レンタルスペース運営エッセイ99|⑩発展・マネタイズ拡張-9.複数店舗展開
この連載は、日本の小規模な時間貸しレンタルスペース運営について、現場での気づきや工夫をまとめた実践記録です。
今回のテーマは、複数店舗展開です。
一言で定義すると、複数店舗展開とは、一つの拠点で生まれた成功を、別の場所でも無理なく再現できる仕組みに変えることです。
よくある誤解は、店舗数を増やせば、その分だけ利益も増えるという考え方です。
実際には、家賃や光熱費、清掃費、備品費、システム利用料なども拠点ごとに増えていきます。
売上が増えても、管理の手間や固定費まで含めると、利益が思うように残らないことがあります。
この記事では、埼玉県三芳町の郊外型レンタルスペース「TYフェアリーリング」の運営経験をもとに、2号店を検討する前に確認したい条件と、店舗を増やさずに事業を育てる選択肢について考えます。
「ほかにはどこにありますか?」から見えるブランドの手応え

TYフェアリーリングをご利用いただいたお客様から、ときどき次のような質問をいただきます。
「ほかには、どこにありますか?」
「母体は、どちらの会社ですか?」
実際には、TYフェアリーリングは大きな企業が展開するチェーン店ではありません。私自身・夫婦が運営している、埼玉県三芳町の郊外型レンタルスペースです。
それでも別の店舗があるように感じていただけるのは、予約から入室、設備の案内、利用後の流れまでが、一つのサービスとして整って見えているからかもしれません。
空間の雰囲気、案内文、備品、清掃、予約ページなどが一定の方向にそろい、「TYフェアリーリング」という名前が一つのブランドとして伝わり始めている。
そう考えると、運営者としては、とてもうれしい質問です。
運営している三つのルームは同じ拠点内にあり、経営上は一つの場所です。
数え方によっては三つのスペースを運営しているため、「ほかには、どこにありますか?」というご質問に、「三か所あります」と答えられなくもありません。
ただし、別の物件を借りて店舗を増やす多店舗展開とは、必要となる費用や運営の負担、抱えるリスクが大きく異なります。
三つのスペースと、三つの店舗は同じではない

同じ建物の中で複数のスペースを運営する場合、入口、電気設備、通信環境、備品置き場、清掃動線などを共有できます。
現場の状況も確認しやすく、トラブルが起きたときにも対応しやすいでしょう。
一方、別の場所に2号店を出すと、新しい家賃だけでなく、移動時間、備品の補充、鍵の管理、清掃品質の確認、近隣対応なども増えていきます。
比較すると、違いが見えやすくなります。

店舗数だけを見れば、2号店の出店は分かりやすい成長です。
しかし、小さな事業では、管理する場所が増えること自体が経営リスクになります。
多店舗展開は、固定費を増やす決断でもある

賃貸物件でレンタルスペースを運営し、複数店舗へ展開することで利益を高めている方もいます。
それは立派な事業戦略です。
ただし、成功している姿だけを見て、同じように店舗を増やせば利益が増えると考えるのは危険です。
賃貸型では、予約が少ない月でも家賃が発生します。
そこに光熱費、通信費、保険料、清掃費、予約サイトの手数料、備品の購入費などが加わります。新しい店舗をつくる際には、保証金、内装費、家具、設備、撮影費なども必要です。
収益は毎月変動しますが、固定費は待ってくれません。
レンタルスペースには、販売できる時間数にも上限があります。価格を下げて予約件数を増やしても、清掃や問い合わせ対応が増えれば、負担のわりに利益が残らないことがあります。
薄利多売で簡単に規模を広げられる事業ではないのです。
出店を考えるときは、売上ではなく「実質的に残る利益」を確認する必要があります。
月間の実質利益
= 売上
- 変動費
- 固定費
- 自分の作業時間を金額に換算したもの
自分の清掃時間や移動時間を無料として計算すると、実際よりも利益が多く見えてしまいます。
損益分岐点を簡単に試算する場合は、次の式も役立ちます。
損益分岐点売上
= 月間固定費 ÷(1-変動費率)
数字はあくまで判断材料ですが、出店後に「こんなはずではなかった」とならないための大切な確認です。
2号店を出す前に確認したい六つの条件

