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【小説】天仕の少女と魔人の少年の物語 後編 第五話 感覚

第五話 感覚

「リシテキア。」
私が、呼び掛けと共に、彼女の頬を軽く叩くと、彼女は目を開いた。
目の前に、彼女の金色の瞳がある。私がずっと求めていた金色の瞳だ。
「マクシミリアン?」
「魔力の与えすぎだ。気を失っていた。」
彼女はこちらを検分けんぶんするかのように、目を細める。

「貴方のやまいは?」
「治まった。問題ない。」
私は、彼女の言葉に応えながら、口の中の歯を保護していた皮を外した。しゃべるのには邪魔だが、口の中を傷つけずにすむよいアイテムだ。外したら、口の中の違和感がなくなった。

「戻ってきてくれたのか。」
私は彼女を見て、つぶやいた。
「戻ってくるって言ったもの。」
私の言葉に呼応こおうするように、彼女が言う。
そうは言っていたが、本当に戻ってくるとは思ってはいなかった。今でもこれは夢を見ているのではないかと考える。腕の中にあるぬくもりと柔らかさがそれを裏切っているが。

「でも、思った以上に遅くなってしまったわ。ごめんなさい。」
彼女が申し訳なさそうに、目を伏せた。
「・・君が戻ってきてくれたなら、それでいい。」
私は彼女の瞳が見たくて、手を頬に当てて顔を上げさせる。彼女の頬はひんやりとしていた。魔力を与えたせいか、体温が下がっているようだ。私はもう片方の背中に回している腕に力をめる。早めに寝かせたほうがいいのかもしれぬ。

「私の病を治すのに、君が気を失うほどの魔力は必要なかったのだが。」
以前病が発症した時も、唇を合わせるだけで済んだのだから、今回のように唾液も飲まされるような深い口づけは必要なかった。そう言ったら、彼女は顔を赤くして、弁解し始めた。
「あまりにも貴方の状態がひどいから、早く病を治そうと思って、やりすぎたかも。」
確かに魔力の巡りは収まり、衝動もなくなってはいるが、腹から下腹部にかけての熱が私を緩く刺激している。

手っ取り早くこれを解消する方法は目の前にあるが、彼女の背中に現れているものが、それは無理だと私に示している。
私は大きく息を吐いた。

「まぁ、いい。君は少し休んだほうがいい。体温が下がっているようだし、熱が出るといけない。」
「休むなら貴方もよ。マクシミリアン。その顔色は何?」
「・・あまりよく眠れていなかったからな。」
彼女は手を伸ばして、私の髪を撫でてきた。
「久しぶりに一緒に寝ましょう?」
「・・それは名案だ。」

私は彼女の背中に回している腕を伸ばして、彼女の背中に現れているそれに触れた。
彼女が身体をピクリと震わせた。
触り心地は、上質な生地を思わせる。とてもなめらかで、包まれたらそれはそれで気持ちよさそうだ。そのまま、手を背中の服の破れ目に沿わせ、そこから付け根あたりに触れる。
確かに背中からそれは生えている。
「マクシミリアン。くすぐったい。」
「本当に背中からじかに生えているのだな。これは興味深い。」

彼女の背中からは白い大きな羽が生えていた。先ほど魔力を多く使ったから、普段は体の中に収めているものが、現れてしまったのだろう。
おかげで、私は彼女をこの場に押し倒すことも、寝台に連れていくこともできずにいる。
「君は羽が収められるほど魔力が回復するまで、ここで大人しく休んでいるしかないな。寝具と飲み物、食べ物も持ってこよう。」
私も寝るのであれば、湯あみをしてから横になりたい。
身体を離そうとした私を、彼女は手を伸ばして引き留めた。

「リシテキア?」
「・・一人にしないで。」
私は彼女の頬を手で優しく撫でた。できれば、一瞬たりとも離れたくないのは、私も同様だ。
「さすがにしばらく湯浴みをしていないからな。湯浴みをして、必要な荷物を持って戻ってくる。そうしたら、羽が収まるまでは側にいるから。」
「でも・・。」
「それより、君は私たちが回復した後のことを心配したほうがいいと思う。」
「?」
彼女が不思議そうに首を傾げるのを、私は苦笑して見守った。

今年もよろしくお願いいたします。


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