、どちらも僕一人で参加することになった。胸には息子の様子を知れる楽しみと、どこか拭えない不安が混じる。


息子は昨年、支援学校に転入した。それまでは一般の小学校に通っていたが、4年生の頃から様子が変わった。他の子に手を出したり、授業中に席を立ったり、先生の言うことを聞かなかったりと問題行動が顕著に現れるようになった。その頃から利用を始めた放課後デイでもスタッフさんを傷つけてしまうことがあり、申し訳なさと心配で胸を痛めていた。それでも、デイのスタッフさんは息子を見放さず、今も温かく迎え入れてくれる。本当にありがたい。
ここ最近は以前よりも手を出す回数は減ったように思えるが、気に入らないことがあって感情が昂るとスタッフさんを叩いたりする日も少なからずあった。

今回の面談ではそのこと指摘されるのではないかと危惧していた。息子の問題行動を指摘され、利用停止を告げられるかもしれない。そんな不安を抱えながら、スタッフさんと向き合った。
ところが、スタッフさんの口から出てきたのは息子の成長の話だった。

「○○君、ずいぶん変わりましたよ。『待って』と言えば我慢できるようになったし、順番を譲れる日も増えたんです。叩いてしまったときも『めっ(ごめん)』って謝れるようになりました」

そう嬉しそうに話すスタッフさんの表情は、まるで我が子の成長を喜ぶ親のようだった。僕も思わず嬉しくなる。面談の終わりに「息子が暴力を振るって本当に申し訳ありません」と頭を下げた。するとスタッフさんは手を振って笑った。

「とんでもない!私たち、○○君のこと大好きなんですよ。スタッフ同士で『私の○○!』って取り合いしてるくらいです(笑)」

その言葉に涙を堪えながら「よかったな、本当によかった」と心の中でつぶやいた。そして息子を支えてくれているスタッフさんに心から感謝をしたのだった。

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数日後、支援学校の授業参観が行われた。教室を覗くと息子が先生の机にどっかり座っている。まるで担任のようだ。僕に気づくとニヤリと笑ったが、立ち上がる気配はない。いつもの彼らしいやんちゃさに苦笑しながら僕は教室に入った。

その日の授業は『アンパンマンの神経衰弱ゲーム』。白と黒のパネルにキャラクターのイラストが隠れていて、順番にめくって同じ絵を揃える。子どもたちは思い思いにゲームを楽しんでいた。間違えて悔しがる子、見事にパネルを揃える子、じっと見つめたまま動かない子、ヒントを出す保護者や先生。教室は笑顔と笑い声に包まれていた。

息子の番が来た。僕はスマホをビデオモードに切り替えて息子をフレームに収める。息子はノソノソとパネルに近づき、適当に白いパネルをめくった。『めいけんチーズ』が現れる。

続けて黒いパネルを気まぐれにめくる。すると、なんとそこにも『めいけんチーズ』が現れたのだった。偶然か、狙ったのか。息子は見事にパネルを揃えたのだ。

教室が拍手で沸いた。僕も思わず手を叩いてしまいスマホの画面がブレブレになった。後で動画見た奥さんに文句を言われたが、そんなことはどうでもよかった。息子がみんなに褒められている。その姿だけで僕は胸がいっぱいになった。やる時はやる、うちの息子はそんな男だ。


それからゲームは続いたが、息子は途中で飽きてしまったようだった。まるで休日の親父みたいにゴロンと横になる息子の姿に、教室はまた大笑い。誰も咎めず、ただ温かく見守る。そんな空気が支援学校には流れている。


和やかな雰囲気の中、授業は終わった。息子に手を振り教室を出た僕の目に廊下の掲示板が映った。

『6ねんせいのふわふわことば』と書かれた掲示板には、子どもたちの手書きの言葉が並んでいる。
「おめでとう」「だいじょうぶ」「たのしいね」
一つ一つ眺めながら、息子の言葉を探した。真ん中あたりで、息子の文字を見つけた。




「よかったね ありがとう」


たった10文字の言葉に、心が震えた。瞼の裏が熱くなり涙が滲む。息子の言葉は僕の胸に抱いていた想いそのものだった。支援学校に来て、息子はきっと“よかったね”と感じている。スタッフさん、先生、友達みんなに“ありがとう”と思っているに違いない。

僕は掲示板の前で立ち止まり、息子の文字をもう一度見つめた。たどたどしい筆跡に、息子の努力と純粋さが宿っている。この言葉は、息子が一歩ずつ進んできた証だ。そして、僕たち家族が支え合ってきた軌跡だと思った。

「よかったね ありがとう」

息子の言葉を胸に刻んだ。息子がこれからも“よかったね”と笑えるように。支えてくれる全ての人に“ありがとう”を伝え続けられるように。

春の風が頬を撫で、遠くで子どもたちの笑い声が響く。学校を後にする僕の足取りは軽かった。



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