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人は何歳で一番幸せになるのか? 69歳の私が研究結果と人生を重ねて考えたこと

「人生で一番幸せなのは何歳頃だと思いますか?」

二十代でしょうか?
仕事や家庭が充実する四十代でしょうか?
それとも、仕事を引退した後でしょうか?

この問いは、多くの人が一度は考えたことがあるのではないでしょうか。
実は、このテーマは単なる人生相談ではなく、世界中の心理学者や経済学者、社会学者が何十年にもわたって研究してきたテーマでもあります。

数万人、数十万人、時には百万人を超える人々を対象に、「今の人生にどれくらい満足していますか」という調査が繰り返し行われ、その結果から「幸福度は年齢とともにどのように変化するのか」が分析されてきました。

その中で最も有名なのが、「幸福度は人生でU字型を描く」というU字カーブ理論です。

若い頃は幸福度が比較的高く、中年期に大きく落ち込み、その後は再び上昇していく──そんな傾向が世界の多くの国で確認され、「人は中年が最もつらく、高齢になるほど幸せを感じやすくなる」と広く知られるようになりました。

ところが、近年になって新しい研究が次々と発表されると、この話はそれほど単純ではないことも分かってきました。

国や地域によって幸福度の変化には違いがあり、中東や北アフリカでは若い頃が最も幸福で、その後は年齢とともに下がっていく傾向が見られます。
一方で北米では、高齢期に最も幸福度が高くなるという結果もあります。
さらに最新の研究では、「思春期に幸福度が一度下がり、その後70歳頃までゆるやかに上昇し、70歳以降に少しずつ低下する」という、新しいパターンも報告されています。

では、本当のところ、人は何歳が一番幸せなのでしょうか。
そして、なぜ中年になると幸福度が下がるのでしょうか。
なぜ年齢を重ねると再び幸せを感じやすくなるのでしょうか。
日本の若者の幸福度が世界的に見ても低いと言われるのは、なぜなのでしょうか。

私は現在69歳です。

責任に追われる現役時代を終えた今、朝の静かな空気や小鳥のさえずり、何気ない日常に、以前には気づかなかった幸せを感じるようになりました。

この記事では、世界の研究結果を紹介しながら、「幸せとは何か」という問いを一緒に考えていきたいと思います。
そして最後には、一人の69歳として、今だからこそ感じている幸せについても、お伝えしたいと思います。


<第1章> 人は何歳が一番幸せなのか?──最も有名な「U字カーブ理論」

「人は何歳が一番幸せなのか。」
この問いに対して、現在でも最もよく知られている答えが、先ほど紹介した「U字カーブ理論」です。

これは、人生の幸福度を年齢ごとにグラフにすると、アルファベットの「U」のような形になるという考え方です。

若い頃は幸福度が比較的高く、
その後、中年期に向かって徐々に低下します。
そして40代後半から50歳前後で底を打ち、
その後は年齢を重ねるにつれて再び上昇していくというものです。

言葉だけではイメージしにくいので、簡単に表すとこのようになります。

幸福度
  ▲
  │ ●         ●
  │   ●          ●
  │      ●     ●
  │         ●    ●
  │          ●●
  └────────────────▶ 年齢
    若年期  中年期   高齢期

もちろん、すべての人がこの通りの人生を歩むわけではありません。
しかし、何万人、何十万人もの調査結果を平均すると、このような傾向が世界中で繰り返し確認されてきました。

つまり、「中年になると苦しく感じる人が多い」というのは、決してあなただけの問題ではなく、多くの人が経験する人生の一つの局面なのです。

(世界中で見られる共通点)

興味深いのは、このU字カーブが一つの国だけで見つかった現象ではないことです。

欧米をはじめ、多くの国で実施された調査でも、幸福度は若い頃に比較的高く、中年期に低下し、高齢期に再び上昇するという似たような結果が報告されています。

もちろん、幸福の感じ方は文化や価値観によって違います。
それでも、人生のある時期に幸福度が下がり、その後回復するという傾向が、多くの国で共通して見られたことは研究者たちにとっても驚きでした。

そのため、このU字カーブ理論は「人生の幸福度を説明する代表的な理論」として広く知られるようになったのです。

(「人生の折り返し地点」が最も苦しい?)

