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「どうして分かってくれないんだ」と思った時に読む話 ~人を変えようとすると苦しくなる理由~

「どうして分かってくれないんだろう」
仕事でもプライベートでも、そう思った経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

一生懸命説明しているのに伝わらない。
何度お願いしても同じことを繰り返す。
こちらは良かれと思って助言しているのに、なぜか反発される。

そんな時、私たちはついこう考えてしまいます。
「相手が変わってくれればいいのに」と。

私も長年、小売業の現場で働いてきました。
店長の上の立場で複数の店舗を統括する総合責任者として、多くの店長やスタッフと関わってきました。

業績を伸ばす店長もいれば、なかなか成長できない店長もいる。
すぐに改善する人もいれば、何年経っても同じ問題を繰り返す人もいる。

そんな姿を見続ける中で、私は一つの大きな疑問を持つようになりました。
「人を変えることはできるのだろうか」

教育や指導によって人は成長します。
しかし、それは本当に「変えた」と言えるのでしょうか。

命令や圧力によって行動を変えることはできます。
けれども、それは相手が納得して変わったのではなく、従わされているだけかもしれません。

実際、強制された変化は長続きしません。
むしろ反発や不満を生み、人間関係を悪化させることさえあります。

一方で、同じ人がある日を境に驚くほど成長することがあります。
誰かに無理やり変えられたわけではありません。
本人が何かに気づき、自ら変わろうと決めたのです。

私はこれまでの経験から、「人を変えることはできない。しかし、人が変わるきっかけを作ることはできる。」という考えにたどり着きました。

そしてこの考え方は、部下育成だけの話ではありません。
上司との関係。
同僚との関係。
夫婦や親子の関係。
友人との関係。

私たちが抱える多くの人間関係の悩みは、「相手を変えようとしていること」から生まれているように思うのです。

この記事では、
・なぜ人を変えようとすると苦しくなるのか
・人はどのような時に変わるのか
・人間関係を楽にする考え方とは何か
・それでも変わらない人とはどう向き合えばいいのか
について、私自身の経験も交えながら考えてみたいと思います。

もし今、あなたの周りに「どうして分かってくれないんだ」と思う相手がいるなら、この記事が少し肩の力を抜くきっかけになるかもしれません。


<第1章>人を変えようとするほど苦しくなる

「どうして分かってくれないんだろう」
人間関係の悩みの多くは、この一言に集約されるのではないでしょうか。

仕事でも家庭でも、私たちは日々さまざまな人と関わっています。
部下が思うように動いてくれない。
上司が現場のことを理解してくれない。
同僚が協力的ではない。
家族が自分の気持ちを分かってくれない。

そんな時、私たちは相手の言動そのものに問題があると思いがちです。
しかし、長年多くの人と関わってきた経験から感じるのは、人間関係の苦しさは「相手そのもの」よりも、「相手への期待」から生まれることが多いということです。

私たちは無意識のうちに、相手にさまざまな期待をしています。
「これだけ説明したのだから理解してくれるはずだ」
「普通に考えればこう行動するはずだ」
「こちらの気持ちを察してくれるはずだ」
「何度も言われたのだから改善するはずだ」

しかし、相手は私たちが思うようには動きません。
その瞬間に生まれるのが失望です。
そして失望は、やがて怒りや不満へと姿を変えていきます。

実は、相手の行動そのものよりも、「なぜ分かってくれないんだ」という思いの方が、私たちを苦しめているのです。
 
私が総合責任者として複数店舗を見ていた頃、店長たちからよく相談を受けました。
「何度指導しても同じミスをするスタッフがいます」
「やる気が感じられません」
「なぜ言われたことができないのでしょうか」

店長として責任感が強い人ほど、こうした悩みを抱えていました。
もちろん、その気持ちはよく分かります。
店舗運営はチームで行うものです。
一人ひとりが役割を果たさなければ成果は出ません。
だからこそ、できていない部分が気になるのです。

しかし話を聞いていると、多くの場合、問題はスタッフだけにあるわけではありませんでした。
店長自身が、「こうあるべき」、「こう動くべき」という理想を強く持っていることが少なくなかったのです。

