〖完全解説〗世界の看護師の給料表を見て、私は「日本だけの問題ではない」と思った
ごきげんさまです。
一般社団法人日本男性看護師會の代表理事、坪田康佑(つぼたこうすけ)です。
私は、看護師・保健師として、そして訪問看護の起業や事業承継、看護DX、看護政策、看護経営に関わる立場として、全国の現場から相談をいただいています。
私のモットーは
「看護師の笑顔が、患者の笑顔を創る。」
「患者の笑顔が、地域の笑顔を創る。」

この言葉を胸に、日々活動しております。
今日は、WHOの「State of the World's Nursing 2025」の日本語訳を読みながら、看護師の給料、働き方、そして看護を社会がどう評価しているのかについて考えたいと思います。
結論から言うと、今回の報告書は、世界の看護師の話でありながら、日本の現場にそのまま突き刺さる内容でした。
特に、WHO地域や世界銀行の所得グループ別に、看護職の初任給の中央値、最低、最高を整理した表があります。
ここを見た時、私は「看護師の給料は、その国が看護をどう見ているかの通信簿でもある」と感じました。
看護師の給与は、本人の努力だけで決まりません。
国の医療制度。
財政の考え方。
労働市場。
生活費。
組織の経営力。
専門職団体や労働組合の交渉力。
そして、看護師が社会にどれだけ必要な専門職として扱われているか。
そうしたものが、かなり正直に数字へ出ます。
だからこそ、これは海外ニュースとして眺める資料ではありません。
日本の看護管理者、訪問看護ステーション経営者、病院経営者、そして現場で働く看護師が、自分たちの未来を考えるための資料です。

WHOの報告書は、2025年5月12日に公表された世界の看護に関する包括的な報告書です。
日本語訳は2026年4月1日に、WHOのレポジトリへアップされたことが案内されています。
報告書では、世界194か国のデータをもとに、看護師の配置、教育、雇用、労働環境、リーダーシップ、サービス提供などが整理されています。
WHOの発表によると、世界の看護職員数は2018年の2790万人から2023年には2980万人へ増えています。
一方で、世界の看護師不足は2023年時点で580万人とされ、2030年には410万人まで減る見込みが示されています。
ただし、ここで安心してはいけません。
世界の看護師の約78%が、世界人口の約49%を占める国々に集中しているとも示されています。
つまり、看護師は増えている。
でも、必要な場所に均等にいるわけではない。
ここに、世界の看護の大きな矛盾があります。
(この記事は約8分で読み終わります)
給料の表が、かなり考えさせられる
今回、私が特に考えさせられたのは、看護職の初任給に関する表です。
報告書では、82か国のデータをもとに、看護職の平均月額初任給が整理されています。
世界全体の中央値は、月額774米ドル。
購買力平価で見ると、月額1656 PPPドルです。
WHO地域別に見ると、ヨーロッパ地域は中央値2508米ドル、PPPでは3376ドル。
一方、南東アジア地域は中央値500米ドル、PPPでは1472ドル。
西太平洋地域は中央値775米ドル、PPPでは1641ドル。
世界銀行の所得グループ別に見ると、高所得国は中央値2302米ドル、PPPでは3147ドル。
低所得国は中央値360米ドル、PPPでは945ドル。
この差は、単に「国によって物価が違うよね」という話では終わりません。
報告書では、賃金は政府の関与、労働政策、保健医療労働市場、施設の所有形態、地域の生活費、専門職団体や労働組合、財政圧力などの影響を受けると整理されています。

