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黒山家の秘密 第八話

 屋敷の中の深い深い闇で、ぼうっと人魂のように蝋燭の明かりが数個ほど浮かんでいる。
 蝋燭が置かれた間に鎮座するように、複数の「モノ」がいた。
 皆それぞれが人の形を成しているが、何本もの長い尾があるモノ、耳まで口が裂けたモノ、人と言うにはあまりにも大柄で角があるモノーーそして いつもは鬼の面を付けている、青の着物を身につけた男が姉様の隣に控えていた。
「おや姉様。義秋様は、すでに?」
 わたくしは姉様に問うた。姉様はくすっ、と笑われると
「ええ……最近言うことを聞かなくってねえ。困るから、先に術をほどこしておいたんよ」
「……」
 義秋様は、生気のない目で静かに息をしているだけだった。
 同じ妖であるわたくしが言うのも違う気がするが、姉様はおそろしい方だ。
 人の身体を奪い、そしてその子供まで自分の好きなように使役する。 元々人間であったはずの姉様も、今はずいぶんと狂気に満ちていらっしゃるようだ。

「……えーと」
 GWまであと一週間になった日。郵便受けに新聞を取りに行くと、俺は突如目の前に現れた長身の老紳士に驚いていた。
 背筋をピンと伸ばしきっちりとスーツに身を包んでいるが、物腰の柔らかそうなその人は、穏やかな笑顔をこちらに向けていた。
「黒山優一様ですね? こちらを」
 白い手袋にそっと握られた封筒を受け取る。俺宛てと、ルリさん宛てのものと2つだ。
 老紳士は笑顔のまま
「……では。後日またお会いいたしましょう、優一様」
「え、ちょっと!?」
 突風で老紳士のリボンで縛られた長い白髪がなびいたと思ったら、いつの間にか彼は跡形もなく姿を消してしまった。
「……なんだったんだろう?」

「優一くん、その人は卯月家の「トコさん」だよっ」
 ルリさん達と朝ご飯を食べているときにさっきのことを話すと、咲楽さんがそう答えてくれた。
「ああ、それなら私も聞いたことがある。確か長月家の本家の方だそうだ」 ルリさんが顎に手を当てて言う。
「へえ、本家……ええ!?」
「うおっ」
 俺が驚きの声を上げると、ルリさんがビクッとする。その様子に咲楽さんは笑って
「優一くんは最近ちゃんと感情を出してくれて嬉しいよ、ルリのおかげだねっ」
 とルリさんに言う。
「いや、私はただ事実を伝えただけで、何も……」
 ルリさんはふいと顔を背けたが、頬が少し赤い。
 俺は今までそんなに感情出てなかったんだ……と思いつつも、疑問を口にした。
「あの、卯月家が本家って、どういうことですか?」
「簡単な話だよ。「卯」が選んだのが卯月家の分家である長月家の女の子だった、それだけだよ」
「へえ……?」
「最近は十二支が力を授ける基準が昔とずいぶん変わったみたいだな、興味深いことだが。確か『酉』の家も長男ではなく長女が授かったそうだぞ」「そうなんですね」
『ユウイチ、お腹空いた! ワタシもごはん食べたい!』
 俺が食事の手を止めていたので、食べ終わったと思ったのかラピスが脳内で吠えるように言う。
「はいはいラピス、俺が食べ終わってからね」
『ぐう……はーい……』
「ふふっ、ラピスが食べ終わったら、一緒に手紙を開けてみようか」 状況を察したのか、ルリさんが小さく笑った。
 ラピスは時々俺の身体を借りて活動している。流石に授業中に身体を貸して欲しいと言われたときは、全力で止めたけど。

 手紙を開けてみると、便せんの一番上にとても丁寧な字で『十二支に選ばれた皆様へ』と書かれていた。
 内容は、酒呑童子の封印について今後の作戦や、新しく十二支に力を授かった者達の顔合わせをする、とのことだった。
「新しく仲間に加わったのは優一くんと理花、あとは確か『未』の子だったかな? 『寅』と『申』は空席だから」
 咲楽さんが思い出すように話す。
「空席?」
「そう。『寅』は封印の間の玉が壊されてしまってから、何処かをさまよってるみたいでね。『申』は……いない」
「え?」
 いないって、どういう事だろう? その疑問にはルリさんが答えてくれた。
「咲楽が何度も『申』の気配を探ったんだが、どういう訳かいないんらしいんだ。まるで、はじめから存在しなかったかのように」「……?」
 封印の間には十二支全ての力が集結していて「申」の玉は割られていないはず。
 ーーなら、どうして。

 GW半ばの日、俺達は卯月家の屋敷へと向かった。出かけようと外へ出ると迎えの車が用意されていたので、驚きつつもその車に乗り込む。
「こ、高級車だ……」
 緊張で声がロボットみたいになってしまった。ルリさんは
「庶民にはまず手が出ない車だな」
 と、ため息をつく。
「毎度思うけど、卯月家も太っ腹だよね。流石財を成した一族のやることは違うなあ」
 と、楽しげな口調で言った。
 車は見慣れた道から、少し山奥へと走る。
 学校以外で理花に会うのは久しぶりだな、とか「未」の子ってどんな子だろう、と思いを巡らせる。
「あ、優一くん! 見えてきたよ」
「……わあ」
 山に隠されるように建つその屋敷は、日本よりヨーロッパの方が絶対に合うと思ってしまうほど、洋風の美しい建物だった。格式ある教会のようだ、と優一は思う。
 車が屋敷の前までくると、黒色の門がひとりでに開く。かわいらしい花々が咲いている庭を抜けて、広場に止まる。
「……すごいですね」
 車から降りると、俺はその言葉しか出ないほど、屋敷の豪華さに圧倒された。
「うん、いつ見ても綺麗だ」
 ルリさんが同意するように言う。
「ゆーくん!」
「あ、り……か」
 理花は5月の暑さにふさわしい、少し涼しげなブルーのワンピースに身を包んでいた。子供みたいにぶんぶんとこちらに手を振る姿に、少しドキッとする。かわいい。
「ここのお屋敷、とっても素敵ね。こんな場所、初めて」
 屈託なく笑う彼女を見て、心臓の鼓動がはやくなる。
「う、うん……」
「フン、こんなやつらが十二支に選ばれるなんてな、先が思いやられる」「え?」
 声のする方を振り向くと、腕組みをした少し威圧感のある人物が立っていた。
 こちらに睨みをきかせて、こう吐き捨てる。
「妖に育てられたとは言っても、弱々しくて、なよっとしたヤツだな」


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