理想を持つことは決して悪いことではありません。
むしろ組織を成長させるためには必要です。

ただ、その理想を相手に押し付け始めると、人間関係は苦しくなります。
なぜなら、人はそれぞれ違う価値観や考え方を持っているからです。

自分にとって当たり前のことが、相手にとっては当たり前ではない。
自分が重要だと思うことを、相手はそれほど重要だと思っていない。
その違いを受け入れられない時、人は相手を変えようとします。
 
ところが、ここに大きな落とし穴があります。
人を変えようとすると、相手の行動ばかりに目が向くようになります。
「まだ変わっていない」
「また同じことをしている」
「なぜできないのだろう」

そんなふうに相手を観察するようになるのです。
すると不思議なことに、良い部分よりも悪い部分ばかりが目につくようになります。

人間の脳は、自分が注目しているものを探し続ける性質があるからです。
「この人は問題ばかり起こす」
と思えば、本当に問題ばかりが目に入ります。

「この人は協力してくれない」
と思えば、協力してくれなかった場面ばかり記憶に残ります。
その結果、ますます相手への不満が大きくなっていくのです。
 
さらに厄介なのは、相手もこちらの期待や不満を敏感に感じ取ることです。

人は「変えられよう」とすると抵抗します。
自分の考えや価値観を否定されたと感じるからです。

たとえ正しい助言であったとしても、「あなたは間違っている」、「今のままではダメだ」というメッセージとして受け取られてしまうことがあります。

すると相手は心を閉ざします。
反発したり、言い訳をしたり、表面上だけ従ったりするようになります。

つまり、「人を変えようとするほど、相手は変わりにくくなる。」という皮肉な現象が起きるのです。
 
では、どうすればいいのでしょうか。
その答えは意外とシンプルです。

まず、「相手を変えること」を手放すことです。

もちろん、諦めるという意味ではありません。
期待を捨てるという意味でもありません。
ただ、「この人を私が変えなければならない」という思い込みを手放すのです。

人はそれぞれ、自分の人生の主人公です。
誰かに変えられる存在ではありません。

だからこそ、私たちにできることは相手を無理に変えることではなく、
相手が自ら変わりたくなるような関わり方を考えることなのです。

その考え方を最も分かりやすく教えてくれるのが、次章で紹介する有名な寓話「北風と太陽」です。

<第2章>北風と太陽が教えてくれること

人を変えようとすると、かえって相手は変わりにくくなる。
そう聞くと、「ではどう接すればいいのか」と思うかもしれません。

その答えを分かりやすく教えてくれるのが、誰もが一度は聞いたことのある『北風と太陽』の寓話です。
この話は私の記事の中でも何度か取り上げてきました。

旅人のコートを脱がせる勝負をした北風と太陽。
北風は力いっぱい風を吹きつけました。
しかし旅人は寒さに耐えようとして、ますますコートを体に巻き付けます。
一方、太陽は暖かな光を降り注ぎました。
すると旅人は暑くなり、自らコートを脱いだのです。

この話は単なる童話ではありません。
人間関係の本質を見事に表していると思います。
 
私たちは誰かを変えたいと思った時、つい北風になってしまいます。
もっと厳しく言えば分かるだろう。
もっと強く指導すれば変わるだろう。
もっと問題点を指摘すれば改善するだろう。
そんなふうに考えてしまうのです。

もちろん、時には厳しさも必要です。
組織にはルールがありますし、安全や法令に関わることなら妥協はできません。
しかし、厳しさだけで人の心は動きません。
むしろ逆効果になることさえあります。

なぜなら人は、自分を守ろうとする本能を持っているからです。

強く責められれば言い訳をしたくなる。
否定されれば反発したくなる。
追い込まれれば心を閉ざしたくなる。
これは能力の問題ではなく、人間としてごく自然な反応です。

北風を強く吹かせれば吹かせるほど、旅人がコートを強く握りしめたのと同じです。
 
成果を出す店長にはある共通点がありました。
それは、「人を動かそうとしない」ということです。

誤解しないでいただきたいのですが、放任しているわけではありません。
必要なことはきちんと伝えます。
指導もします。
改善点も伝えます。
しかし、無理やり従わせようとはしないのです。