U字カーブ理論で特に注目されたのは、「幸福度が最も低くなるのは中年期である」という点です。

若い頃は未来への期待があります。
高齢になると、人生経験を積み、自分らしい生き方を見つける人が増えます。
その一方で、中年期は仕事、家庭、子育て、親の介護など、人生で最も多くの責任が重なる時期です。

まるで、山登りで頂上を越える直前が最も苦しいように、人生にも一番苦しい時期があるのかもしれません。
この研究結果は、「中年の危機(ミッドライフ・クライシス)」とも結び付けられ、多くの人に知られるようになりました。

(話はここで終わりではありません)

このU字カーブ理論は現在でも非常に有力な考え方です。
しかし近年、研究がさらに進むにつれて、「幸福度は本当にきれいなU字になるのだろうか」という疑問も投げかけられるようになりました。

調査対象を広げ、分析方法を変えてみると、国や地域によって幸福度の変化には意外な違いがあることが分かってきたのです。

さらに最新の研究では、従来のU字カーブとは少し異なる、新しい幸福度の変化も報告されています。

次の章では、その最新研究を見ながら、「人は何歳が一番幸せなのか」という問いが、実は一つの答えでは片づけられないことをご紹介したいと思います。

<第2章> 最新の研究で見えてきた「幸福度」の新しい姿

U字カーブ理論は、今でも人生の幸福度を説明する最も有名な考え方ですが、研究が進むにつれて、「人の幸福は、そんなに単純なものではない」ということも分かってきました。

調査対象となる国や地域が増え、統計の分析方法も進歩したことで、幸福度の変化には地域ごとの特徴があり、一つのパターンでは説明できないことが明らかになってきたのです。

(でも世界共通ではない)

「世界中でU字カーブが確認された」という話を聞くと、どの国でもまったく同じような形を描くと思ってしまいます。
しかし実際には、共通点がある一方で、地域ごとに興味深い違いもあります。

例えば、ヨーロッパやオセアニアでは、多くの国でU字カーブに近い傾向が見られます。

一方、北米では、高齢期になるほど幸福度が高くなる傾向が比較的強く表れています。
引退後も社会とのつながりを持ちやすく、ボランティア活動や趣味を楽しむ人が多いことなどが、その背景にあると考えられています。

反対に、中東や北アフリカでは、若い頃が最も幸福で、その後は年齢とともに幸福度が低下していく傾向が報告されています。
社会保障制度や経済状況、文化、家族観などの違いが、こうした結果に影響しているのではないかと考えられています。

つまり、「幸福度の年齢変化」は世界中でまったく同じではなく、その国の社会や文化を映し出す鏡でもあるのです。

(日本の若者は、なぜ幸福度が低いのか)

こうした国際比較の中で、日本にはもう一つ気になる特徴があります。
それは、若い世代の幸福度が、世界的に見てもあまり高くないということです。

本来なら、若い頃は未来への希望に満ち、幸福度が高くても不思議ではありません。
ところが日本では、「将来に希望が持てない」「自分に自信がない」と感じる若者の割合が、他国と比べて高いという調査結果も少なくありません。

もちろん、日本の若者が不幸だと言いたいわけではありません。
ただ、将来への不安や、周囲との比較をしやすい環境など、日本特有の社会背景が幸福感に影響している可能性はあるでしょう。

この点については、第5章で改めて詳しく考えてみたいと思います。

(最新の研究は「U字」ではなく「ゆるやかな山登り」を示している)

さらに近年、幸福度の研究に新しい視点を与えたのが、若年層を含めてより細かく年齢を分析した研究です。

それによると、幸福度は子ども時代から思春期にかけて一度下がり、その後は中年で大きく落ち込むのではなく、70歳頃までゆるやかに上昇していくという結果も報告されています。
そして、70歳を過ぎる頃から少しずつ低下する傾向が見られるというのです。

この結果だけを見ると、「U字カーブとは全然違うじゃないか」と思うかもしれません。
しかし、実はそう単純でもありません。

幸福度は、「人生全体への満足度」を尋ねるのか、「その瞬間の気分」を尋ねるのかによっても結果が変わります。
また、健康状態や収入、結婚の有無など、どの要素を統計的に調整するかによっても、グラフの形は少しずつ変わります。

つまり、どちらか一方が正しく、もう一方が間違っているという話ではないのです。

(幸福は、一枚のグラフでは表せない)

ここまで見てくると、「人は何歳が一番幸せなのか」という問いには、一つの正解がないことが分かります。

U字カーブ理論は、多くの人の人生に見られる大きな傾向を教えてくれます。
一方で最新の研究は、幸福とはもっと複雑で、社会や文化、そして一人ひとりの人生によって姿を変えるものだと教えてくれます。

