📚図書館編10|自動整理支援システム|リブロ
森の図書館の朝は、開館前のまだ人の少ない時間がいちばん静かだった。
窓から差し込む朝の光の中で、紙の擦れる音が聞こえてくる、いつもの朝。
アキラは返却された本を手に取り、いつものように棚へ戻していた。
やがて職員が集まり、開館前の簡単な打ち合わせが始まる。
「今日から、新システムの導入だ」
館長の説明を聞きながら、アキラはふと、昨日のことを思い出した。
復元計画が完了したこと。
その復元されたものが、今日から使われること。
「……そういえば、そんなこと言ってたっけ」
昨日の館長の話は、拍子抜けするほどすぐに終わった。だからあまり気にも留めていなかった。
「さて。」
打ち合わせを終えると、アキラは残っていた本を抱え、いつものように棚の順番を確認する。
その時、入口の方から、何かを運び込むような音が聞こえてきた。
コトン、カシャン。
金属が擦れるような音が、図書館の静かな空気に響いた。
アキラが振り返ると、小さな荷台がゆっくりとこちらへ運ばれてくるのが見えた。
その上に乗っていたのは、真鍮を思わせる素材で作られた不思議なロボットだった。

真鍮の丸いヘルメット。
大きなゴーグル。
白衣のような服に包まれた、小さな身体。
アキラは、しばらくその姿を眺めた。
「……あれ?」
どこかで、見たことがある。
だが、すぐには思い出せない。
もう一度眺めてみると、丸いヘルメットや大きなゴーグルだけでなく、真鍮の素材もどこか記憶に引っかかった。
「この形……」
しばらくして、アキラの目が少しだけ見開かれた。
「ああ……」
図書館の改修中に見つけた、古い設計図。
そこに描かれていたロボットと、目の前の姿がよく似ていた。
「そうか……あの時の」
けれど、それ以上考える暇はなかった。
館長がスイッチを入れると、リブロの丸いランプが淡く点滅し、次の瞬間静かに動き出した。
スー……。
宙に浮き、滑らかに棚の前へ移動する。アームが伸び、本の背表紙のバーコードをスキャンして読み取る。
スッ、スッ。コトン。
そして、迷いなく本棚に差し込んだ。
その動きは驚くほどスムーズだった。
「なにっ?」
本はあっという間に戻され、
背表紙はきれいに揃っていく。
「す、すごいのが導入されたな……」
アキラが目を丸くしていると、
リブロは今度は棚の隅へ向かった。
すると、リブロは手にした大きな羽根を、すっと下ろした。
サッ、サッ。
棚の隅に溜まっていた埃を、器用に一か所へ集めていく。
「……掃除までやるのか」
アキラが感心して見ていると、リブロは動きを止めた。
その瞬間。
胴体の奥から低い音が響いた。
ウィィィン……。
棚の隅に溜まっていた埃が、
すうっと吸い込まれていく。
「なっ……!」
アキラの動きが止まった。
その姿を見て、ようやく記憶がつながった。
「……お前!あの時の掃除機か!」
思わず声が出る。
リブロは何も答えず、ただ何事もなかったように次の棚へ向かっていく。
スー……。
「……まさか、あれがこんな姿になって帰ってくるとは……」
アキラはしばらく、その後ろ姿を眺めていた。
──リブロ。
図書館の「自動整理担当」。
その時のアキラは、まだ知らなかった。
この小さなロボットが、これから自分の仕事を脅かす存在になることを。

(続く)
アキラの図書館編(総集編)⬇︎
これまでの流れをダイジェストでお送りします。流れを一気に辿れるので、最近この物語を知ってくださった方におすすめです。
図書館編|第1話から読む⬇︎
1話ずつ、ゆっくり読みたい方はこちらから。8話ほど読むと、今回の話に繋がります。