代わりに、
「なぜそう考えたの?」、
「どうしたらうまくいくと思う?」、
「何か困っていることはある?」と、相手の考えを引き出そうとします。

相手の話を聞き、理解しようとします。
そして本人が納得して行動できるよう支援するのです。

すると不思議なことに、人は少しずつ変わっていきます。
自分で考え、自分で決めたことだからです。
 
逆に、うまくいかないケースでは、正論が飛び交っています。

正論そのものは間違っていません。
むしろ内容だけ見れば正しいことばかりです。
しかし、人は正論だけでは動きません。

例えば、「もっと笑顔で接客しなさい」と言われても、本人が不安でいっぱいだったらどうでしょう。
「積極的に声をかけなさい」と言われても、失敗を恐れていたらどうでしょう。
「責任感を持ちなさい」と言われても、自信を失っていたらどうでしょう。

正論は分かっているのです。
問題は、「できない理由」が別のところにあることです。

その理由を理解しないまま正論をぶつけ続ければ、相手はますます苦しくなります。
そして関係性も悪化していきます。
 
ここで大切なのは、「人は納得すると動くが、強制されると抵抗する」ということです。

考えてみれば、私たち自身も同じではないでしょうか。
命令されると嫌な気持ちになる。
頭ごなしに否定されると反発したくなる。

しかし、自分の意見を聞いてもらえたり、自分で選択できたりすると前向きになれる。

人は誰でも、自分の意思を大切にしたい生き物なのです。
だからこそ、人を変えたいなら北風になるのではなく、太陽になる必要があります。

安心できる雰囲気をつくる。
相手の話を聞く。
認めるべきところは認める。
そして、自ら考え行動できるよう支援する。

その方が遠回りに見えて、実は一番の近道なのです。
 
しかし、ここで一つ疑問が生まれます。
「では、人はいつ変わるのだろうか」

どれだけ温かく接しても、すぐに変わる人もいれば、なかなか変わらない人もいます。
その違いはどこにあるのでしょうか。

次章では、人材育成の世界でもよく引用される有名な格言、
「馬を水辺に連れていくことはできるが、水を飲ませることはできない」
を手がかりに、人が変わる仕組みについて考えてみたいと思います。

<第3章>「馬を水辺に連れていくことはできるが、水を飲ませることはできない」

人はどのような時に変わるのでしょうか。
そのヒントになるのが、昔から世界中で語り継がれている有名な格言です。

「馬を水辺に連れていくことはできるが、水を飲ませることはできない」

教育や人材育成に携わったことのある人なら、一度は聞いたことがあるかもしれません。
私はこの言葉ほど、人を育てる難しさと本質を表しているものはないと思っています。
 
馬が喉の渇きを感じていれば、水辺まで連れていけば自然に水を飲みます。
しかし、喉が渇いていない馬に無理やり水を飲ませることはできません。

人も同じです。
どれだけ素晴らしいアドバイスをしても、どれだけ良い本を勧めても、どれだけ丁寧に説明しても、本人が必要性を感じていなければ行動にはつながりません。

これは能力の問題ではありません。
意欲の問題でもありません。
人間の自然な仕組みなのです。
 
私が不思議だったのは、同じ指導をしても成長する人としない人がいることでした。
同じ研修を受ける。
同じ話を聞く。
同じ資料を読む。
それなのに結果は大きく違う。

なぜだろうと考え続けました。
そして気づいたのです。

変わった人たちは、指導されたから変わったのではありません。
自分自身で必要性に気づいたから変わったのです。

例えば、お客様から厳しい言葉をいただいた。
部下が辞めてしまった。
売上が伸び悩んだ。
他の店長の姿に刺激を受けた。

そんな経験を通じて、「このままではいけない」と本人が感じた時、人は驚くほど成長します。
逆に、本人が問題だと思っていない段階でいくら正論を伝えても、なかなか響きません。
 
