パラグアイの午後に、風は止まない_6
この記事はマスクドnote企画投稿作品です。
【ピリスタチーム 6 小説】

彼を追ってアスンシオンの空港に降り立った。
日本の反対側、南米パラグアイの首都。
そこは喧騒のない、穏やかな田舎町だった。
夏の風が私の肌を心地よく撫でる。
やっと、彼に会える。
先月、遅い夏休みを取った窓口業務の若い子の話に耳を疑った。
「イグアスの滝でね、法人営業部の佐藤さんに会ったの。ほら、融資のエースだったのに突然辞めちゃった人」
「何でやめたんだっけ」
「さあ。宝くじ当たったとか。突然の退職なんてそれしかなくない?」
「逃げたい彼女でもいたりして」
息が止まった。
ふざけんな。
今年の初めに突然姿を消した彼の、アパートは何度も訪れた。事故に遭ったのか、事件に巻き込まれたのかと気が気でなかった。
Xmasに笑顔で撮った写真を眺めては、あの約束を忘れてしまったのかと、悲しくて涙が止まらなかった。
イグアスの滝とやらを検索して驚く。そこまでして私から逃げたかったのかと。
だったらこっちは、月でも火星まででも追いかけてやる。
国際協力機構で働いていると割とすぐ判明し、現地の事務所を訪れると彼はあっさりビル前の舗道に出てきた。
第一声は「ごめん」。
あまりにも簡単な三文字に拍子抜けする。
まだ、大丈夫かもしれない。
学生時に青年海外協力隊で来て、気候も人も温かい街にいつかまた戻りたいと思っていた、と彼は説明する。
「蛇口ひねったら水が出るって普通のことじゃないんだ。下水道の整備は命にかかわると思ったら、いてもたってもいられなくて。でも、約束を忘れててごめん」
私の命には鈍感な彼が、封筒を差し出した。
中をあらためると、たったの5万円。
ふざけんなふざけんな。
雷雲が空を覆った。
私はスマホを取り出し、二人で撮った証拠写真を彼に見せる。
彼も自分のスマホを開き、Webサイトを私に見せる。
「よく見て」
1等7億は、110組 106348番。
二人が願いを込めて笑顔で映る写真は、101組。
一等ではなく組違い。
約束通り、その半分。
ここまでの旅費の足しにもならないことに気づいて愕然とする。
ふざけんなふざけんなふざけんな。
紛らわしいタイミングで退職なんてすんな。
冷たい突風が木々を激しく揺さぶる。
全部のツケが清算できると思ってここまで来たのに。
顧客の口座から拝借して、湯水のようにカジノに費やしてきた分はどうしたらいい?
もう戻れない。これからどこに逃げよう。
アスファルトに一粒の雨が落ちる。
私の旅の始まりにふさわしい、スコールがやって来る。
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