短編【杏奈と杏里】小説
〜三島杏奈の場合〜
私にはイマジナリーフレンドがいた。
私と同じ顔立ちの空想の友達が。
一人っ子だった私は彼女といつも一緒に遊んでいた。
両親が離婚をするまで彼女は私のそばにいた。
私も歳を重ね成長し、いつの間にかイマジナリーフレンドは消えていた。
もう、何年も彼女の存在を忘れてたいた。
それが今日、死ぬ間際に突然、彼女のことを思い出した。
アンリと言う名前をつけていたことも。
私が杏奈で彼女がアンリ。
せっかく思い出したのに。
ごめんね。
私はこれから死ぬんだ。
病に蝕まれて痩せこけて苦しんで死んでゆくくらいなら、まだ人間として美しいうちに死んでゆきたい。
私には愛しい人がいる。
その人のために生きようと思って。
でも自分のために死のうと思って。
一日のうちに何度も何度も考えが巡って。
何日も何日も考えが巡って疲弊してゆく。
心も身体も魂も理性も疲れ切って安らかな眠りを求めている。
私は自分が思っていたほど強い女じゃなかった。
ごめんね、私の愛しい人。
私は目の前の輪っかを見つめる。
輪っかの向こう側にある世界が私の求める安らぎの世界なのかは分からない。
あの輪っかの中の世界に飛び込めば、もしかしたらアンリに会えるかもしれない。
なにも知らないあの頃に戻って私はアンリと遊ぼう。
恐怖も不安も未来もない世界で。
輪っかは優しく私の首を絞めてゆく。
おつかれさま、おつかれさまと言いながら。
おつかれさま、おつかれさまと揺れながら。
〜三島杏里の場合〜
もう一人の私が死んだ。
そんな気がした。
確証はないけれど、そう確信した。
私には姉がいる。
同じ血を分けた、いや、血よりも濃ゆい魂を分けた双子の姉が。
私が三歳のとき両親は離婚をした。
私は母に。
姉は父に。
中学二年まで私は一人っ子と思って生きてきた。
だけど私は幼い頃の淡い記憶の中で姉妹と楽しげに遊んでいた。
それがどうしても創られた記憶、まやかしの記憶だとは思えなかった。
「お母さん、私、本当に」
一人っ子?
ある日の夕食。
母の特製のハンバーグを食べる前に何気なく聞いてみた。
そうよ。
と言った母の目の微かな動揺を私は見逃さなかった。
本当に一人っ子なのか。
嘘なら今すぐ本当の事を言って欲しい。
後で知ったら、私は…私は…。
もう忘れてしまったが、そのとき私は母を脅す様な事を言った気がする。
母は、私に双子の姉がいる事を白状した。
杏奈と言う名の双子の姉がいると。
母は私に何年も隠し事をしていた。
だからといって私が母を恨む事はなかった。
居るなら居ると早く言ってくれれば良かったのに。
知ったからといって何も変わりはしない。
会いたいとも思わない。
それは、あの人も。
姉も同じ気持ちだろう。
なんと言っても双子なのだから。
その姉が。
名前しか知らない姉が今日死んだ。
なぜ死んだのかは分からない。
どこで死んだのかも分からない。
ただ、死んでしまったという事だけは理屈抜きで解かった。
だって私たちは双子なんだから。
⇩⇩別の視点の物語⇩⇩
戯れる子どもたち