ここで誤解しないでほしいのは、「だったら何も教えなくていい」という話ではないことです。

水辺に連れていくことは必要です。
知識を伝えることも必要です。
機会を与えることも必要です。
経験させることも必要です。

もし水辺そのものを知らなければ、水を飲みたくても飲めません。
だから指導や教育には意味があります。

ただし、それは相手を変えるためではありません。
相手が変わるための材料を提供しているのです。

最終的に飲むかどうかは本人が決める。
その事実を受け入れることが、人を育てる側には求められるのだと思います。
 
私は若い頃、「正しいことを伝えれば人は変わる」と思っていました。
ところが現実は違いました。

正しい話をしても変わらない人はいます。
一方で、何気ない一言が人生を変えるほどの影響を与えることもあります。

その違いは、話の内容ではありません。
相手の受け取る準備ができているかどうかなのです。

種をまくことに似ています。
どんなに良い種でも、土が整っていなければ芽は出ません。
しかし土が整っていれば、小さな種でも大きく育ちます。

人の成長も同じです。
大切なのは、こちらが無理やり芽を出させようとすることではありません。
芽が出やすい環境を整えることなのです。
 
この考え方は、仕事だけでなく人間関係全般にも当てはまります。
夫婦関係でもそうです。
親子関係でもそうです。
友人関係でもそうです。

相手に何かを理解してほしい時、私たちはつい説得しようとします。
相手を変えようとします。
しかし、本当に必要なのは相手を押し動かすことではなく、相手自身が気づける環境をつくることなのかもしれません。

そして、そのためにはもう一つ大切なことがあります。
人は必要性を感じただけでは変われません。
変わろうと思っても、失敗を恐れたり、自信がなかったりすれば一歩を踏み出せません。

では、人が安心して変わるためには何が必要なのでしょうか。

次章では、「人が変わるのはどんな時か」というテーマについて、私自身の経験をもとに掘り下げていきたいと思います。

前回の記事「人生は変えられる。なりたい自分になるための実践法」も併せてご覧ください。

<第4章>人が変わるのはどんな時か

ここまで、
*人を変えようとするほど苦しくなること
*強制よりも自発的な変化が大切なこと
*最終的に変わるかどうかは本人次第であること
について考えてきました。

では実際に、人はどのような時に変わるのでしょうか。

私もまた、自分自身も数え切れないほどの失敗や挫折を経験してきました。
その中で感じるのは、人が変わる時にはいくつかの共通点があるということです。

(1. 必要性に気づいた時)

人が変わる最大のきっかけは、「変わらなければならない」と本人が感じた時です。

どれだけ周囲が心配しても、どれだけアドバイスしても、本人が問題を問題だと思っていなければ変化は起こりません。

例えば健康診断で再検査と言われても、「まだ大丈夫だろう」と思っているうちは生活習慣は変わりません。
しかし、実際に体調を崩したり、医師から深刻な説明を受けたりすると、急に食生活を見直す人がいます。

仕事でも同じです。
売上が伸びない。
部下が育たない。
お客様から厳しい評価を受ける。
そんな経験を通じて初めて、「今のままではいけない」と気づくことがあります。

私自身もそうでした。
振り返れば、成長したのは順調な時ではなく、壁にぶつかった時だったように思います。

人は変化の必要性を感じた時に初めて、本気で学び始めるのです。

(2. 安心できる環境がある時)

しかし、必要性に気づいただけでは十分ではありません。
変わろうとしても、失敗が許されない環境では人は挑戦できないからです。

例えば、質問すると怒られる。
失敗すると責められる。
意見を言うと否定される。
そんな職場で積極的に行動できる人は多くありません。
むしろ、「余計なことはしない方がいい」と考えるようになります。