だからこそ、研究結果を知ることは大切ですが、それ以上に大切なのは、「なぜ幸福度は変化するのか」という理由を考えることではないでしょうか。

次の章では、多くの研究で共通して見られる「中年期に幸福度が低下する理由」について、心理学や人生の現実を交えながら掘り下げていきます。

<第3章> なぜ中年になると幸福度は下がるのか──人生で最も「重い荷物」を背負う時期

U字カーブ理論でも、多くの最新研究でも、程度の差こそあれ共通していることがあります。

それは、多くの人にとって中年期は人生の中でも特に苦しさを感じやすい時期だということです。

では、なぜなのでしょうか。
単純に「年を取るから」ではありません。
むしろ中年期は、人生で最も多くの役割と責任を同時に抱える時期だからです。

(仕事では責任が増え、家庭でも頼られる)

二十代や三十代は、自分の成長に精一杯だった人も多いでしょう。

しかし四十代、五十代になると立場が変わります。
職場では部下を育て、組織をまとめ、結果を求められる。
家庭では子どもの教育や進学を考え、住宅ローンの返済も続いている。
さらに親が高齢になれば、介護という現実が目の前に現れることもあります。

つまり、自分一人の人生ではなく、多くの人の人生を支える立場になるのです。

誰かに頼られることは決して悪いことではありません。
しかし、その責任が積み重なれば、心にも体にも大きな負担がかかります。

「最近、疲れが抜けない。」
「毎日何かに追われている。」
そんな感覚を抱く人が増えるのも、無理のないことなのです。

(「こんなはずではなかった」という現実)

中年期には、もう一つ大きな出来事があります。
それは、自分の人生を振り返るようになることです。

若い頃には、
「いつか成功する。」
「もっと自由になれる。」
「夢はきっとかなう。」
そんな未来への期待があります。

しかし四十代、五十代になると、「もしも」の人生ではなく、「今の人生」が現実になります。
思い描いていた人生と、実際の人生を比べるようになるのです。

もちろん、夢を実現した人もいます。
けれど、多くの人は、叶った夢よりも、叶わなかった夢の方が多いのではないでしょうか。
「あの時、別の道を選んでいたら……。」
そんな思いが頭をよぎることもあります。

心理学では、この理想と現実のギャップが幸福感を下げる一因になると考えられています。

(比べる相手が増える年代でもある)

若い頃は、自分の成長だけを見ていればよかったかもしれません。
しかし中年になると、どうしても周囲が目に入ります。

同級生は部長になった。
友人は会社を経営している。
SNSを開けば、旅行や高級レストラン、子どもの合格報告が次々と流れてくる。

頭では「人は人、自分は自分」と分かっていても、心は簡単には割り切れません。
人は、自分がどれだけ恵まれているかよりも、「他人と比べてどうか」で幸せを感じてしまう生き物です。

比較する相手が増えるほど、幸福感は揺らぎやすくなります。

(心も体も、少しずつ変化していく)

中年期は、心だけではなく体にも変化が現れます。

若い頃のようには無理が利かなくなる。
疲れが翌日まで残る。
健康診断の結果が気になり始める。
親しい人との別れを経験する人も増えてきます。

人生には終わりがあることを、少しずつ現実として受け止め始める時期でもあります。
こうした変化が重なることで、幸福度が下がるのは決して不思議なことではありません。

(「あなたがおかしい」のではない)

ここまで読むと、「中年は大変なことばかりだ」と感じるかもしれません。
しかし、私はむしろ、この研究結果に救われる人がいるのではないかと思っています。

もし今、四十代、五十代のあなたが、
「毎日が苦しい。」
「昔のように心から笑えない。」
そう感じているなら、それはあなたが弱いからではありません。

人生の中で最も多くの責任を背負い、最も多くの決断を求められる時期を懸命に生きているからです。

幸福度の研究は、「中年の苦しさは、多くの人に共通する人生の一場面である」と教えてくれます。
そして、希望も示しています。
多くの研究では、この苦しさは永遠には続かず、その後、多くの人が再び幸福感を取り戻していくことが分かっているのです。

