明日、僕たちの居るところ (17)

銀の世界(11)

「こ、こんにちは」

どことなくギクシャクしたしゃべり方で挨拶を返す。
あれだけ待ち焦がれていた瞬間がやってきたのだ・・・当然緊張するにきまっている。

「あっ、やっぱり日本人だ・・・あぁ良かった!」

僕はキョトンとして彼女を見ていた。

「すみません。はしゃいじゃって。えーと、・・・私、佐伯 美緒っていいます。お? お兄さん?・・・お兄さんは?」

ちょっと気を使わせてしまって申し訳ない。

「あぁ、はい。僕は佐伯、佐伯 守って言います。よろしくお願いします。
・・・えッと、異世界で出会った人が同じ苗字だなんて・・・偶然にしてはちょっと珍しいですね。」

僕はちょっと気の利いた事が言えたのではと、幸先の良さに嬉しくなっていた。

しかし、彼女は眼を潤ませ始め、やがてあふれ出した涙を拭いながら、ポロポロと泣き始めた。
僕はビックリしてオロオロし始めると、彼女は僕にいきなり抱きついてきてワンワン泣き出した。

「お父さん・・・・お父さん」

(「えッ?」)

頭が真っ白になった。僕は彼女が何を言っているのかさっぱり分からなった。
ちょっと危ない人なのではとは思ったが、親の顔が僕に似ていたのかなとも思った。
僕は、僕の胸でむせび泣く彼女をどうすることもできず、手持ち無沙汰となった手を、戸惑いながら、ゆっくりと、そしてやさしく彼女の背に回した。
彼女は堰を切ったように泣き続けている。
ひと気がない広場の薄暗い電灯の光だけが僕らをほのかに照らしていた。


「・・・突然、すみませんでした。・・・」

やっと落ち着いたのか彼女が話し始めた。
僕は彼女をベンチに座らせ、落ち着いたのを見計らって隣に座る。
ちょっとの沈黙の後、彼女は僕の方を向いて、またしゃべり始めた。

「ごめんなさい。もう会えないかもって思ってたから。そして、いろんな事、思い出しちゃって・・・」

「いえいえ、大丈夫ですよ。でも、お父さんって・・・僕が君のお父さんに似ているんですか?」

「いえ、あなたが私のお父さんなんです。」

「???」

「すみません。突然こんなこと言ったら混乱されますよね。」

「ははは・・・」

僕は、とりあえず笑うしかなかった。どんな顔をして笑っていたのだろう。

訳もわからず、やっぱり危ない人なのでは?と思い始めていた。
しかし、彼女はとても理知的に見えて、また真剣な表情から演技をしているようでもなく、まして冗談を言っているふうではなかった。

「私、ここに来る前に、天使って名乗るテスという何かに会ったんです。お父さん・・・えーと守さん? はどうでした?」

「僕も会いましたね」

「私、そこでテスに言われたんです。貴方が最も信頼できる人に会わせてあげるって。」

「はぁ・・・」

「そうしてここに来たのですが、私あまり人との関わりがなかったもので、そんな人いるのかなって思って。
そうして過ごしていたら、現地の人以外全然誰とも会えなくて、もしかしたら誰とも会えないんじゃないかって。
まさか今日お父さんと会えるなんて思ってもいなくて・・・」

彼女はまたウルウルし始めた。

「・・・ごめんなさい。
私のお父さんの名前は佐伯 守って言います。
さっきお父さんを見つけたときに、お母さんに見せてもらった昔のお父さんの写真とそっくりだったので、まさかって思ってました。」

「ちょっと待って。」

一方的に話す彼女を僕は遮った。このままだと僕も彼女の世界に引き込まれそうだ。
えーと僕は子供っていうか、まだ結婚すらしていない・・・なのに、彼女は僕をお父さんと呼ぶ・・・
彼女の話はまるで、SFの・・・そうタイムスリップ?みたいだ。
もっと正確に言えば、僕らは異なる時代に生きていて、それぞれ居た世界とは全く異なる世界で出会ったということことになる。
そんな事って本当にあるのか?・・・本当なのか?・・・バカげている・・・そもそも、なんで・・・
と思いながら、自分もまた既に SF の世界の住人になっていた事を思い出した。

「ちょっと待って・・・1つ確認したい。それだけで、何故、僕が君のお父さんって分かるの?」

「たしかに・・・そうね。じゃあ、お父さんに関係すること話すね。
お父さんは・・・一人っ子で、子供の頃は、たしか、栃木県の那須とかいう地方に住んでいたわ。
お爺ちゃんは、佐伯 紘一で、お祖母ちゃんは佐伯 美佐江。
西那須野駅というところで降りて車で30分位走ったところに家があったわ。
庭の片隅にトウモロコシが植えてあって、夏休みに家族みんなでお爺ちゃん家に行って、トウモロコシを食べて花火をするのが好きだったの。
そうそう、お祖母ちゃんが、お父さんが小さい頃に家で飼っていた山羊に毎日のように追いかけれてて泣いてたって言っていたっけ。
あと、お父さんは小さい頃から飛行機のプラモデルを作るのが好きだって言ってたわ。」

僕はゾッとした・・・見ず知らずの人に、自分しか知らない事実を次々と言い当てられるのは本当に怖い。背筋が寒くなる。
それにしても何でこんなに細かく知っているんだ・・・
トウモロコシ畑なんて何処にでもあるけれど・・・たしかに、庭には小さいながらトウモロコシが植えている場所がある。
そして、地名や父母の名前は一致している・・・しかも、山羊の事も、そしてあまり人に教えていない僕の趣味も。
・・・こんなに一致することなんてあるのだろうか?

彼女は何者なんだろうか?
彼女はテスと組んで、俺を騙そうとしているのか?
彼女は本当に実在しているのか? なんだっけ・・・そう、ホログラフィって言うんだっけ、ただの虚像かもしれない?
そう言う設定で俺の反応を見ているのか? これも調査の一環なのか?
それとも、今ここに実在していて、本当に俺の娘なのか?
そう思い込んでいるだけでは? いや、そう思い込むように記憶操作されているのかもしれない。じゃあ彼女は何者なんだ。

僕は、始終混乱して爆発しそうだった。

「お父さん、信じてもらえた?・・・」

彼女は屈託のない笑顔で僕に問いかけた。
僕は、何も判断できずにいた。とはいえ、「そんな筈はない」、「信じられない」と彼女を突き放すこともできず、

「あぁ・・・うん」

とだけ答えた。
でも内心は真逆で、全く信用できていなかった。
本当はもっと自分のことを聞きたかった。本当に僕の事を知っているのかと。これは本当の出来事なのかと。僕は単に騙されているのではないかと。
疑心暗鬼になった僕は、とにかく話を合わせて、本当の事を暴いてやろうと、ただそれだけを考えていた。

いいなと思ったら応援しよう!