「膝枕」外伝 短編小説「ジョジョ風膝枕」
今回初めて脚本家今井雅子先生の膝枕を2次創作と言った形で、外伝を書かせていただきました。去年朗読デビューしたノアです。
今井先生にどのように書いていいかお聞きしたところ書き方は特に決まってません。自由ですと言われてジョジョの奇妙な冒険が大好きなのと、今井先生 の好意と勢いだけで書かせていただきました。とても緊張しています。(がくぶる)拙い文章だとは思いますが全力で書きますので、皆さんよろしくお願いします。(温かい目で見守っていただければ幸いです)
休日の朝独り身で恋人もなく、打ち込める趣味もなく、その日の予定も特になかった男は、チャイムの音で目を覚ました。ドアを開けると、宅配便の男がダンボール箱を抱えて立っていた。オーブンレンジでも入っていそうな大きさだが、受け取りのサインを求められた伝票には「枕」と書かれていた。 「枕」男の声が喜びに打ち震えていた。 「受け取ってもらっていいすか?」とジョジョ4部の仗助に似た口調で配達員に急かされた。しかも髪型も仗助と同じリーゼントだった。ツッコミどころは満載だったが、とてつもない悪寒を感じたので、スルーすることにした。何事もなかったように男は「取り扱い注意」のラベルが貼られた箱を受け止めると、お姫様抱っこの格好で室内へ運んだ。 昨日男はヴァージンスノー膝枕を注文した。翌日こんなに早く届くとは思ってもいなかった。最近の宅配のサービスは素晴らしいと男は満面の笑みで、爪でガムテープを剥がす。カッターで傷つけるようなことはあってはいけない。
しかし男はここで違和感を感じた。何やらダンボールから若い男の声がする。何い?若い男?どういう事だ?自分が注文したのはヴァージンスノー膝枕で、女のはずなのに?頭の中は???だらけだった。今起こっている出来事に思考回路が追いつかなかった。
「おい、早くダンボールから僕を出してくれないか!ここは息苦しい。早くしてくれ!」 とはっきり若い男の声がした。明らかに上から目線で感じのいいものではなかった。しかもダンボールの中で膝枕が暴れてバタバタしてたので、開けるか開けまいかを迷っている暇はなく、抱き抱えることが困難になった。男はやむを得ずダンボールを開封した。 「ああ‥‥やっと出れた」膝枕は安堵の声をあげた。そして次に
「誰だ?あなたは?」
相変わらず上から目線で話しかけてきた。男は暫く膝枕を無視することにして、ダンボールの中に入っていた取説に目をやった。ここで相手のペースになってはいけない。トラブルに巻き込まれた時こそ、冷静にならなくてはと自分に言い聞かせた。しかし取説を読み終えた男は呆然となった。それもそのはず、この膝枕は特注である為、返品は不可能。最後まで責任もってお取り扱い下さい‥‥
二の句が継げなかった。あのねー、間違って送ってきた人が責任なんて言葉使うな!説得力ゼロ。皆無だろ!しかも返品不可って?どうするんだよ。こいつ。(枕) 名前は露伴って書いてある。間違いなく男だよな。しかも名前が好きな漫画のキャラクターと同じじゃないか!余計に腹立つわ!こいつ。
男は思わず頭を抱えた。いくら目を凝らして見ても男性の健康的な膝枕があるだけだった。ヴァージンスノー膝枕で夢の世界へ行こうと思った男のロマンは無惨にも砕け散った。
最近爆発的に売れている「膝枕シリーズ」という商品。見た目も肌触りも生身の膝そっくりで、感情表現も出来るようにプログラムされている。ラインナップも豊富で男性から女性まで幅広くカバーしている。でもウチに来た奴(膝枕)は問題外だよな。人間のやることに100%と完璧ってことはありえない。時には間違えることもあるだろう?でも一般的に間違える確率は0.01%なので、ほぼゼロに近い。それがよりによって自分が間違えられるなんて。男は自分の不運を嘆いた。
少し冷静を取り戻すと、男は露伴が下着姿なのに気づいた。これでは何となく落ち着かないので、自分のハーフパンツを履かせてみた。驚く程にぴったりのサイズだった。まるで最初から露伴が男のところにくる運命のように思えてきた。女性用と男性用の膝枕では全然意味合いが違うが、何となくこの膝枕を使ってみたい気持ちになってきた。間違って送られてきたのに、返品できないのなら使用する以外、仕方ないじゃないか!めちゃくちゃ理不尽な話だけど。意を決して膝枕をしようとした瞬間に、
「だが断る!」と拒否られた。しかもイケボで。イケボなだけに余計にむかつくなあ。
「それは岸辺露伴先生の名ゼリフだぞ!パクっていいのか?そもそも文法も間違ってないか?この場合、だがはいらない。断るだ」
男は何故かむきになって答えた。恐らく自分が尊敬している岸辺露伴を馬鹿にされた気持ちになったのだろう。
「じゃあ、断る」
「じゃあ断るって新しい言葉を何気に勝手に作るな!ちょっと本当に露伴先生が言いそうだぞ。」
どうやら露伴という膝枕、ジョジョに関係するかは不明だが、人の神経を微妙に逆撫でする性質らしい。男が膝枕にいい加減にしろ!と言おうとした矢先に、何と?膝枕の方から、
「すまない」と謝ってきた。これには男も面食らった。さっきまでの高飛車な態度からは、全く予想してなかったのである。
「信じてもらえないかもしれないが、僕は人気漫画家の岸辺露伴だ。いや正確には岸辺露伴だった。ある朝起きたら膝枕になっていた。誰かの呪いなのか?今井先生の魔法なのか?原因は不明だ!普通の人間なら、自分がある日突然膝枕になっていたら、もっと驚くだろうし、泣き叫ぶだろう?なんせ原因が不明なので、元に戻る方法も簡単には分かりっこないのだから。でも僕は岸辺露伴だから、普通の人みたいに取り乱したりしない。何故なら僕は漫画を描くこと以外一切興味ないのだから」
露伴と名乗った膝枕はここまで一気に話すと一息ついて、また話しだす。
「そこで提案だ!僕が膝枕させるから、その報酬として、僕の言った話を漫画にしてもらえないか?僕の漫画は不思議でリアリティもあって、実に面白い!ざっくり説明すると、僕のゴーストライターになってくれないか?そこそこの報酬は約束するよ!」露伴は自信たっぷりに言った。何だ?この強引な展開は?これじゃあまるで最初から男性用の膝枕を頼んだみたいじゃないか!だいたい提案も何もないだろ!この場合困ってるのはお前のほうじゃねーか!もっと素直に、少しは謙虚になったらどうだ!何か男の方が困っている状態で助けてやらないこともない話にすり変えられている。男は無理矢理不平等条約を結ばせられている気持ちになった。男はやり場のない気持ちになり、思わず心の中で注1※やれやれだぜ』と叫んだ。
「だいたい俺は漫画なんか何十年も描いたことないぞ!そりゃあ中学生までは仲間と同人誌を作っていた事はあるけど、それはあくまでも子供の趣味だ。素人同然。普通の人より、少し絵が上手なレベル。プロのレベルには程遠いぞ。」
「大丈夫だ!漫画の描き方は僕が全て教える。僕は並の漫画家ではない。天才漫画家岸辺露伴だ。きっちり僕の言う通りにすれば、必ず面白い漫画は描ける」
岸辺露伴は一歩も引かない。男に漫画を描かせる気満々だ。何なんだよ!こいつの揺るぎない自信は?最初はマジでむかついていたけど、何があっても堂々としてる露伴にいつの間にか惹かれていき、段々羨ましくなってきた。
「もし僕の漫画がヒットしなかったら、山奥でもゴミ処理施設でも捨てに行けばいいさ。なーにどっかの膝枕みたいに次の日傷だらけになった無残な姿で戻ってくる事はない!この誇り高い岸辺露伴は決してしない!約束しよう!」
何故か露伴の言葉には妙な説得力があった。論理的に説明できないが、漫画を描いてみたい衝動に駆られた。ダメだったら自分を捨てればいいという彼の潔さに惹かれたのだ。
その日から催眠術にでもかけられたように、自称露伴と名乗る膝枕との不思議な共同生活が始まった。日常のサラリーマン生活の合間に、彼の言ったことを、一言一句説明通りに、キャラクター、台詞、コマ割りをしていく。最初はできるかどうか半信半疑だったが、思いの外、スラスラと漫画は描けた。露伴の言葉に嘘はなかった。漫画は大ヒットし、男はそこそこの富と名声を手に入れた。また露伴は膝枕としても最高だった。極上の沈みこみと程よい柔らかさ。男は彼の膝枕に魅了され、とても癒された。一石二鳥どころではなく、一石三鳥である。
正しく人間万事塞翁が馬がである。
さてめでたし、めでたしと終わらないのが膝枕ですよね?もう少しお話は続きます。すいません。結構長くなってしまいました。
今日もいつものように男は露伴の膝枕で微睡んでいた。最高のリラックスタイムである。そしてそろそろ起きようとしたが、何故か立てなかった。明らかにいつもと違う感覚だった。足がふわふわする。まるで雲のようにふわふわだ。何だ、このふわふわ感は?と言うよりも足そのものの感覚がない。いくら頑張っても立てなかった。漸く男は気がついた。こともあろうに自分が膝枕になっていることに!しかも既にダンボールに入れられて、配達員に抱えられていた。
ピンポーンというチャイムの音と共に、 「やっと来た。わーい!わーい!プリンの膝枕だ」と幼い女の子の可愛い声がした。
「良かったわね。プリンの膝枕は誕生日プレゼントよ。大切に使ってね」
その子の母親が丁寧に爪でガムテープを剥がし、満面の笑みの女の子の元に運んだ。そう。男は可愛いプリンの膝枕になっていたのだった。
その後露伴の膝枕を見た者は誰もいない。伝説の膝枕となったのである。
最後までまで拙い私の文章を読んでいただき、本当にありがとうございました。読んでくれた注2※全ての方に敬意を表します。 完
注1※『やれやれだぜ』第3部空条承太郎(くうじょうじょうだろう)の困った時に言う口癖。
注2※ 5部のフーゴが主人公ジョルノに言う名台詞 「僕は敬意を表する」から引用してアレンジしました。
【ジョジョの奇妙な冒険とはジョースター家のお話です。1部から8部まであります。主人公が毎回変わります
1部ジェントルマン(紳士)ジョナサン 第二部チャラ男ジョセフ 第3部 不良 空条承太郎 第4部ちょっと頭の悪い優しいお兄さん空条仗助(くうじょうじょうすけ)第5部 1部のボスデイオの息子ジョルノ 第6部 3部の娘 空条徐倫(くうじょうじょリーん)第7部 ジャイロ(父が法務官 死刑執行人の助手)とジョニー(銃で撃たれて一歩も歩けなくなったジョッキー) 第8部(4部のパララルワールド)記憶喪失の空条丈助(くうじょうじょうすけ)
お話とてつもなく長いです。ちょっと興味を持たれた方は王道の3部か7部(物語の内容がざっくり分かります)から読むことをオススメします。
