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暮らしの森|図書館の人気者|リブロ

森の図書館の朝は、今日も変わらない。

アキラはいつものように書架の間を歩く。
背表紙の高さや分類札の向きを確認しながら、一冊ずつ棚を整えていく。

「あれ……?」

今日は妙に整っている。

アキラが不思議そうに棚を眺めていると、
コトン。カシャリ。
聞き慣れない音がした。

アキラは顔を上げ、音のする方へ目をやると、棚の間をロボットが滑るように動いていた。

「……ああ」

そうだった。
昨日から、こいつがいるんだった。

リブロ。図書館の自動整理担当。
半年前に見た時はただの壊れた掃除機だった。
それが昨日、復元されて戻ってきた。

──その姿を変えて。

リブロの動きを目で追う。
棚が、みるみる整っていく。

「速いな……」

思わず一歩引く。
棚を指で拭ってみるが、埃ひとつない。

アキラはもう一度リブロの方を見た。

(これ……、俺の仕事なくなるんじゃ……)

──はっとして、小さく咳払いをする。
アキラは何事もなかったように、棚へ視線を戻した。

「リブロ!その本取ってー!」

開館後、子どもたちの声が響く。

リブロは棚の間を滑るように動き、アームで本を掴む。

コトン。
机の上に置かれた本を見て、子どもたちが歓声をあげた。

「すごーい!」
「もう一回やって〜!」

リブロは言葉を話さない。ただランプを点滅させながら、また別の棚へ向かう。

スー、コトン。
カシャリ。

その動きは迷いがなく、
見ているだけで楽しいらしい。

まるで、図書館に新しい遊具が来たみたいだった。

「……まあ、人気者になるのも無理はないか」

アキラは少し離れたところから、その様子を眺めていた。

利用者が増えるのは、いいことだ。

一人でも多くの人に本を届ける。
それが司書の仕事だから。

だから、文句なんてない。

子ども受けする見た目でも。
宙を飛んでいても。
……自分より、ずっと速くても。


「……まあ、いいか」


アキラはそう呟いて、もう一度棚を見る。
けれど、視線はなかなか次の棚へ移らなかった。

その時だった。

「アキラさん!」

声をかけられて顔を上げると、
小さな男の子が手を振っていた。
リブロの横で、得意そうな顔をしている。

「リブロすごいよ!この本すぐ見つけた!」

差し出された本を見て、アキラは少しだけ眉を上げた。

「よかったな」

虫の図鑑だった。

大きなイラストと、短い説明。
木の葉の裏に隠れる虫や、
夜に光る小さな甲虫の話が載っている。

「これ、見たことある!」

男の子が声を上げる。

「ぼくも、森で見た!」

隣の子どもも身を乗り出す。

「この虫って、前にハヤトが捕まえたやつじゃね?」

ページをめくるたびに、子どもたちの声が弾む。
机の周りに自然と人が集まり、いつのまにか小さな輪ができていた。

リブロのゴーグルが淡く点滅する。
アキラはその光景を眺めながら、
ふと自分の手元を見る。

いつもなら気にも留めない程度のずれを、
ほんの数ミリだけ直す。



「……俺より……」

その声は、自分でも聞き取れないほど小さかった。


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