つまり、看護師の給料は、制度と交渉と経営の結果なのです。
看護師がどれだけ頑張ったかだけではなく、社会がその仕事をどのように価格づけしているかの結果です。
ここを見誤ると、看護師個人にだけ努力を求める話になってしまいます。
でも、本当は違います。
看護師の給料は、看護師個人の問題ではなく、医療制度と社会設計の問題です。
看護師は、国をまたいで動く
給料の格差は、国際移動にもつながります。
報告書では、賃金、生活費、労働条件などが、低所得国から高所得国への移住を決める強い要因になり得ると整理されています。
これは当たり前のようで、かなり重い話です。
看護師は、どの国でも必要です。
でも、教育して育てた看護師が、その国で働き続けられる条件がなければ、より条件の良い国や地域へ移っていきます。
これは海外だけの話ではありません。日本国内でも同じです。
病院から美容へ。
病棟から訪問看護へ。
地方から都市部へ。
常勤から派遣へ。
現場から企業へ。
看護師は、条件を見て動きます。
それを「最近の看護師は我慢しない」と言っても、問題は解決しません。
むしろ、看護師が移動する時代になったのだと受け止める必要があります。看護師が働き続けたい場所に残る。地域に必要な看護が残る。
そのためには、やりがいだけでは足りません。
処遇、権限、教育、働き方、そして将来の見通しが必要です。
日本は高所得国だから安心、ではありません
日本は世界銀行の分類で見れば高所得国です。
だから、低所得国と比べれば条件はよい、と言うこともできます。
でも、現場で働く看護師の感覚は、それだけでは語れません。
物価は上がっています。
人手不足は続いています。
夜勤の負担は重い。
記録、委員会、研修、家族対応、退院調整、地域連携、感染対策、ハラスメント対応。
看護師の仕事は広がり続けています。
一方で、責任や負担の増加に対して、給与や権限や時間が追いついているか。
ここが問われています。
高所得国であっても、看護師が「この仕事を続けても将来が見えない」と感じれば、人は離れます。
看護師が「患者さんのために頑張りたい」と思っていても、生活が成り立たなければ続きません。
看護師が「学びたい」と思っていても、研修に行く時間も、代わりに勤務を支える人もいなければ続きません。
高所得国だから安心ではありません。
高所得国だからこそ、看護師がどんな専門性を持ち、どんな条件で働き、どんな未来を描けるのかを、より真剣に設計しなければいけません。
看護の価値は、事故が起きなかった時ほど見えにくい
看護師の給料を考える時に、いつも難しいのは、看護の価値が見えにくいことです。
転倒を防いだ。
急変の前に違和感を拾った。
家族の不安を受け止めて、クレームになる前に整えた。
退院後に困らないように、生活の段取りを先回りした。
薬の飲み忘れ、食事、排泄、睡眠、認知機能、家族関係、経済状況まで見て、必要な職種につないだ。
これらは、うまくいった時ほど大きな出来事になりません。
事故が起きなかった。
再入院が防げた。
家族が安心できた。
患者さんが地域で暮らせた。
それは本来、大きな価値です。
でも、制度上は見えにくい。
経営上も、直接の売上として見えにくい。
だから看護師の仕事は、善意や使命感の中に押し込まれやすい。
私は、ここを変えたいと思っています。
看護の価値を、きれいごとではなく、経営と政策の言葉に翻訳する必要があります。
給料を上げる話は、看護師を守る話であり、患者さんを守る話です
看護師の給料の話をすると、すぐに「お金の話ばかりするのか」と言われることがあります。
でも、私はそうは思いません。
看護師の処遇は、患者さんの安全と直結しています。
看護師が疲れ切っている現場で、よい看護を続けることは難しい。
新人が育つ前に辞めていく現場で、次の世代の看護を守ることは難しい。
主任や師長が全部抱えている現場で、地域連携やDXまで進めることは難しい。
だから、給料の話は、看護師のわがままではありません。
患者さんの安全を守るための、かなり現実的な話です。
報告書が示しているのは、世界中で看護師が足りず、偏在し、そして条件のよい場所へ移動していくという現実です。
この中で日本がやるべきことは、看護師に「日本で頑張って」と言うことではありません。
日本で、地域で、病院で、訪問看護で、働き続けたいと思える条件をつくることです。
経営者と管理者が見るべき三つの数字
では、病院経営者や看護管理者、訪問看護ステーション経営者は、何を見ればよいのでしょうか。
私は、まず三つを見るべきだと思います。
一つ目は、看護師の給与が、地域の生活費に対して十分かどうかです。
全国平均や近隣病院との比較だけでは足りません。
家賃、子育て、通勤、介護、物価上昇。
その地域で暮らす看護師が、安心して生活できる水準なのかを見なければいけません。
二つ目は、給与以外の負担です。
夜勤回数、残業、委員会、研修資料、記録、急な欠勤対応、管理者への相談集中。
仮に給与が少し高くても、負担が重すぎれば人は離れます。
逆に、給与だけをすぐに上げられなくても、負担を減らし、休みを取りやすくし、相談できる体制をつくることで、残りたい職場に近づけることはできます。
三つ目は、看護師が成長した時に何が増えるのかです。
責任だけ増えるのか。
夜勤や委員会だけ増えるのか。
それとも、権限、給与、学ぶ機会、発信する場、地域での役割も増えるのか。
ここを設計しないまま「中堅が育たない」と言っても、現場は変わりません。

今日できる無料ワーク
今日は、30分だけで構いません。
管理者、経営者、リーダーで集まって、
次の四つを書き出してみてください。
①看護師がいま担っている価値。
②その価値が給与、手当、権限、評価に反映されているか。
③反映されていない理由。
④30日以内に一つだけ変えられること。
たとえば、急変予防の観察力が高い中堅看護師がいるなら、その人の仕事は「よく気づく人」で終わらせてはいけません。
新人教育、事故予防、記録の質、家族説明、地域連携にどう貢献しているのかを言語化する。
そのうえで、教育担当手当、時間確保、業務軽減、会議での発言権、研修機会につなげられないかを考える。
訪問看護ステーションであれば、管理者やリーダーが担っている営業、調整、家族対応、ケアマネ連携、スタッフ面談を見える化する。
「頑張ってくれている」で終わらせず、仕組みとして評価する。
これだけでも、看護の価値は少しずつ見えるようになります。
看護師の笑顔は、投資の結果でもある
私は、「看護師の笑顔が、患者の笑顔を創る」と言い続けています。
でも、その笑顔を看護師本人の努力だけに任せてはいけません。
笑顔でいられる勤務表。
学べる時間。
責任に見合う処遇。
安全に発言できる会議。
患者さんのそばに戻れる業務設計。
地域で働き続けられるキャリア。
これらは、偶然には生まれません。
投資しなければ生まれません。
看護師に投資することは、
患者さんに投資することです。
地域に投資することです。
医療の持続可能性に投資することです。
世界の看護の報告書を読んで、私は改めてそう感じました。
日本の看護は、まだまだ可能性があります。
でも、その可能性を看護師の我慢で使い切ってはいけません。
看護師の価値を見える化し、働き続けられる条件を整え、経営と政策の言葉で守っていく。
それが、これからの看護管理と看護経営に必要なことだと思います。
看護師の笑顔が、患者の笑顔を創る。
患者の笑顔が、地域の笑顔を創る。
だからこそ、看護師の笑顔を「善意」ではなく「投資」で
守る時代にしていきましょう。
坪田康佑
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より多くの看護師やスタッフを救うことができるからです。

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📊 参考資料
▶︎ WHO「State of the world's nursing report 2025」
https://www.who.int/publications/i/item/9789240110236/
▶︎ 世界の看護2025 日本語訳
https://kyokuhp.jihs.go.jp/library/who/2025/Sekainokango2025.pdf
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