これは能力の問題ではなく、環境の問題です。
私は組織運営において、安心感は非常に重要だと思っています。

安心感があるから挑戦できる。
挑戦するから経験が増える。
経験が増えるから成長する。

この順番なのです。
逆ではありません。

成長した人だけが挑戦するのではなく、挑戦できる環境が人を成長させるのです。

だから私は常に、「失敗してもいいからやってみよう」と言える組織でありたいと思ってきました。

もちろん同じ失敗を繰り返していいという意味ではありません。
しかし挑戦した結果の失敗なら、そこには学びがあります。
その学びこそが人を変えていくのです。

(3. 小さな成功体験を積み重ねた時)

人は成功体験によって自信をつけます。
そして自信が次の行動を生みます。

ところが育成の現場では、つい大きな成果ばかり求めてしまいがちです。
売上を伸ばそう。
もっとリーダーシップを発揮しよう。
店全体をまとめよう。

もちろん間違いではありません。
しかし、いきなり高い目標を求められると、多くの人は自信を失います。

大切なのは、小さな成功を積み重ねることです。
昨日より少し成長した。
前回よりうまくできた。
お客様に感謝された。
部下から相談を受けた。

そんな小さな成功が、「自分にもできるかもしれない」という感覚を育てます。
その積み重ねが、やがて大きな変化につながるのです。

植物が一晩で大木にならないように、人の成長も少しずつ進んでいきます。

(4. 自分で決めた時)

そして何より大切なのがこれです。
人は、自分で決めた時に最も大きく変わります。

上司に言われたから。
親に言われたから。
周囲に期待されたから。
こうした理由で行動することもあります。

しかし長続きする変化は、自分で選んだ変化です。

私はこれまで多くの人を見てきましたが、本当に成長した人には共通点があります。
それは、「自分で決めた」ということです。

誰かに命令されたわけではない。
無理やりやらされたわけでもない。
自分で考え、自分で納得し、自分で行動を選んだ。
だから続くのです。
だから本物になるのです。
 
ここまで読んでいただくと、人を変えることがいかに難しいかが分かると思います。

必要性に気づくのも本人。
挑戦するのも本人。
成功体験を積むのも本人。
最後に決断するのも本人。

やはり、人を変えることはできないのです。
しかし同時に、必要性に気づける機会を与えることはできる。
安心できる環境を作ることはできる。
成功体験を積める場を提供することはできる。

つまり、人が変わる土壌を整えることはできるのです。

私は総合責任者として永年組織運営に携わってきましたが、実はこの「土壌づくり」こそが最も重要な仕事だったように思います。

次章では、私が現場で何よりも大切にしてきた「環境づくり」についてお話ししたいと思います。

なぜ私は、「スタッフが気持ちよく、自然な笑顔で働ける環境が売上向上につながる」と考えてきたのか。
その理由について掘り下げていきます。

<第5章>私が組織づくりで大切にしてきたこと

私は長年、小売業の現場で働いてきました。
その中で常に考えていたことがあります。

それは、「どうすれば売上が上がるか」ではありませんでした。

もちろん売上は重要です。
会社である以上、利益を出さなければなりません。
しかし、私は売上そのものを追いかけるよりも、もっと大切なことがあると考えていました。

それは、「スタッフが気持ちよく働ける環境をつくること」です。
そして、その結果として売上はついてくる。
私はそう信じていました。
 
店舗運営において、数字だけを追いかけることは簡単です。
売上目標を掲げる。
販売件数を増やすよう指示する。
接客件数を増やす。
客単価を上げる。

数字だけ見れば、それらは正しい施策です。
しかし、人は数字では動きません。

数字の向こうには必ず人がいます。
商品を販売するのも人。
お客様にサービスを提供するのも人。
職場の雰囲気をつくるのも人。

だから私は、「数字は結果であり、原因ではない」と考えていました。
原因となるのは、そこで働く人たちの状態です。
 
実際に、業績の良い店舗を見ていると共通点がありました。
スタッフの表情が明るい。
店長とスタッフの関係が良い。
困った時に助け合える。
意見を言いやすい。
笑顔がある。

もちろん忙しい日もあります。
トラブルが起きることもあります。
それでも職場全体に前向きな空気が流れているのです。

逆に、業績が伸び悩む店舗ではどうでしょうか。
店長が常にイライラしている。
スタッフが萎縮している。
ミスを恐れて挑戦しない。
誰も本音を言わない。
そんな状態になっていることが少なくありません。