1.出店の理由が明確になっているか
「1号店がうまくいったから」という理由だけでは、2号店を出す根拠として十分ではありません。
満室でお断りする予約が増えているのか。
現在とは別のエリアから問い合わせがあるのか。
既存店舗では対応できない利用目的があるのか。
出店によって解決したい課題を、具体的にする必要があります。
新しい店舗を出すこと自体を目標にせず、その店舗が必要とされる理由を確認します。
2.1号店の利益が安定しているか
一時的に予約が増えた月ではなく、季節による変動も含めて判断します。
少なくとも直近数か月から1年程度の売上、経費、予約件数、客単価、稼働率を並べると、繁忙期と閑散期の違いが見えやすくなります。
さらに、自分の作業時間や設備交換などの臨時支出も含めて、本当に利益が残っているかを確認します。
1号店の赤字を2号店の売上で補う計画は、問題を二つに増やす可能性があります。
3.自分がいなくても運営できるか
一店舗であれば、細かな判断を自分の記憶と経験で補えます。
しかし、店舗が増えると「自分だけが知っている運営方法」は通用しにくくなります。
清掃の順番、備品の補充基準、問い合わせへの回答、トラブル時の連絡方法、利用後の確認などを、第三者にも分かる形にしておく必要があります。
2号店を出す前に、まず1号店の運営を言語化する。
これは、多店舗展開を成功させるための重要な準備です。
4.その立地ならではの使いやすさがあるか
TYフェアリーリングの近くにはコンビニがあり、両方向へ数分ほど移動すると大型スーパーがあります。
斜め前の回転ずしで料理をテイクアウトしてから、当スペースを利用されるお客様もいらっしゃいます。
こうした周辺環境は、パーティーや集まりで利用する方にとって、空間そのものと同じくらい便利な要素です。
2号店を考える際は、1号店の内装や設備をそのまま再現するだけでは足りません。
食料品を購入しやすいか。
駅や駐車場から移動しやすいか。
夜間でも安心して利用できるか。
近隣の生活環境と利用目的が合っているか。
その地域だからこそ成り立つ使いやすさを確認することが大切です。
5.出店費用だけでなく、維持資金を確保できるか
出店時の初期費用を準備できても、予約が安定するまでの運転資金が足りなければ、価格を必要以上に下げたり、改善に使う資金を削ったりすることになります。
初期費用に加えて、数か月分の固定費や予備費を確保しておくと、慌てずに改善を続けやすくなります。
同時に、次のような撤退基準も決めておきます。
・何か月連続で赤字になったら見直すか
・どの売上水準を下回ったら縮小を考えるか
・追加投資をどこまで許容するか
・解約費用や原状回復費を準備できるか
始め方だけでなく、やめ方まで考えておくことが、無理のない経営につながります。
6.自分の暮らしに合っているか
TYフェアリーリングは、郊外型の店舗兼住宅という形で運営しています。
私にとって、この場所は単なる収益物件ではありません。
お客様を迎え、空間を整え、少しずつ改善していくことが、日々の生活の一部になっています。
将来も無理のない範囲で続けられれば、老後の生きがいにもなり得る仕事です。
だからこそ、現在のところ、別の地域に同じ形の店舗を次々と増やす計画はありません。
移動や管理に追われて、今いるお客様や現在の空間に十分な目を向けられなくなれば、私が目指している運営とは違うものになってしまいます。
店舗を増やさないことは、消極的な判断ではありません。
どのような働き方や暮らしを続けたいのかを考えたうえで選ぶ、経営判断の一つです。
AIと一緒に、出店判断を見える形にする

