賃金自警団としてのコンサルビジネス

筆者は2025年までコンサル会社を6年近く経営してきたが、振り返りを兼ねて現在のコンサル市場がどのように成立しているか、今後どうなっていくか書いてみたい。

コンサル市場は年々拡大しているが、とくに成長しているのがベイカレントを筆頭とする総合コンサルティング業界である。この領域はいろいろな説明があるだろうが、手っ取り早く言うと①1年以上の中長期で ②クライアントに伴走しながら、実質的にクライアントの社員のように働き(社員代替) ③150万円〜300万円以上といった高単価を月額でチャージする ビジネスといえる。
参画するコンサルタントは大規模システム改修とかプロジェクトに必要な知見・実績をもっていることもあれば、持っていないことも多い。

「それって人材派遣と何が違うんですか?」と聞かれることがしばしばある。
教科書的には「コンサルタントが自律的に稼働してクライアントを導いているので、クライアントの指揮命令を受けていない」とか「派遣社員と違ってコンサルタントは高度な専門知識を有している」という回答になるのだが、私が考えるところでは(労働者派遣契約か準委任契約かという法的枠組みを除けば)高単価かそうでないか以外に差はない。派遣社員をコンサルタントにネームロンダリングすることで、派遣が持つネガティブな響きを消し去って高単価を実現しているだけに過ぎない。

要するに(総合)コンサルと人材派遣は高いか安いかの違いしかないのだが、価格の違いが本質的な意味を持つと考えている。というのも、コンサル業は労働市場における賃金の裁定役(アービトラージャー)だからだ。

平成日本の労働市場

平成期の日本の労働市場を概観すると、

  • バブルが崩壊し、企業の投資マインド、消費者の消費マインドともに低迷

  • 円高によって賃金、物価ともに国際的に高い状態が続く。企業は円高を背景に中国や東南アジアなどに生産拠点を移動

  • 景気低迷と国際競争力維持を理由に、賃金が据え置かれる。2000年代初頭から連合がベースアップ要求を控えたことで、労働生産性と賃金の関係が崩れる

  • 買い手市場だったことに加え、賃金は上がらないものの物価が安く社会保障負担も今よりは少なかったので、労働者は低賃金を許容して自社にとどまることが多かった

といったことが続いてきた。慢性デフレによって、賃金の価格メカニズムが壊れ、労働者の労働生産性と賃金が一致しない状況が形成されてきた。今だと隔世の感があるが、平成中期の日本は価格が高いことに課題意識があり、賃金も国際的に見て高かったため、労使が協調して賃金が上がらない状況を作り出した。
いまでは「安いニッポン」になったことからその試みは成功したといえるが、副作用として「賃金は上がらないもの」というノルムや、個々の労働者が高い生産性を出しても経済的に報われづらいという社会環境を生み出したとも言える。

若手層が最も割りを食う構造に

こういった労働環境で最も不利益を被っているのが20~30代のホワイトカラー若手層だ。彼らは年功序列型企業の下層に位置しているため賃金は抑制されているが、デジタル社会に必要とされるリテラシーは上司を上回っていることが多い。単純な労働生産性としては部下のほうが年上の上司を上回っているのだが、大企業であるほど人事制度が硬直化していて労働生産性を賃金や役職に反映させるまでに時間がかかる。こういった層が真っ先にコンサルに流入している。

コンサルの働き方の生産性が高いとかの建前を抜きにすると、大企業で労働生産性に対して過小評価されている人材をコンサル化させることで賃金を適正化していることが本質的な現象だと思う。

働き方改革とインフレが追い打ちに

単に年功序列で割りを食っているだけなら耐えている若手層も多かったが、これに追い打ちをかけたのが働き方改革とインフレだ。
2019年以降の働き方改革は労働供給に制約をかけ、若手が残業代で稼ぐ機会が減少した。
またデフレからインフレへの転換は、生活コストが上昇したことで賃金が伸びにくい雇用環境にとどまることを難しくした。

これらの実質賃金に対するショックによって、それまでは若手優秀層がレバレッジを聞かせるために選んできたコンサルというキャリアは、大企業の賃金過小評価から逃れるための消極的選択肢に急速に変化してきた。

現場で起きていること

その結果、大企業の現場では正社員とコンサルが横並びで似たような仕事を行いながら、会社が支払うコストは数倍違うといったことが平気で起きている。
例えば27歳、社会人4年目の大企業正社員とコンサルで考えてみる。この二人は多少の違いを除けばだいたい同じような仕事をやっている。
正社員の年収は700万だとしよう。法定福利費や福利厚生費なども諸々入れると雇用を維持するのに会社は年間1,000万円のコストがかかっているとする。
これに対してコンサルの場合、人月単価が200万、12ヶ月稼働して年間2,400万円ぐらいの支払いとなり、コンサルの年収は1,000万円ぐらいに収まる。
この差は妥当だろうか?