では、なぜ年齢を重ねると、再び幸せを感じやすくなるのでしょうか。
次の章では、その理由を心理学や脳の働き、そして人生経験の積み重ねという視点から考えていきます。

<第4章> なぜ年齢を重ねると、再び幸せを感じやすくなるのか

「年を取ると幸せになる。」
若い頃にこんな話を聞いても、なかなか信じられなかった人は多いのではないでしょうか。

体力は落ちる。
病気も増える。
友人や家族との別れも経験する。

それなのに、なぜ幸福度は再び上昇するのでしょうか。
もちろん、人によって人生は違います。
しかし心理学や老年学の研究では、年齢を重ねることで、多くの人に共通して起こる心の変化があることが分かってきました。

(「持っているもの」ではなく、「今あるもの」に目が向く)

若い頃は、どうしても「まだ持っていないもの」に目が向きます。

もっと収入が欲しい。
もっと評価されたい。
もっと成功したい。
もっと自由になりたい。

もちろん、それが向上心となって人生を前に進める力にもなります。
しかし、その一方で、「足りないもの」ばかりを数えてしまうことにもなります。

ところが年齢を重ねると、不思議な変化が起こります。
「まだないもの」よりも、「今あるもの」の価値に気づけるようになる人が増えるのです。

健康で朝を迎えられたこと。
家族が元気でいてくれること。
美味しく食事ができること。
季節の花が咲いたこと。

そんな何気ない日常が、実はとても豊かなものだったと感じられるようになります。
幸福とは、特別な出来事ではなく、日々の暮らしの中にも存在していたことに気づくのです。

(人と比べなくなる)

幸福度が上がる理由として、研究でよく挙げられるのが「比較が減ること」です。

若い頃は、自分の価値を他人との比較で測りがちです。
「あの人の方が出世している。」
「あの人の方がお金を持っている。」
「あの人の方が充実した人生を送っている。」

しかし、年齢を重ねると、少しずつ考え方が変わってきます。
「人それぞれの人生がある。」
「比べても仕方がない。」
そう思えるようになる人が増えるのです。

もちろん、まったく比較しなくなるわけではありません。
それでも、若い頃ほど他人の評価に振り回されなくなることで、心はずいぶん軽くなります。

(本当に大切なものが見えてくる)

人生経験を積むことには、大きな意味があります。

成功も失敗も経験し、出会いと別れを繰り返す中で、「自分にとって本当に大切なもの」が少しずつ見えてきます。

若い頃には、お金や肩書きが幸せの象徴だと思っていた人も、年齢を重ねると、
「健康が一番だ。」
「一緒に笑える人がいることが幸せだ。」
と思うようになることがあります。

幸せの基準そのものが変わるのです。
だから、同じ一日を過ごしていても、感じる幸福は以前とは違ってきます。

(「残された時間」が、生き方を変える)

心理学には、「社会情動的選択性理論」という考え方があります。
少し難しい名前ですが、内容はとても分かりやすいものです。

人は、自分の人生はまだ長いと思っているときには、新しい知識を得たり、将来のための準備を優先します。
一方で、「人生には限りがある」と感じ始めると、今この瞬間を大切にしようと考えるようになります。
会いたい人に会う。
やりたいことを先延ばしにしない。
心が穏やかになる時間を選ぶ。
残された時間を意識することが、皮肉にも「今を生きる力」を強くするのです。

(私が69歳になって感じていること)

私は現在69歳です。

総合責任者として現役で働いていた頃は、文字通り毎日が責任の連続でした。
仕事のことを考え、時間に追われ、気づけば一日が終わっていました。

もちろん、その頃にも充実感はありました。
けれど、「ゆっくり季節を味わう」という心の余裕は、あまりなかったように思います。

今は違います。

朝、窓を開けると、ひんやりとした風が頬をなで、小鳥のさえずりが聞こえてきます。
木々の緑が少しずつ色を変えていくことにも気づきます。
以前なら見過ごしていたような日常が、とても愛おしく感じられるのです。

研究では「幸福度は高齢になると上昇する」と言いますが、私はそれは「幸せな出来事が増えるから」ではなく、「幸せに気づく力が育ってくるから」ではないかと思っています。

若い頃と比べて、人生が楽になったわけではありません。
体力も以前ほどではありませんし、年齢を重ねれば新たな不安もあります。
それでも、幸せの見つけ方が少しずつ変わってきた。
だからこそ、今の方が穏やかな幸福を感じられるのかもしれません。

