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最後に届いた、無言のLINE

ネズミを追いかけて21年
天井裏は梁に足をおき、
LEDフラッシュライトを全開点灯
しながら
ゆっくり移動したり、
金属の板を使い移動する
手段もある。 
天井裏はホコリや雑菌も多く
長時間滞在するのは困難な
空間ですから
効率よく短時間で枚数を決めて
粘着シートをセットしていきます。

床下は腹ばいになり壁などから
聞こえる移動音
『ほふく前進』をしながら
進む。

小さな足音に耳を澄ませる。
天井裏、床下は静かなスペース
でありますから
音が出たら
建物内の構造的な問題でおきる
音と生物の動く音や
鳴き声しか
ありません。

LEDフラッシュライトは
フルパワーで1300Lumen
車のヘッドライトが1000Lumen
であります。
ランタンを使う業者さんも
います。
シロアリの場合床下はランタンを
使用することが多いです。

ネズミ駆除屋はランタンはあまり
使わないですね。

天井裏、床下は
目などの粘膜は防御
とうぜん、ツナギを着ます。
コットンのツナギを着るネズミ駆除業者
さんもいますが、
わたしは不織布のツナギを着ます。

理由は『不織布』の方が素材的に
優れているからです。
天井裏、床下は基本的に
汚い雑菌だらけですから
普通の生活空間のように
呼吸はしません。

天井裏や床下を覗いた場所で
ネズミの死骸があって
回収をご依頼された事例では
不織布のマスク、帽子、メガネ
ですね。
ダニにも刺されますから
肌が弱かったり
菌に弱い場合は
不織布のツナギも着たりします。
ネズミには『イエダニ』というダニ
がいます。

ネズミの仕事はダニ、寄生虫、ウイルス
さまざまな危険に立ち向かわないと
いけない仕事でも
あるのです。

「たったの一匹だろう」
「いやいや、たったのじゃないよ」
と叫びたいときがある。

防毒マスクを装着したら
呼吸はします。
防毒マスクには吸収缶があります
が使用期限があります。
期限をチェックしながら
になります。

調査の際は不織布マスク
または、
N95マスクを装着します。
メガネ、帽子というスタイル
です。
ゴーグルを使ってもいいです。
水泳メガネを使う業者さんも
いますね。

ネズミ駆除業者も自分を
守らなければなりませんから。
お客様と同じ生身の人間ですから
ただ、違うのは防御の仕方を
知っている。
それだけです。

誰かにとっては、ただのネズミ駆除。
わたしにとっては、人の生活を
守る仕事。

21年やっていますと
忘れられないお客様がいます。

その奥様は、ネズミの音が天井裏から
するとわたしに電話くださった。

「また、音がするんです………」
受話器の向こうの声は、
いつも少し震えていた。

泣き声で電話くださることも
あった。

女性に泣かれると弱いのです。

あまりに泣かれるので
次から「泣き代いただきますよ」
「酷い〇〇さん、」と言いながら
「早く来て」
とプレッシャーを強めてくるのが
いつものことになっていた。

このお家の隣の家の間は
約10センチ
そのすき間にネズミの侵入口が
あった。
『土壌だった』

人間は入れない。
となると
方法は一つ。
室内の床下へ人間が入れる場所が
あれば
そこから入り床下から
ネズミの侵入口を塞ぐ方法ですが
床下へアプローチするところがない。

なければ、「作成して下さい」
ここで答えが「NO」なら
話はここで終わりです。

畳であれば畳を上げて木の板を
カットすれば
入れます。
フローリングの場合は
『点検口』を作成して頂く必要が
あります。
工務店、大工さんに依頼する
ことになります。

このお家は作って頂きましたが
床下の縦幅が短かかったので
床下に入っても床下を動き回る事は
不可能だった。
上半身を床下に入れて
届く範囲で塞ぎました。

床下はシロアリ駆除で
という知識はみなさまにも
あると思いますが、
ネズミ駆除でも床下に潜るケースも
あります。

ネズミ駆除では侵入口を塞いだり
いろいろする。
ほんとうに追い出したかったのは
ネズミではなかったのかも
しれません。

眠れない夜』
天井を見つめる不安。
「また、音がしたらどうしょう」
という不安と恐怖

それらが少しずつ消えていくたびに
おくさまの表情は変わっていった。

作業が終わった日の帰り際
奥様は静かに言った。

「これで、ゆっくり眠れます」
そして
「ありがとう」
わたしは21年間たくさんの
『ありがとう』を
頂いてきました。

でも、不思議なことに一番心に残って
いるのは
その言葉ではない。

数年後、その家は売却され
奥様ご家族はマンションへ
引っ越しされた。

それ以来電話は鳴らなくなった。
ある日、スマートフォンがふるえた。

送り主は、奥様だった。

開いてみると
そこには文字が一つもなかった。
 

『無言のLINE』

なにかを書こうとしてやめたのかも
しれない。
間違えて送ってしまったのかも
しれない。
ほんとうの理由は今でもわからない。

それでもわたしは画面を閉じる事が
出来なかった。

あの家ではもう、天井裏の音に
怯える夜はないのだろう。

そう思うと不思議なくらい
胸が温かくなった。

ネズミを続けて21年
床下や天井裏はたくさん
みてきた。

でも、いちばん深く入り込んだ
場所は、
人の心だったのかもしれません。

あの日届いた、何も書かれていない
一通のLINEは、
わたしが21年この仕事を続けてきた
理由を静かに教えてくれた。






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