暮らしの森|図書館の人気者|リブロ
森の図書館の朝は、今日も変わらない。
アキラはいつものように書架の間を歩く。
背表紙の高さや分類札の向きを確認しながら、一冊ずつ棚を整えていく。
「あれ……?」
今日は妙に整っている。
アキラが不思議そうに棚を眺めていると、
コトン。カシャリ。
聞き慣れない音がした。
アキラは顔を上げ、音のする方へ目をやると、棚の間をロボットが滑るように動いていた。
「……ああ」
そうだった。
昨日から、こいつがいるんだった。
リブロ。図書館の自動整理担当。
半年前に見た時はただの壊れた掃除機だった。
それが昨日、復元されて戻ってきた。
──その姿を変えて。
リブロの動きを目で追う。
棚が、みるみる整っていく。

「速いな……」
思わず一歩引く。
棚を指で拭ってみるが、埃ひとつない。
アキラはもう一度リブロの方を見た。
(これ……、俺の仕事なくなるんじゃ……)
──はっとして、小さく咳払いをする。
アキラは何事もなかったように、棚へ視線を戻した。
◆
「リブロ!その本取ってー!」
開館後、子どもたちの声が響く。
リブロは棚の間を滑るように動き、アームで本を掴む。
コトン。
机の上に置かれた本を見て、子どもたちが歓声をあげた。
「すごーい!」
「もう一回やって〜!」

リブロは言葉を話さない。ただランプを点滅させながら、また別の棚へ向かう。
スー、コトン。
カシャリ。
その動きは迷いがなく、
見ているだけで楽しいらしい。
まるで、図書館に新しい遊具が来たみたいだった。
「……まあ、人気者になるのも無理はないか」
アキラは少し離れたところから、その様子を眺めていた。
利用者が増えるのは、いいことだ。
一人でも多くの人に本を届ける。
それが司書の仕事だから。
だから、文句なんてない。
子ども受けする見た目でも。
宙を飛んでいても。
……自分より、ずっと速くても。
「……まあ、いいか」
アキラはそう呟いて、もう一度棚を見る。
けれど、視線はなかなか次の棚へ移らなかった。
その時だった。
「アキラさん!」
声をかけられて顔を上げると、
小さな男の子が手を振っていた。
リブロの横で、得意そうな顔をしている。
「リブロすごいよ!この本すぐ見つけた!」
差し出された本を見て、アキラは少しだけ眉を上げた。
「よかったな」
虫の図鑑だった。
大きなイラストと、短い説明。
木の葉の裏に隠れる虫や、
夜に光る小さな甲虫の話が載っている。
「これ、見たことある!」
男の子が声を上げる。
「ぼくも、森で見た!」
隣の子どもも身を乗り出す。
「この虫って、前にハヤトが捕まえたやつじゃね?」
ページをめくるたびに、子どもたちの声が弾む。
机の周りに自然と人が集まり、いつのまにか小さな輪ができていた。
リブロのゴーグルが淡く点滅する。
アキラはその光景を眺めながら、
ふと自分の手元を見る。
いつもなら気にも留めない程度のずれを、
ほんの数ミリだけ直す。
「……俺より……」
その声は、自分でも聞き取れないほど小さかった。