①コンサルは契約をいつでも切れる。また、入れてみてから微妙だったら変えるように要求できる(厳密にはできないはずだが、実務上はできている)②大企業はコンサルに比べると雇用が保証されていて、将来に渡ったキャリアの見通しが立ちやすい

といった違いを踏まえるとこのぐらいの違いになるかと以前は思っていたが、大企業の中で強烈なミスプライスが放置されているだけではないか?  と思うことが増えてきた。

なぜミスプライスが発生するか?

ミスプライスが発生する理由はいくつか考えられる。

  • 大企業になるほど人事制度がきちんとしている分、経済動向の変化(インフレとか、若手の人材難とか)に対応するのに時間がかかる。

  • 大企業ほど社員に占める非若手人材の割合が大きいので、昇給のリソースが若手に回されにくい

なども理由だと思うが、最も大きいのは企業内で労働生産性を数値化しづらいこと だと思う。
コンサルの場合、コンサルタントの労働生産性はクライアントが単価いくらを支払っているか? で明確に市場評価できる(万能ではないが、他の方法に比べて圧倒的にフェアでマシな評価方法といえる)。しかしそれ以外の企業は上司や人事部の相場観に頼るしかなく、その相場観も少し古い賃金相場であることが多い。

上司が部下のことを「自分が若手だったころに比べるとそこまで優秀じゃないわりに給料は高いな」と思っていたら、その部下が転職してみると2倍以上のコストを負担してくれるクライアントがいた、といったことが日常的に起きるのもそのためだろう。

組合の限界

コンサルに過大なコストを払うよりも従業員の賃金過小評価を是正するほうが労使ともに良いはずだ。本来、その役割の一部は組合が果たすべきである。
しかし組合が主導して賃金競争力を上げてコンサル依存を下げるのは難しいだろう。

まずコンサルが労働市場で実現しているのは労働生産性に見合った賃金支払いであって、労働者全員の生活向上ではない。若手人材の給与水準をパフォーマンスに合わせて上げるのは、パフォーマンス未達の社員の賃金カットとセットでなければ完全に実現できない。したがって組合員全体のコンセンサスをとることが難しい。
また大企業社員はコンサルよりも労働環境が保護されていることが多い分、残業規制の厳しさ等で労働供給に制約がある。これを緩和してコンサル並に近づけることも必要だ。
何より、20~30代のライト層にとって、組合は古くて遠い存在であることが大半だ。活動家のような人たち、政治運動をしている人たちといった認識を持つ若者も多い。彼らにとっては組合活動を頑張って賃上げを目指すより、コンサルに転職して給料を上げたほうがスマートかつ華やかに映る。

コンサルの功罪

コンサルが急増したことで企業・社会に与えた功罪は大きい。

労働者に高賃金の雇用を提供し続けられていることは社会として大きな功績だろう。仕事の付加価値があるかないかは置いておいて、過小評価された労働者の賃金を適正化している。こういう動きがあることで大企業側も人材流出を防ぐため、若手人材に対する賃上げに(効果は限定的だとしても)動かざるを得ない。
政府の財政規律が緩んだ時に債券を売って警告を発する債券投資家を「債券自警団」というが、企業が労働者を割安に留め置いた時にその労働者がコンサルに流出することで警告を発しているのだから、コンサルは「賃金自警団」だといえる。

しかしながら副作用にも目を向けなければならない。
最も問題なのは、大企業側では生産性の高い人材が流出することで人材の質が悪化し、空洞化が起きていることだ。
ミスプライスが大きい順、つまりパフォーマンスが高い順から人材が流出することに加え、残った人材がそこまで頑張らない状態を生み出してしまう。先程の例(正社員年収700万、コンサル発注額2400万円、コンサル年収1,000万)で説明すると、正社員はコンサル並に頑張っても2,400万はおろか1,000万円ももらえない。すると自らの労働供給を0.7掛けで調整する形で実質的な賃金単価を揃えようとする。リモートワークでテレビを見ながら仕事するとか、副業を頑張るといったことだ。

その結果、事業会社の中でコンサルが主要業務を担い、正社員は雑用(コンサルへの発注契約の取りまとめとか)を行うという本末転倒な現象が生じる。コンサルは社員と違ってそのうちいなくなるのだから、こういった業務体制は長い目で企業を弱体化させてしまうだろう。

総合コンサルという業態はあってもよいのだがあくまで調整弁であり、本来的には社会の雇用制度、企業の人事制度の硬直化を打破し、労働環境、雇用市場が正常に機能するようになるのが理想だろう。

(次回に続きます → 続き


いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー