「君の痛み、僕の痛み」|青ブラ文学部
「それ、どのくらい痛の?」
サカキは、僕の左腕に巻かれた半透明の保護パッドを覗き込んだ。シールの向こうで、赤く裂けた皮膚の画像が共有スクリーンに映し出されている。浸出液の量、組織の破断率。すべてが数字になって、部屋の壁に大きく表示されていた。
「画面を見ればわかるだろ」と僕は言った。
「組織の損傷は四〇パーセント。神経の興奮度はレベル六だ」
サカキはふむと頷き、手元の端末にその数字をメモした。彼は人間の行動や認識の共通性を研究している科学者だ。
「皮膚のめくれ方も、壊れた細胞の範囲も、僕には全部見えている」
サカキは眼鏡の位置を直した。
「だけど、その『レベル六』が、君の頭の中でどんな風に暴れているかまでは、僕の画面には映らないんだよね」
「映らなくていいさ。こればっかりは、僕以外には誰にもどうしようもない」
僕はそう言って、パッドの上からそっと手を当てた。脈打つようなズキズキとした感覚。衣服の繊維が触れるだけで走る、焼けるような不快感。それは僕の頭の芯だけに響く、誰にも見せることのできない真っ暗なプライベート空間だった。サカキがどれほど心配しようと彼の皮膚がめくれるわけではないし、彼の神経が跳ねるわけでもない。
翌日、サカキは嬉しそうにひとつの小さな金属片を僕に見せた。
「君の腕の痛みの波形を読み取って、僕の腕にそっくりそのまま送るデバイスを作ったんだ。これで僕も、君の感じている感覚をそのまま共有できる」
サカキは僕が止めるより早く、自分の腕にその金属片を貼り付け、スイッチを入れた。
その瞬間、サカキの顔が激しく歪んだ。彼は息を吸い込んだまま硬直し、椅子から転げ落ちそうになりながら、自分の腕を必死に抑えつけた。
「うそだろ……君は、こんな、ナイフで絶え間なく抉られるような感覚に耐えていたのか!」
サカキの額から大粒の汗が流れ落ちる。彼の腕の皮膚はなめらかなままで、どこにも異常はない。しかし、彼は確かに悶絶していた。
僕はそれを見て、奇妙な静けさを感じていた。
サカキが今味わっているのは、僕のデータを彼の脳が翻訳した「サカキの痛み」だ。僕の頭の中で鳴り響いているあの嫌な音と、彼の頭の中で鳴り出した音が、本当にまったく同じ音色をしているかどうかを確かめる術は、やはりどこにもないのだ。
僕は、サカキの健康で傷ひとつない綺麗な腕を見つめながら、静かに微笑んだ。
「少しは、僕と同じ景色が見えたかい?」
お題:「傷口と痛み」(あるいは「間主観性」)
以下の企画に参加させていただきました。
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