そして、この穏やかな幸福をできるだけ長く保つためには、年齢を重ねても「生きがい」や「人とのつながり」を失わないことが大切なのだと感じています。

そのことについては、後の章でもう少し詳しく考えてみたいと思います。

<第5章> なぜ日本の若者は幸福度が低いのか──「幸せを感じにくい社会」の正体

世界の幸福度に関する研究を見ていると、一つ気になることがあります。

それは、日本の若者の幸福度が、世界的に見ても決して高くないということです。

もちろん、日本にも夢を持ち、毎日を楽しんでいる若者はたくさんいます。
ですから、「日本の若者は不幸だ」と言いたいわけではありません。

ただ、国際比較調査では、「自分は幸せだ」と答える人の割合や、「将来に希望を持っている」と答える人の割合が、欧米などと比べて低い傾向が繰り返し報告されています。

なぜ、このような違いが生まれるのでしょうか。

(自己肯定感の低さ)

日本の若者について語られるとき、よく指摘されるのが自己肯定感の低さです。

「自分には長所がある。」
「自分のことが好きだ。」
そう思える人の割合は、海外と比べると低いという調査があります。

日本では謙虚さが美徳とされる文化があります。
そのため、自分を高く評価することに遠慮を感じる人も少なくありません。

しかし、必要以上に自分を過小評価してしまえば、「私はまだ足りない」「もっと頑張らなければ」という気持ちが強くなり、幸福感を感じにくくなってしまいます。

(「失敗してはいけない」という空気)

もう一つ、日本には失敗を恐れやすい社会の空気があります。

受験。
就職活動。
昇進。
資格試験。
人生のさまざまな場面で、「一度の失敗が人生を左右する」と感じる機会が少なくありません。

もちろん努力は大切です。
しかし、「失敗してもやり直せる」という安心感が少ない社会では、未来よりも不安の方が大きくなってしまいます。

幸せとは、「今が楽しい」という気持ちだけではなく、「未来も何とかなる」という安心感でもあります。
その安心感を持ちにくいことが、日本の若者の幸福度に影響しているのかもしれません。

(SNSが「比較」を終わらせない)

現代の若者には、もう一つ大きな特徴があります。
それは、SNSとともに生きていることです。

スマートフォンを開けば、
友人の旅行。
結婚報告。
昇進。
おしゃれなカフェ。
充実した休日。
そんな「誰かの幸せ」が次々と流れてきます。

もちろん、SNSには楽しい面もあります。
離れた友人とつながることもできますし、新しい情報にも出会えます。

しかし、人は他人の「一番輝いている瞬間」と、自分の「何でもない日常」を比べてしまいがちです。
それでは、自分だけが取り残されているような気持ちになるのも無理はありません。

昔にも比較はありました。
でも、それは学校や職場など限られた範囲でした。
今は世界中の誰とでも比べられる時代です。
幸福を感じることが、以前より難しくなっている面はあるでしょう。

(将来が見えにくい時代)

かつては、「頑張れば豊かになれる」という希望を持ちやすい時代でした。

しかし今は、
物価の上昇
将来の年金への不安
雇用環境の変化
自然災害や世界情勢の不安
さまざまな出来事が重なり、「将来が読めない時代」になっています。

若い人ほど、その影響を長く受けることになります。
将来への不安は、今この瞬間の幸福感にも影響します。
未来に安心が持てなければ、心はなかなか休まらないからです。

(それでも日本人は幸せではないと言えるのか)

ここで一つ、大切なことがあります。
幸福度調査では、日本は欧米より順位が低くなることがあります。
しかし、それだけを見て「日本人は幸せではない」と結論づけるのは早計です。

日本人は、自分の幸福を控えめに表現する傾向があります。
「とても幸せです」と答えることに、どこか照れや遠慮を感じる文化もあります。
また、「もっと良くなりたい」という向上心が強いため、現状を厳しく評価する人も少なくありません。

つまり、幸福度の数字には、その国の文化や価値観も反映されているのです。

(幸せを感じる力は育てることができる)

私は、日本の若者に伝えたいことがあります。

もし今、「自分は幸せではない」と感じていたとしても、それで人生が決まるわけではありません。
幸福度の研究が教えてくれるのは、「幸せは年齢とともに変化する」ということです。
そして、多くの人は年齢を重ねる中で、幸せの基準そのものが変わっていきます。

だから、今の自分だけで人生を判断しないでほしいのです。

人と比べることを少し減らし、自分が今日笑えたこと、誰かに「ありがとう」と言えたこと、小さな喜びを見つけること。
そんな積み重ねが、幸福を感じる力を少しずつ育ててくれるのだと思います。

そして次の章では、「そもそも幸せとは何なのか」という、このテーマの根本にある問いについて考えてみたいと思います。
もしかすると、「何歳が一番幸せなのか」という問いそのものに、一つの答えはないのかもしれません。

<第6章> そもそも「幸せ」とは何なのか──答えが一つではない理由

ここまで、さまざまな幸福度の研究を見てきました。

ある研究では幸福度はU字カーブを描くといい、別の研究では思春期を過ぎてから70歳頃までゆるやかに上昇するといいます。
地域によっても違いがあり、日本と北米では結果が異なり、中東や北アフリカではまた別の傾向が見られます。

では、いったいどれが正しいのでしょうか。

私は、この問いには「どれも正しい」と答えたいと思います。
なぜなら、「幸せ」という言葉そのものが、とても幅の広いものだからです。

(「楽しい」と「満たされている」は同じではない)

例えば、20歳の大学生が友人と旅行に出かけ、大笑いしながら過ごした一日。
きっと、とても幸せな時間でしょう。

一方で、70歳の人が、庭の花に水をやり、孫から届いた一通の手紙を読みながら穏やかな時間を過ごす。
こちらも、間違いなく幸せな時間です。

でも、この二つの幸せは、同じ種類のものではありません。

若い頃の幸せは、喜びや興奮、新しい体験に満ちています。
年齢を重ねた幸せは、安心や感謝、穏やかさに満ちています。

どちらが上でも下でもありません。
幸せの「形」が違うだけなのです。

(幸福には、いくつもの種類がある)

心理学では、幸福を大きく二つに分けて考えることがあります。

一つは、「楽しい」「うれしい」「気持ちいい」といった感情を味わう幸福です。
美味しいものを食べたり、旅行を楽しんだり、趣味に夢中になったりする時間がこれに当たります。

もう一つは、「自分の人生には意味がある」「誰かの役に立っている」「自分らしく生きている」と感じる幸福です。
こちらは派手ではありませんが、人生全体への満足感につながります。
若い頃は前者を求める人が多く、年齢を重ねるにつれて後者の比重が大きくなる人が少なくありません。

だから、「何歳が一番幸せか」という問いも、「どんな幸せを指すのか」によって答えが変わってくるのです。

(幸せの基準は、年齢とともに変わっていく)

子どもの頃は、おもちゃを買ってもらえるだけで幸せでした。
学生時代は、友人と笑い合う時間が宝物でした。
社会人になると、仕事の成功や収入が大きな目標になります。
そして年齢を重ねると、健康であること、家族が元気でいること、何気ない日常を過ごせることに、幸せを感じるようになります。

もし69歳になった私が、20歳の頃の幸せだけを追い続けていたら、おそらく「もう若くない」と失うものばかりを数えていたでしょう。
でも実際には、幸せの基準そのものが変わりました。
だから、今の私は若い頃とは違う形の幸せを感じています。

人は年齢を重ねるにつれて、幸せを失っていくのではありません。
幸せの感じ方が変化していくのです。

(幸せは「持つこと」ではなく、「気づくこと」)

私は最近、こんなことを思います。
幸せとは、人生のどこか遠くにあるゴールではないのかもしれません。

「もっとお金があれば。」
「もっと自由な時間があれば。」
「もっと成功すれば。」
そう思っていた頃は、幸せは未来にあるものだと考えていました。

けれど今は、幸せは案外すぐそばにあるのではないかと感じています。
朝、窓を開ける。
心地よい風が吹く。
小鳥のさえずりが聞こえる。
温かいお茶を飲みながら、一日が始まる。

そんな当たり前の日常が、「なんて幸せなんだろう」と思えるようになりました。
同じ景色を見ていても、若い頃には見えていなかった幸せです。
幸せは増えたのではありません。
幸せに気づく力が育ったのだと思います。

(「何歳が一番幸せか」より大切なこと)

この記事は、「人は何歳が一番幸せなのか」という疑問から始まりました。
しかし、ここまで考えてくると、本当に大切なのは年齢ではないように思えてきます。

20歳には20歳の幸せがあります。
40歳には40歳の幸せがあります。
70歳には70歳だからこそ味わえる幸せがあります。

人生は、幸せの量を競うものではありません。
その時々の幸せを見つけながら歩いていくものなのだと思います。

だから私は、「人生で一番幸せな年齢は何歳ですか」と聞かれたら、こう答えたいのです。

「その年齢にしか味わえない幸せがある。」

そのことに気づけた人は、年齢を重ねることを、少し楽しみにできるのではないでしょうか。
そして次の章では、研究では語りきれない「69歳の私が今感じている幸せ」と、「70歳を超えても幸福感を育てていくために心がけたいこと」を、私自身の体験を交えながらお話ししたいと思います。

<第7章> 69歳の私が今感じている幸せ──70歳を超えても幸福でいるために

ここまで、さまざまな研究を紹介してきました。

U字カーブ理論。
最新の幸福度研究。
国や文化による違い。
中年期に幸福度が下がる理由。
年齢を重ねると幸福を感じやすくなる理由。
どれも興味深く、「なるほど」と思える内容でした。

でも、最後は一つだけ、研究ではなく私自身の話をしたいと思います。

私は現在69歳です。
世間で言えば「高齢者」と呼ばれる年齢になりました。
しかし、不思議なことに、若い頃よりも今の方が心は穏やかです。

(幸せは、静かに満ちてくるものだった)

現役時代は、とにかく毎日が忙しく過ぎていきました。
仕事には責任があり、時間に追われ、頭の中はいつも「次にやるべきこと」でいっぱいでした。

もちろん、その頃にもやりがいや達成感はありました。
仕事を通じて成長できたことも多く、決して後悔しているわけではありません。

ただ、今振り返ると、「今日という一日」を味わう余裕はあまりなかったように思います。

引退して、その生活が大きく変わりました。
朝、窓を開ける。
ひんやりとした風が部屋に入ってくる。
小鳥のさえずりが聞こえる。
木々が少しずつ季節を変えていく。
そんな何気ない景色が、心に深く染みるようになりました。

若い頃なら見過ごしていた当たり前の風景です。
けれど今は、それが何より豊かで、幸せな時間に感じられます。
幸福とは、大きな成功や特別な出来事ではなく、静かに日常へ満ちてくるものだったのだと、今になって思います。

(「失ったもの」より「残っているもの」)

年齢を重ねると、どうしても失うものが増えていきます。

体力は少しずつ衰えます。
若い頃のようには動けません。
友人や知人との別れを経験することもあります。
研究では、70歳頃から幸福度が少し下がるという結果もあります。
その背景には、健康状態の変化や、大切な人との別れが影響しているのでしょう。

だからこそ、私は思います。
70歳を過ぎてから大切なのは、「失ったもの」を数えないことです。

歩けること。
食事が美味しいこと。
誰かと笑い合えること。
今日も朝を迎えられたこと。

「まだあるもの」に目を向けるだけで、心の景色は大きく変わります。
幸せとは、たくさん持つことではなく、今あるものに“感謝”できることなのかもしれません。

noteを初めて間もない頃に感謝して生きることの大切さを書いた記事もあります。

(70歳を超えても幸福感を育てるために)

では、幸福感を長く保つためには、何が大切なのでしょうか。

さまざまな研究を見ても、共通していることがあります。
それは、「心と体を動かし続けること」です。

まずは健康です。
特別な運動でなくても構いません。
毎日散歩をする。
よく歩く。
よく眠る。
好きなものを美味しく食べる。
体が元気であることは、幸福の土台になります。

次に、人とのつながりです。
家族でも、友人でも、ご近所でも、趣味の仲間でもいい。
誰かと笑い、誰かの話を聞き、自分の話を聞いてもらう。
人とのつながりは、年齢を重ねるほど大きな支えになります。

そして、もう一つ大切なのが、「役割」を持つことです。
仕事を辞めると、「もう自分は必要とされていない」と感じる人もいます。
しかし、役割は仕事だけではありません。
孫に本を読んであげること。
地域の活動に参加すること。
趣味を続けること。
誰かの相談に乗ること。
小さなことでいいのです。
「今日、自分が誰かの役に立てた。」
そう思える日は、心が温かくなります。

さらに私は、「学び続けること」も大切だと思っています。
新しいことを知る。
本を読む。
文章を書く。
知らなかった世界に触れる。
人は何歳になっても成長できます。
「もう年だから」ではなく、「まだ知らないことがある」。
そんな気持ちが、毎日に新しい喜びを与えてくれます。

学び続けることについても書いた記事があります。よかったらご覧ください。

(人生で一番幸せな年齢は、これからかもしれない)

