こーゆー刑事 番外編「父の後をつけた娘が見たもの」
毎晩、誰もいない部屋に「おやすみ」と言う父
通報があった
「隣の家のおじいさんが、毎晩誰もいない部屋に話しかけているんです。」
認知症かもしれない。
そう思った。
その家には67歳の父親が住んでいた。
3年前に妻を亡くし、今は娘との二人暮らし。
だが父には妙な習慣があった。
毎晩10時になると、二階の和室へ上がる。
そして誰もいない部屋に向かって言うのだ。
「今日もありがとうな。」
「おやすみ。」
それを3年間、一日も欠かさず続けていた。
娘も最初は気味が悪かった。
ある日、思い切って聞いた。
「誰に話しかけてるの?」
父は少し笑った。
「内緒だ。」
それ以上は何も話さなかった。
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娘は気になった。
そしてある夜、父の後をつけた。
父は和室の襖の前に正座し、ゆっくりと襖を開けた。
そして静かに言った。
「おやすみ。」
部屋には誰もいない。
誰も。
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翌日。
娘は父の留守中に和室を調べた。
押し入れの奥から、古い段ボール箱が見つかった。
中には何十冊ものノート。
亡くなった母の日記だった。
娘は震える手でページをめくる。
家族で出かけた日のこと。
父と喧嘩した日のこと。
娘が生まれた日のこと。
何年分もの日々がそこにあった。
そして最後のノート。
最後のページ。
そこには、こう書かれていた。
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「お父さんへ」
「私がいなくなっても、毎晩あの子と二人で『おやすみ』を言ってね。」
「私、それを聞きながら毎晩あなたのそばにいるから。」
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娘は言葉を失った。
父は認知症ではなかった。
約束を守っていただけだった。
妻との約束を。
誰にも言わずに。
3年間ずっと。
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その夜。
父はいつものように二階へ上がった。
すると後ろから足音がした。
振り返ると娘が立っていた。
父は少し驚いた。
娘は何も言わず、父の隣に座った。
そして二人で襖の向こうへ声をかけた。
「お母さん、おやすみ。」
その瞬間。
父は静かに泣いた。
3年間、一度も見せなかった涙だった。
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事件はなかった。
怪異もなかった。
ただ一つだけ分かったことがある。
人は亡くなる。
姿も見えなくなる。
声も聞こえなくなる。
それでも約束だけは残る。
約束は、生き続ける。
誰かの心の中で。
ずっと。
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【こーゆー刑事の記録】
「誰もいない部屋に話しかける人」を見たら、認知症だと思うかもしれない。
でも時々、その人には見えている。
私たちには見えない、大切な誰かが。
そして人は、
忘れられないから話しかけるのではない。
今も大切だから、話しかけるのだ。
