「受験したい」と言われた日 ——親の覚悟が決まるまで
まだ暑さの残る9月。
娘の、初めての眼鏡を買いに行った。
その帰り道。娘がぽつりと言った。
「受験したい」
正直、“応援”より先に、“不安”が出た。
勉強は、
好きなほうではなかったと思う。
1年生の時に通った公文式も、
1年もたたずにやめている。
思いつきではないことは、
話を聞いて分かった。
入りたい部活があって、
そのために、今から動きたいと言う。
中高一貫校なら、
高校受験をしなくて済む。
どうせ受験するなら今やりたい、と。
私は驚いた。
そんな先のことを、
もう考えているのか、と。
新しい眼鏡をかけた娘は、
私の知らない顔をしていた。
夜、子どもが寝た後、
夫と話し合った。
高いお金を払って塾へ通っても、
またすぐに、
行きたくないと泣くのではないか。
受験を目指す子どもは、
もっと前から勉強を始めているらしい。
今からで、本当に間に合うのだろうか。
応援したい気持ちと消えない不安が、
同時にあった。
結論が出ないまま、数日が過ぎた。
最寄りの個別指導塾で話を聞いてみると、
最低でも月7万円。
金額にも驚いた。
それに、中学受験は「集団塾が基本」と知ってさらにひるんだ。
近くには集団塾がなく、候補は少し遠い駅前に二つだけ。
そのうちのひとつに電話すると、
現在の学力を見るために、
テストを受けることになった。
結果は、厳しかった。
私も夫も、点数を見て黙り込んだ。
強い勧誘もなく、
3人並んで外に出た。
「アイス、買おっか。」
何を言ったらいいか分からず、そう言った。
もうひとつの塾は、
入塾テストに合格しないと入れない。
電話をかける勇気が出なかった。
第三の選択肢として、
オンラインで完結する塾も探してみた。
スタディサプリ(スタサプ)は月額2,178円。
安くて、動画も思ったより分かりやすかった。
これだけで受験を乗り切れるとは思ってない。
まずは、「続けられるか」を見たかった。
曜日ごとに科目を決め、
学校から帰ったあと、
動画で授業を進める。
算数と国語を、
優先的に進めた。
1カ月が過ぎたころ、
4年生の範囲を一通り終えた。
そんなとき、
もうひとつの候補だった集団塾から、
電話がかかってきた。
最初に資料請求したときの、
記録が残っていたのだろう。
無料の学力診断テストがあります。
よかったらお気軽にどうですか、と。
受けてみると、
平均点を少しだけ上回っていた。
スタサプを、毎日続けた成果だった。
塾生が多い中でも、
問題ない成績だと言われた。
来週から体験授業に来ませんか、
そう声をかけられた。
外に出ると少し肌寒くて、
もう11月も終わろうとしていた。
その夜、いつものように、
コーヒーを淹れた。
応援したいのに、不安が勝つ。
その正体は、学力よりも、
家計の現実だったのかもしれない。
塾代は年間で約100万円かかる。
簡単な金額ではない。
学費に積み立てたお金があるので、
今のところは、なんとかなる。
けれど、私立に進んだ場合、
その先も、学費はかかり続ける。
子どもが頑張る姿を見て、
収入を増やすことを決めた。
会社員の給料は、
簡単には増えない。
だから、副業で、
年間100万円分の収入を増やすことにした。
ここまで決心するのに、
時間がかかった。
けれど、
急がず、ゆっくり。
できることを、
ひとつずつやろう。
空になったコーヒーカップを見て、
私はようやく、
腹を括ることにした。
▼年末年始の帰省の記録です。