すると接客にも影響が出ます。
お客様は想像以上に敏感です。
職場の雰囲気は言葉にしなくても伝わります。

楽しそうに働いているスタッフがいる店には、自然と活気が生まれます。
反対に、重苦しい空気の店にはお客様も長くいたいとは思いません。
 
私は店舗にいる時、売上報告を見る前にスタッフの表情を見ることがよくありました。
健康的な笑顔があるか。
挨拶は自然にできているか。
店長との会話に遠慮ばかりが見えないか。

その様子を見ると、ある程度その店の状態が分かるからです。
もちろん感覚だけで経営はできません。
しかし数字は結果です。
結果が出る前には必ず兆候があります。
その兆候の一つが、働く人たちの表情や雰囲気なのです。
 
人は安心できる環境で力を発揮します。
認められていると感じる時に意欲が湧きます。
自分の存在が必要とされていると感じた時に頑張ろうと思います。

これは店舗運営だけではありません。
学校でも家庭でも同じです。
そして、このことは今回のテーマである「人を変えること」にもつながっています。

人は命令では変わりません。
圧力では変わりません。
説教でも変わりません。

しかし、
「ここなら挑戦しても大丈夫」、
「失敗しても見捨てられない」、
「自分を認めてくれている」、
そう感じられる環境の中では、人は少しずつ変わっていきます。
 
私が見てきた成長する店長にも共通点がありました。
指示がうまい人ではありません。
叱るのがうまい人でもありません。
人をやる気にさせる特別な才能があるわけでもありません。

共通していたのは、「安心して働ける環境をつくるのがうまい人」だったのです。

スタッフの話を聞く。
小さな変化に気づく。
できたことを認める。
困っている時に支える。
言葉にすると当たり前のことばかりです。
しかし、その当たり前を積み重ねられる人ほど、人が育ち、チームが育ち、結果として業績も伸びていました。

この考え方については、以前書いた『顧客満足と従業員満足』の記事でも詳しく書いています。

 結局のところ、人を変えることはできません。
しかし、人が成長しやすい環境をつくることはできます。

そして、その環境づくりこそがリーダーの本当の仕事なのだと思います。

売上を上げることも大切です。
利益を出すことも大切です。
しかし、それらは目的ではなく結果です。

まず人がいる。
その人たちが気持ちよく働ける。
自然な笑顔が生まれる。
お客様が喜ぶ。
そして結果として売上が伸びる。

私は長年の現場経験の中で、その順番が最も大切だと学びました。
 
ところで、ここまで読んできた方の中には、
「環境づくりが大切なのは分かった。でも今の人間関係はどうしたらいいのだろう」と思った方もいるかもしれません。

実は、人間関係を改善するために最も効果的な方法は、相手を変えることではありません。

意外かもしれませんが、自分が変わることなのです。

次章では、「自分が変わると相手が変わる」という不思議な現象について考えてみたいと思います。

以前書いた記事もご参照ください。

<第6章>自分が変わると相手が変わる


こんな疑問を持つ方もいるかもしれません。
「結局、自分にできることは何もないのだろうか」

相手を変えられない。
本人が気づかなければ変わらない。
そう聞くと、少し無力な気持ちになるかもしれません。

しかし、実際には私たちにできることがあります。
それは、自分自身を変えることです。

そして不思議なことに、自分が変わると相手が変わることがあります。
 
私はこれまで多くの人間関係の悩みを聞いてきました。
部下との関係。
上司との関係。
同僚との関係。
家族との関係。
その相談を聞いていると、ある共通点が見えてきます。

