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【小説】天仕の少女と魔人の少年の物語 後編 第十八話 魔王

第十八話 魔王

「彼女を迎えに来たのだ。」
マクシミリアンは自分の腕の中に視線を下ろした。腕の中にはやはり外套がいとうをつけた女性がいた。まぶたを閉じているが、彼女はアルフォンスの姉、リシテキアだった。

「姉様!」
「今は眠っているから、大きな声を出すな。起こしてしまう。」
マクシミリアンが声を上げたアルフォンスをたしなめる。

「いったい、なぜそなたたちがここにいるのだ。」
「おい、アルフォンス。彼らはそなたの知り合いか?先ほど姉とか言っていたが。」
アルフォンスの後ろから、テオファーヌが声をかける。
「そなたが来てくれて助かったな。話が早く済む。」
マクシミリアンはアルフォンスとテオファーヌを見ると、言葉を続ける。

「アルフォンス。そなたは結婚しているか?」
「何を突然。」
「アルフォンスはまだ婚姻していない。婚約者がまだ成人していないからな。」
アルフォンスが答える前に、後ろにいたテオファーヌが、マクシミリアンの問いに答えた。アルフォンスは、テオファーヌに向かって、抗議の声を上げる。

「テオファーヌ!」
「知り合いなのだろう?別にいいのではないか。」
「・・それは残念だ。そなたならば信頼に足りたのだが。では、そちらはどうだ?結婚はしているか?」
マクシミリアンの問いに、テオファーヌが言葉を詰まらせた。今度はアルフォンスが代わりに答える。
「婚姻している。だが、それがどうした?」

「では、結婚しているそちらの者に頼みがある。」
「頼みだと?」
「こちらに来てくれないか。大丈夫。飛びかかったりはしない。」
テオファーヌがアルフォンスの方を見やる。アルフォンスが軽く頷いたので、テオファーヌはマクシミリアンの隣にひざまずいた。

マクシミリアンは、自分の外套がいとうの下から、白い布包みを取り出し、テオファーヌに向かって差し出した。テオファーヌはその流れに応えるように、布包みを受け取る。
「なんだ、これは?」

「アルフォンス。彼の名は?」
「テオファーヌ。」
「では、テオファーヌ。私の目を見てほしい。あと、それは腕の中に抱え込め。落とすなよ。」
アルフォンスは、テオファーヌがまるで吸い寄せられるようにマクシミリアンの瞳を見つめるのを、近くで眺めていた。魔王に逆らうほど、アルフォンスは自分の力を過信してはいない。

テオファーヌは布包みを腕に抱えたまま、ほうけたようにマクシミリアンの瞳を見続けている。マクシミリアンはテオファーヌの頭の上に手を置いた。
「なるほど、テオファーヌは、妻と子どもを亡くしたばかりであったか。」
「・・そんなことまでわかるのか?」
アルフォンスがつぶやく。マクシミリアンはそれには答えず、それは僥倖ぎょうこう。と言って、口の端を上げた。

「テオファーヌ。その布包みを開いて、中をのぞき込め。」
テオファーヌは、マクシミリアンの言葉のまま、布包みの端を開いた。
近くに立っているアルフォンスにも、布包みの中身が見えた。
「赤子・・?」
中にいたのはプラチナブロンドの髪を持った赤子だった。伏せられていたまぶたが開き、赤い瞳がテオファーヌを見つめるのが分かった。

「彼はカミュスヤーナだ。そなたの子だ。テオファーヌ。」
「!」
マクシミリアンの言葉に、アルフォンスは目を見張る。テオファーヌは、カミュスヤーナを見つめて、ぽつりとつぶやいた。
「私の・・子・・?」
「マクシミリアン。そなた何を言っている?」
アルフォンスは、マクシミリアンに畳みかけるように告げた。

マクシミリアンは、テオファーヌから手を外し、その場に立ち上がった。その腕には眠ったままのリシテキアを抱いたままだ。
「その子はリシテキアが、この地の誰かに託そうとして連れてきた子だ。彼女の望みを叶えたまでだ。」
「だが、その子はそなたと姉様の子ではないのか?2人の色を引き継いでいるではないか。」

だから、何だ?とマクシミリアンは、アルフォンスに言った。
「カミュスヤーナは、ここであれば生きていけると彼女が考えたのだから、それでいいではないか?」
「しかし・・親と離されて生きていくなど。」
「もう、親はテオファーヌだ。そのように記憶も改ざんした。このやり取りも後にすべて忘れてしまう。」

テオファーヌは静かに涙を流しながら、腕の中のカミュスヤーナを見つめている。
「姉様は、我が子に別れを言わなくてもいいのか?」
アルフォンスの言葉に、マクシミリアンはまぶたを閉じたリシテキアの顔を見た後、首肯しゅこうした。
「彼女はもう別れが済んでいる。」

「アルフォンス。」
テオファーヌに視線を向けていたアルフォンスは、マクシミリアンの呼び掛けを受け、マクシミリアンの赤い瞳を正面から見つめてしまった。
「そなたも、今日のことはすべて忘れろ。もう会うことはないであろう。」「待て、マクシミリアン。」
「義兄として最後の忠告だ。まぁ、そなたは覚えてはいられないのだがな。妻になった者には言葉を尽くせ。相手に甘えて言葉にしてこないと私たちのようになる。そなたは間違えるな。アルフォンス。」

アルフォンスはマクシミリアンを引き留めようとしたが、まったく身体は言うことをきかない。マクシミリアンに抱きかかえられたリシテキアの背後、外套がいとうが大きく膨らんでいるのを見とめる。まるで、外套がいとうの下に何かが隠れているかのような。

アルフォンスは、それについて問いかけることもできず、ただ、マクシミリアンがリシテキアと共に、その場を立ち去るのを見送ることしかできなかった。

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