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🍳02.お嬢様は味付けがわからない

昨日は、はじめて自分で選んだ日だった。

卵にハム、そしてトマト。
袋から出しただけで、どこか達成したような気持ちになっていた。

今朝、キッチンに立ってそれを眺める。
並べただけの食材が、やけに頼もしく見える。

「今日は、作ってみますわ」

袖をまくり、誰かに宣言するように意気込む。
フライパンを出し、油をひく。
卵を割ると、じゅっ、と音がする。

それだけで、なんだかできる人のような気分になる。

屋敷では、料理は“音”だった。
刻む音、焼く音、煮立つ音。
出来上がる前から、正解が約束されている音。

けれど今は違う。まず、味付け。
砂糖か?塩か?どれくらい入れればいいのか?なに一つ基準がない。

「少し……多めでいいかしら」

ぱらり、と振る。
少し考えて、もう一度ぱらり。

不安は、足す方向に傾く。
少ないより、多い方が安心に思えてしまう。

皿に盛りつける。見た目はそれらしい。
フォークでひと口。

「……っっ!しょっぱ……」

塩辛い。明らかに不正解の味付け。
だけど、“どれくらい”濃いのかが分からない。

これは大失敗なのか?
それとも我慢すれば食べられる範囲なのか?

塩が多すぎ?
それとも砂糖や水を足せば良かった?

なに一つ判断ができない。

「……これって、食べてもいいのかしら」

屋敷にいた頃なら、きっとすぐに文句を言っていたはずだ。なのに今は返事すらない。

もうひと口食べる。
やっぱり、しょっぱい。

それでも、全部は捨てられなかった。
自分で作ったものだからこそ、大事にしたい。
無理に飲み込むと、瞳の奥がじわりとにじむ。

“正解が分からない”ことが、こんなにも不安だなんて。
失敗よりも辛い現実。

「……わたくし、何も分かっていませんのね」

キッチンに、独り言が落ちる。
洗い物をしながら、少しだけ手が止まる。

「次は、塩を少なめに。砂糖も入れてみますわ。
……それが正解かは、分かりませんけれど」



#カレン森
#お嬢様の一人暮らし


🧺 テキパキ&シレットの一言メモ

一人暮らしあるある
・不安だとつい調味料を足しすぎる
・味見しても「これでいいのか」が分からない
・どう直せばいいか分からない

テキパキ
「最初はみんなやりすぎちゃうんですよねぇ。
味付けは、少なめから始めましょう。
足し算はできても引き算は難しいですから」

シレット
「慣れるまでは、計量が安全」



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