それは、「相手に変わってほしい」という願いが強くなればなるほど、関係が悪化していくことです。

なぜなら、相手は無意識のうちにその圧力を感じ取るからです。

「もっとこうしてほしい」、
「なぜできないのか」、
「普通はこうだろう」、
そう思いながら接していると、言葉にしなくても態度や表情に現れます。

そして相手は、
「否定されている」、
「認められていない」と感じるのです。

結果として心を閉ざし、ますますこちらの言葉が届かなくなります。
 
私自身も若い頃は、「正しいことを伝えれば人は動く」と思っていました。
だから問題が起きると説明しました。
説得しました。
改善策を示しました。

しかし思うような結果は出ませんでした。
むしろ関係がぎくしゃくすることさえありました。
振り返ってみると、私は相手を理解しようとする前に、相手を変えようとしていたのです。
 
ある時から私は考え方を変えました。
まず相手を変えることをやめたのです。

その代わり、「なぜこの人はそう考えるのだろう」と考えるようになりました。
すると見えてくるものがありました。

やる気がないと思っていた人は、自信を失っていただけだった。
反抗的に見えた人は、自分の意見を聞いてほしかっただけだった。
消極的に見えた人は、失敗を恐れていただけだった。

こちらが見ていたのは行動だけで、その背景を見ていなかったのです。
 
自分が変わるというのは、何も性格を変えることではありません。
相手への見方を変えることです。
関わり方を変えることです。

例えば、
「なぜできないのか」ではなく、「何が障害になっているのか」と考えてみる。
「どうして分かってくれないのか」ではなく、「自分の伝え方に改善点はないか」と考えてみる。
「もっと頑張ってほしい」ではなく、「今できていることは何だろう」と考えてみる。

そうすると自然に言葉も変わります。
態度も変わります。
そして関係性そのものが変わり始めるのです。
 
これは鏡によく似ています。
こちらが笑顔になれば、相手も笑顔になりやすい。
こちらが穏やかであれば、相手も穏やかになりやすい。

もちろん必ずではありません。
しかし、人間関係は一方通行ではなく相互作用です。

自分が変われば、相手の反応も変わります。
その結果として、
「以前より話を聞いてくれるようになった」
「素直に相談してくれるようになった」
「以前より協力的になった」
という変化が起きることがあります。

私たちはつい、相手が変わったから関係が良くなると思いがちです。
しかし実際には、自分が変わったから関係が良くなることも少なくないのです。
 
そしてもう一つ大切なことがあります。
それは、自分が変わることだけは、自分でコントロールできるということです。

相手を変えることはできません。
相手の考えも感情もコントロールできません。

しかし、自分の考え方。
自分の言葉。
自分の態度。
自分の行動。
これらは自分で選ぶことができます。

だからこそ、最も確実な変化は自分自身から始まるのです。
 
私が永年組織運営に携わる中で学んだことがあります。
それは、組織の雰囲気はリーダーの影響を強く受けるということです。

リーダーがイライラしていれば、職場もギスギスします。
リーダーが人を信頼していれば、職場にも信頼が広がります。
リーダーが学び続ければ、組織にも学ぶ文化が生まれます。

つまり、自分の変化は自分だけで終わらないのです。
周囲にも影響を与えます。

だから私は、「人を変える方法」を探すよりも、
「自分はどう変われるか」を考える方がずっと価値があると思っています。
 
とはいえ、ここまで読んでこんな疑問を持つ方もいるでしょう。
「こちらが変わっても、まったく変わらない人もいるのではないか」

その通りです。
残念ながら、どんなに誠実に接しても変わらない人はいます。
どんなに環境を整えても成長しない人はいます。
どんなに歩み寄っても関係が改善しない相手もいます。

そんな時、私たちはどう考えればいいのでしょうか。
最後の章では、「それでも変わらない人との向き合い方」について考えてみたいと思います。

<第7章>それでも変わらない人はいる

「でも現実には何をしても変わらない人がいる」
その通りです。

私も長年、多くの人と関わってきましたが、残念ながらどんなに働きかけても変わらない人はいました。

何度話し合っても同じことを繰り返す人。
周囲が手を差し伸べても受け取ろうとしない人。
常に他人のせいにする人。
何を伝えても聞く耳を持たない人。

もちろん、人にはそれぞれ事情があります。
私たちには見えていない苦しみや背景があるのかもしれません。
だから簡単に決めつけるべきではありません。
それでも現実として、変わることを選ばない人は存在します。
 
