自分のワガママを100%反映した財布を作る|革細工03
専用品へのあこがれからPASMOケースを作り、自分だけの狭い欲求を満たす筆箱までたどり着いた。
その次に挑戦したのは、財布。僕が欲しい条件をすべて満たす財布が、どこにも売っていなかった。
ーーなら、自分で設計すればいい。
理想の財布が欲しい
PASMO専用ケースを作ったころ、革を切るのも縫うのもぎこちなかった。
でも、PASMOケースを仕上げ、LAMY4本ピッタリサイズのほぼ日手帳カズンに取り付けるためだけのせまーい欲求を満たす筆箱を作るころには、設計する楽しさを満喫するようになった。
そして、次の題材に選んだのは財布だ。前から不満だったのだ。欲しい財布が、売っていない。
僕の理想の財布の条件はこんな感じ。
ボックス型の小銭入れがあって、お札が入る(つまり、コインケース単体ではない)
カードがたくさん入る(免許証とか、マイナンバーカードとか、いちいち入替えたり必要な時に持出す面倒が嫌いだ)。
二つ折りで、小さめのジーパンの尻ポケットに入る。
……こうして書くと、一つ一つでは無茶なことは言っていない。でも、いざ探してみると、これを全部満たす財布を見つけられない。
ボックス型小銭入れがついているとカード入れは数枚分しかなかったり、カードがたくさん入るものは長財布だったり、二つ折りでも幅が広くジーパンの尻ポケットに入らなかったり。
コインケースと札入れを分けるのは邪魔くさいし、狭い小銭入れの中で「268円あるかな…」とモゾモゾやるのがストレスなのだ!普段の会計はほとんど1枚のクレカで済ませる(家計簿アプリへの反映が楽チン!!)ものの、小銭が必要ならボックス型の小銭入れでパッと見渡して取出したいのだ。
大学生のころから気に入って10年以上愛用してそろそろ限界を迎えつつある財布も、ボックス型の小銭入れだ。

今日はマイナカードが必要だから…とカード収納を入替えるのもストレスだ。というか、よくカウンターで「すみません、持ってくるの忘れました」と反省の弁を述べる。もうコリゴリだ。
長財布がポケットから出ているのは防犯意識に欠ける気がするし、落としそうだ。被害額は…少ないけれど。
そして
「もう、理想の財布、作れるやん」
LAMY4本×ほぼ日手帳カズンの極狭ニーズ筆箱を作ったあと、そう思い至ってしまった。さあ、作ろう。
理想の財布を設計図に落とし込む
まずはパーツごとの細かな要素とサイズを考えよう。おそらく以下の3つを考えれば十分だ。
ボックス型の小銭入れ
構造は既に習得した技術でおそらく作れる。ボタンで留める機構も筆箱で習得済みだ。
サイズの面では、小さな尻ポケットに入るために、短辺をおおよそ8cm以下にしたい。
カード入れ
「名刺入れ」の要領で複数のカードを1つのポケットにまとめて入れる構造にしたい。
持ち運ぶ可能性のあるカードを一緒くたにして厚さを測ると、15mmあった。クレジットカード、キャッシュカード、マイナカード、免許証、宇宙飛行士公募に応募したことの証明書、ダイビングライセンス…
紙幣入れ
サイズの面では1万円札の長編+10mm程度あれば横幅としてはいったん十分だろう。
これを設計図に落とし込んだ。予定では、各パーツはピッタリ組み合うはずだ。
初号機、失敗
描いた設計図に基づき、初号機を作った。筆箱と同じ材料で作ったので、ワインレッドとナチュラルな革色のツートンカラーだ。
設計図づくりから通算2日かかった。初日、朝食後に始め、夜には糊付けまでして作業を中断する。2日目、穴あけから始め、縫い、磨く。
完成品をぱっと見ると、やりたいことをすべて実現している。でも、失敗だった。
紙幣を入れる部分に遊びがなく、1万円札を入れるのに難儀する。ちなみに千円札の収納には多少難儀するが、できないことはない……。千円札だけを使えば支障はないかもしれない……。
…いや、さすがに稀に1万円札も使うので、要は、日常で使うお札をうまく収められない。おそらく数mmだけ大きくすれば解決できるのに、そのサイズ感が肝で失敗なのだ。たかだか数mmだけの差が、理想の財布と使えない財布の差なのだ。

少し見方を変えると、初手で成功までまあまあな幅寄せができたということだ。たまらなくワクワクした。
もう、自信を持って言えるだろう、「趣味はベランダでやるジーパン作りや、革細工を通して、試行錯誤すること」。
弐号機、成功
二号機は、初号機の反省を生かし、紙幣用のパーツを1万円札+18mmで仕立てた。これにより二つ折りしたときの短辺の幅は、当初目安にしていた80mmを少し超えてしまったけど、変わらずズボンの尻ポケットには入る。

札もスッと入る。小銭入れのフタも気持ちよく閉まる。
ボックス型小銭入れも、ちゃんと開閉できる(これは初号機でもうまくできていた)
カード入れも、多くのカードをまとめて収納でき、使用時は窓部分から簡単に押し出せる(これも、実は初号機でもうまくできていた)。
つまり、
ボックス型の小銭入れがあって、お札が入る:達成!
カードがたくさん入る:達成!ピッタリ厚さ15㎜!
二つ折りで、小さめのジーパンの尻ポケットに入る:達成!
ということだ。理想の財布ができた。
革細工の面白さは、「上手くいった」より「上手くできた」にある。同じ成功でも、失敗してからのほうが、うれしい。
用途が狭すぎる、という幸福
完成した財布を使いながら思うのは「こんな要求するの、たぶん僕だけだろうな」ということ。このキャッシュレス決済が進む昨今、正直、クレカ以外ほとんど使っていない。しいて言えば、会社で経費精算するまでの間、建替えたレシートや領収書を紙幣入れの部分に入れておくくらいだ。
それでも、僕の理想の財布なのだ。
万人に便利なものを目指すと、どうしても平均的になる。自分ひとりにしか合わないものを目指すと、究極のワガママができる。想定するニーズが狭すぎる、究極のニッチは最高に幸せだ。
飲み会の会計をクレカでまとめて支払い割勘分の紙幣を受取るとき、ランチに出かけようと尻ポケットに財布を突っ込むとき、PASMOが使えない自販機で小銭を工面するとき…、僕の自慢の「理想の財布」が活躍する。
この投稿時点でこのオリジナル財布を使い始めて1年以上経つけれど、ちゃんとクリームなどで手入れをしているので、今でももちろん現役だ。はじめは鮮やかな赤と白で構成されていたツートンカラーも深い赤色と飴色に味が出てきた。
僕のこだわりに応えるために作られ、僕だけに使われ、僕との時間がしみ込んでいる財布だ。ほかの誰のためでも、他の誰かの時間を刻んでいるわけでもない。

最高に贅沢だ。
次回はまた別の「自分だけ」を作ります。ベルトです。