この記事は、「人は何歳が一番幸せなのか」という問いから始まりました。
研究は、多くの人に共通する傾向を教えてくれます。
でも、人生は統計どおりには進みません。

私は69歳になった今、「今が一番幸せです」と言えます。夫婦でも毎日そんな話をしています。

だからといって、70歳になれば幸福が減ると決めつけるつもりもありません。
むしろ、これからも幸せは育てていけると信じています。

朝の風を気持ちいいと感じる心を失わないこと。
小鳥のさえずりに耳を澄ますこと。
人とのつながりを大切にすること。
新しいことに興味を持ち続けること。
そして、「ありがとう」と言える毎日を重ねること。

そうした小さな積み重ねが、幸福度のグラフには表れない、本当の幸せをつくっていくのだと思います。

幸福とは、「何歳だから得られるもの」ではありません。
幸せに気づく心を育て続ける人に、年齢は関係ない。
私は69歳になって、そのことをようやく実感しています。

<第8章> おわりに──人生には、それぞれの年齢にしかない幸せがある

この記事を書き始めたきっかけは、とても素朴な疑問でした。
「人は何歳が一番幸せなのだろう。」

調べてみると、最も有名なのはU字カーブ理論でした。
若い頃は幸福度が比較的高く、中年期に底を打ち、高齢になると再び上昇する。

一方で、最新の研究では、思春期に幸福度が下がったあと、70歳頃までゆるやかに上昇し、その後は少しずつ低下するという結果もあります。
さらに世界を見渡せば、北米、中東、北アフリカ、日本など、それぞれ違った傾向があり、「人は何歳が一番幸せか」という問いに、一つだけの正解はありませんでした。

しかし、調べれば調べるほど、私の中で一つの答えが見えてきました。

幸せは、年齢で決まるものではない。

年齢によって、その姿を変えていくものなのだということです。
二十代には、未来への希望があります。
四十代、五十代には、誰かを支え、人生を築いているという充実があります。
そして高齢期には、若い頃には見えなかった「何気ない日常」の尊さに気づく喜びがあります。

どの年代にも、それぞれの幸せがあるのです。

だから、もし今、若いあなたが将来に不安を感じているなら、焦らなくても大丈夫です。
人生は、これから何度でも変わります。

幸福度の研究が示しているように、今の気持ちが一生続くわけではありません。
未来には、今のあなたには想像できない幸せが待っているかもしれません。

もし今、中年を生きていて、毎日が苦しく感じるなら、自分を責めないでください。
仕事、家庭、子育て、介護。
人生で最も多くの責任を背負う時期だからこそ、苦しく感じるのは自然なことです。
あなたが頑張っている証でもあります。

そして人生の後半を歩いている方へ。
私たちは、失ったものに目を向けがちです。
体力
若さ
以前のような自由

でも、それと引き換えに得たものも、たくさんあるはずです。
経験
人を見る目
感謝する心
そして、小さな幸せに気づく力。
それは、人生を積み重ねてきた人だけが手にできる宝物です。

私は69歳になった今、「幸せとは何か」を若い頃より少しだけ理解できるようになった気がしています。

幸せとは、大きな成功ではありません。
誰かと比べて勝つことでもありません。
朝、目が覚めること。
季節の風を感じること。
小鳥のさえずりに耳を澄ませること。
家族や友人と笑い合えること。
「今日もいい一日だった」と静かに思えること。

そんな一つひとつの積み重ねが、人生を豊かにしてくれるのだと思います。

研究は、私たちに人生の傾向を教えてくれます。
でも、人生そのものを決めることはできません。

幸福度のグラフは平均値です。
あなたの人生のグラフは、あなた自身が描いていくものです。

70歳を過ぎても、80歳になっても、その曲線を少しでも上向きにすることはできると、私は信じています。

だから、この記事の最後は、「人は何歳が一番幸せなのか」という問いではなく、別の問いで締めくくりたいと思います。

「あなたは、今日の幸せに気づけていますか。」

もし、その答えが「はい」なら、あなたはもう、年齢に関係なく幸せな人生を歩き始めているのかもしれません。
そして、もし今はまだ「いいえ」だとしても、心配はいりません。
幸せは、どこか遠くにあるものではなく、日々の暮らしの中で少しずつ育てていけるものだからです。

私は70歳を目前にした今、そのことを毎日の暮らしの中で実感しています。
だから、これから先も、年齢を重ねることを恐れるのではなく、新しい幸せに出会えることを楽しみに、一日一日を大切に生きていきたいと思っています。

お読みいただきありがとうございます。
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これからもよろしくお願いします。

#最近の学び

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