クラウド会計データから捉える中小企業の経済動向と政策評価への取り組み【設立・研究発表会レポート②】
(本記事はマネーフォワード総合研究所の設立・研究発表会で発表された内容を基にnote記事化しています)
【ポイント】
公的統計の補完:クラウド会計データは、従業員10人以下の小規模事業者や個人事業主といった、公的な統計調査では捕捉が難しい層の動態を、高い粒度と速報性で可視化できる。
経済指標としての有効性:クラウド会計データから算出した売上高は日銀短観などの主要な経済指標と高い相関を示し、景気動向を把握する有効な指標となり得る。
政策評価(EBPM)の実践:クラウド会計データを用いた分析結果が、内閣府「経済財政白書」に掲載されるなど、政策評価のエビデンスとして活用できる可能性がある。
マネーフォワード総合研究所 経済・政策研究チーム、データアナリスト・サイエンティストの久保です。
本記事では、私の担当する「企業領域」の研究活動の内容と、内閣府でのビッグデータ活用事例、そして今後の展望についてお伝えします。

行政の現場から、民間企業のデータ活用へ
本題に入る前に、少し私の経歴に触れさせてください。
私はマネーフォワードに入社する前、千葉県庁にて行政職員として勤務していました 。当時はデータ利活用やEBPM(エビデンスに基づく政策立案)の推進、労働統計などの実務に従事していました 。
行政の現場では、統計調査の設計の緻密さや統計調査員の苦労を知る一方で、政策担当者からは「公的統計の頻度や粒度では、政策決定のフィードバックには足りない」という切実な声も聞いてきました 。
そうした経験があるからこそ、今、民間企業のリアルタイムで詳細なデータを活用し、社会に貢献するという取り組みに、非常に大きな意義を感じています。
公的統計を補完する、クラウド会計データの特徴
企業領域の研究基盤となっているのは、『マネーフォワード クラウド会計』などの利用ユーザーから得られる企業財務データです 。これらを公的な企業統計と比較すると、次のような際立った特徴があります。
小規模事業者・個人事業主の実態捕捉
主な対象は、従業員10人以下という、中小企業の中でもより小規模な事業者や個人事業主です。これは公的統計では十分にフォローしきることが難しい領域であり、ここを補完できる点が最大の強みです。IT・サービス領域の先行指標
ユーザー層は情報通信業やサービス業の構成比が高いことがわかっており、ITリテラシーの高い層が多いことが想定されます。そのため、IT領域における先行的な動向を捉えられる可能性があります。高い「粒度」と「速報性」
決算書データに加え、日々の「仕訳」単位で入出金の内訳を分析できます。銀行・カード連携によりデータが自動記録されるため、高い速報性が期待されています。

事例:内閣府のビッグデータ活用の事業
具体的な活用事例として、内閣府でのビッグデータ活用事業についてご紹介します。
私たちは、内閣府の「ビッグデータを活用した経済動向分析」事業において、クラウド会計データを用いた経済動向の把握や政策評価への活用可能性を検討してきました。なお、本事業はPwCコンサルティング合同会社が事業統括や分析内容の検討などを担い、当社がデータの抽出や分析を行う体制で進めています。
※ データは関係法令や当社の利用規約に即して厳正に取り扱い、個人情報を含まない統計データに加工しています。当社の「情報セキュリティ・個人情報保護に関する考え方」についてはこちらをご覧ください。
その成果の一つとして、クラウド会計データから算出した売上高(前年同期比)が、日銀短観などの主要な経済指標と高い相関を示すことが確認されました。これは、クラウド会計データがマクロ経済を捉える指標となり得ることを示しています。


令和7年度 年次経済財政報告への掲載
そして今年、大きな進展がありました。当社のクラウド会計データを用いた分析結果が、政府の公式な報告である「令和7年度 年次経済財政報告(経済財政白書)」に掲載されました。
白書で紹介されたのは、IT導入補助金やものづくり補助金などの「投資補助金に関する効果検証」です。補助金を受給した企業とそうでない企業を比較分析した結果、補助金を受給した企業ほど固定資産を増やす傾向があり、一定の投資誘発効果があった可能性が示唆されました。
なお、諸条件からこの分析結果については一定の幅を持って解釈する必要があるとも白書で掲載されておりますが、総じてクラウド会計のデータは政策評価においても活用できる可能性が示されました。

今後の展望:企業データの「深化」と「拡張」
最後に、これからの展望についてです。
これまで分析を進めてきた、クラウド会計から得られる企業の決算書の定型的なデータに加え、今後はさらに深く、広く分析を進めていきます。
非定型データ(仕訳)の深掘り
日々の入金・支払履歴などの、非定型なデータをさらに掘り下げていきます。例えば、企業向けソフトウェア関連サービスの支払履歴を分析することで、産業別のDXの観点で可視化できる可能性があります。労働統計領域への拡張
『マネーフォワード クラウド給与』のデータを活用することで、従業員の給与金額や労働時間の動向を分析できる可能性があります。昨今の賃上げや人手不足が社会課題となる中、中小企業の実態把握を補完する「労働統計」への拡張を目指しています。


