09.森で一番形にする人|アツコ
─森の仕立て屋さん─
森の東側、湖から少し離れた場所に、
一本すらりと伸びた大木がある。
幹の途中には丸い窓、枝には色とりどりの布が揺れ、根元には小さな扉。
そこが、森の仕立て屋『アツコ』の家だ。
朝の光を浴びながら、アツコはほうきを動かす。扉の前の石畳には、昨夜仕上げた布屑がまだ少し残っている。
中に入ると、壁際の棚には布と糸、そしてハヤトがどこからともなく持ち帰った金具がきちんと並べられていた。
アツコは金具を指で軽くつまみ、目を細める。
「これ、森の子たちにはまだ扱いが難しいけど……使い方を変えれば、軽くて丈夫な留め具になりそう」
「ハヤトの探検好きも結構役に立つわね」
小さくつぶやき、ミシンを動かす。
その手つきは、静かで無駄がない。

午前の風に乗って、モコがふわりと現れた。
「アツコ、街に行くって聞いたモコ」
「うん、今日は仕入れの日。街の市場は週に一度しか開かないからね」
鞄の留め具を確かめて、扉を閉める。
森仕様の軽い布袋に、街でも使える丈夫な金具がついている。その組み合わせこそ、アツコの仕事そのものだ。
森と街を行き来し、ふたつの世界をゆるくつないでいく職人。
彼女が歩き出すと、光に揺れる布の端が、森の空気を切るようにさらりと揺れた。
「帰りには甘いパン買ってくるね。モコ、ハヤトやメイにも分けてあげて」
「やったモコ〜!」
森の奥へ響く声の向こうで、
アツコはそのまま街へ続く道に入っていった。

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