多店舗展開を検討するときは、期待が大きいほど、楽観的な数字を採用したくなることがあります。
そのようなとき、AIを壁打ちに使うと、自分だけでは見落としやすい条件を整理できます。
たとえば、個人情報や予約者名を除いたうえで、直近12か月の売上、経費、予約件数、利用時間、問い合わせ内容を表にまとめます。
そのデータをもとに、次のように依頼できます。
現在の店舗を改善する案、同じ拠点内で利用枠を増やす案、新しい賃貸物件へ出店する案を比較してください。
それぞれについて、必要資金、毎月の固定費、想定売上、運営時間、主なリスク、撤退条件を表にしてください。
楽観的な想定だけでなく、標準的な場合と厳しい場合も示してください。
AIに答えを決めてもらうのではなく、判断材料を並べてもらう使い方です。
さらに、口コミや問い合わせを整理し、「別の地域にも需要があるのか」「現在の拠点を改善すれば対応できる要望なのか」を分類することもできます。
ただし、AIが計算した数字や需要予測は、そのまま信用せず、元のデータや計算式を確認する必要があります。
現場の状況、資金、家族との時間、自分の体力まで含めて、最終的な判断をするのは運営者自身です。
店舗を増やさずに成長する方法もある
事業を育てる方法は、新しい物件を借りることだけではありません。
TYフェアリーリングのように同じ拠点で三つのスペースを運営している場合は、それぞれの利用目的を分かりやすくし、お客様が用途に合う空間を選べるようにすることも成長です。
ほかにも、次のような方法があります。
・長時間利用や定期利用を分かりやすく案内する
・企業、教室、撮影など利用目的ごとの説明を整える
・周辺の買い物環境や飲食店の便利さを予約ページで伝える
・三つのスペースを組み合わせた利用方法を提案する
・写真や案内文を見直し、初めての方の不安を減らす
・地域の事業者や講師と連携し、新しい利用機会をつくる
これらは、新しい家賃を増やさずに、既存の空間が持つ価値を深める方法です。
近くにコンビニや大型スーパーがあることも、斜め前の回転ずしから料理を持ち帰れることも、地域に根ざしたスペースだから伝えられる魅力です。
新しい店舗をつくる前に、今ある拠点の価値を十分に伝えられているかを確認する。
その改善だけで、予約の入り方やお客様の満足度が変わる可能性があります。
増やすことだけが、成長ではない
複数店舗展開には、売上機会を増やし、商圏を広げられる魅力があります。
一つの店舗が設備トラブルなどで利用できないとき、別の店舗で補える可能性もあります。
ただし、同じ客層や同じ地域に店舗を増やせば、必ずしも十分なリスク分散になるとは限りません。
店舗を増やすほど、判断と責任も増えていきます。
だからこそ、「出店できるか」だけでなく、「出店後も自分らしく続けられるか」を考えることが大切です。
TYフェアリーリングは、現在の一拠点に三つのスペースを持ち、地域の中で少しずつ育ってきました。
お客様から「ほかにはどこにありますか」と尋ねていただけることは、ブランドとして認識していただけた、ありがたい手応えです。
その期待に応える方法は、必ずしも店舗数を増やすことだけではありません。
今ある場所を丁寧に整え、使いやすさを深め、長く続けられる運営をつくることも、立派な成長です。
広げることと、深めること。
どちらが正しいかではなく、自分が守りたい価値に合う方法を選ぶ。
その判断が、小さなレンタルスペースを無理なく育てていく力になるのだと思います。
レンタルスペース運営や副業、これからの働き方を考える方にとって、ヒントになりましたら幸いです。
現在、日々の現場で得た気づきをもとに、「レンタルスペース運営エッセイ」を実践型の教材として整理しています。
運営の迷いや改善、集客、利用者対応、生成AIの活用まで、現場に即した形でまとめていく予定です。
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(完成した際には、いつも note を読んでくださっている方へ、感謝の気持ちを込めて、読者限定の割引案内も準備したいと考えています)
▶ [【索引】レンスペ運営エッセイ|講座化対応テーマ100選マスター]
※本ページに掲載しているテーマ構成・分類・連載設計は、レンタルスペース TYフェアリーリングの実運営経験と、AI共創アドバイザー™としての生成AI活用支援の視点も加えて作成した独自コンテンツです。
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