こういう時、多くの人はさらに頑張ろうとします。
もっと説明しよう。
もっと理解してもらおう。
もっと良い方法を探そう。
もっと寄り添おう。
責任感が強い人ほどそう考えます。

私自身もそうでした。
総合責任者という立場上、「人を育てるのが仕事だ」という思いがありました。
だから諦めてはいけないと思っていました。

しかし経験を重ねる中で、あることに気づいたのです。
それは、「助けたい」と「助けられる」は別の話であるということです。
 
例えば、泳ぐことを拒んでいる人を岸から助けることはできません。
本人が手を伸ばしてくれなければ、こちらも引き上げることができないのです。

人の成長も同じです。
こちらがどれだけ本気でも、本人に変わる意思がなければ限界があります。

それは冷たい考え方ではありません。
むしろ現実を受け入れるということです。

相手の人生は相手のものです。
私たちが背負うことはできません。
私たちが代わりに生きることもできません。

だから、「自分にできることはやった」と思えるところまでやったなら、その後の選択は相手に委ねるしかないのです。
 
ここで大切なのは、「あきらめる」と「見放す」を混同しないことです。

あきらめるという言葉には、どこかネガティブな響きがあります。
しかし本来の「あきらめる」は、物事を明らかに見るという意味を持っています。

つまり、「この人は今は変わるタイミングではないのかもしれない」
「私の力で変えられる問題ではないのかもしれない」
と現実を受け入れることです。

見放すこととは違います。
相手の可能性を否定することでもありません。
ただ、自分が背負い込むのをやめるのです。
 
そして時には、距離を置くことも必要です。

私たちは「良い人」であろうとするあまり、無理をしてしまうことがあります。

理不尽な上司に耐え続ける。
攻撃的な人に振り回され続ける。
何年も改善しない人のために心をすり減らす。

しかし、自分自身を犠牲にしてまで関係を維持する必要はありません。

相手を尊重することと、自分を守ることは両立できます。
むしろ自分を守れなければ、誰かを支えることもできません。

飛行機の安全説明で、「まず自分の酸素マスクを着けてから、他の人を助けてください」と言われるのと同じです。
自分が倒れてしまっては意味がないのです。
 
私はこれまで多くの組織を見てきました。
その中で感じるのは、人間関係に悩み続ける人ほど真面目で責任感が強いということです。

相手を何とかしたい。
力になりたい。
良い関係を築きたい。
そう思うからこそ苦しむのです。

しかし、忘れてはいけないことがあります。
あなたが相手を変えられないように、相手もあなたを変えることはできません。

人はそれぞれ自分の人生を生きています。
だからこそ、相手の選択を尊重する。
自分の選択も尊重する。

その境界線を大切にすることが、人間関係を健全に保つためには必要なのだと思います。

以前の私の記事も併せてご覧ください。

 <おわりに>

この記事のテーマは、「人を変えることはできるのか」でした。

私なりの答えは、とてもシンプルです。
人を変えることはできません。
しかし、人が変わるきっかけを作ることはできます。
安心できる環境を作ることはできます。
成長を支援することはできます。
そして何より、自分自身を変えることはできます。

これまでの私の経験から言えるのは、人が大きく変わる瞬間は、誰かに無理やり変えられた時ではなく、「自分で変わろう」と決めた時だったということです。

だから私たちにできることは、北風になることではありません。
太陽になることです。

相手を押し動かすことではなく、相手が自ら動きたくなる環境をつくることです。

そして、それでも変わらない人がいるなら、その事実を受け入れることです。

「どうして分かってくれないんだ」
そう思う日もあるでしょう。
そんな時は、相手を変える方法を探す前に、自分に問いかけてみてください。

「私はどう在りたいだろうか」
その問いへの答えこそが、人間関係を少しずつ楽にし、人生を豊かにしてくれるのではないでしょうか。

 お読みいただきありがとうございます。
スキ・フォロー・チップを頂けると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。

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