51.『煙の行方』|勝手に脚本会議
誰かを想う気持ちは、
火を貸した人の吐く煙と共に。
▪️冒頭
カフェ・ビズのキッチンで働くマヒロは、カウンター席に並ぶ常連の二人、ノブトとトキのやりとりに、いつしか目を向けるようになっていた。
ノブトはいつも決まった銘柄のタバコを吸い、トキはタバコを吸わないのに、不思議とライターを持ち歩いていた。火を借りる人と、火を貸す人。そこにあるのは――。
私は知らなかった。
彼らが語らない過去と、まだ煙の奥に隠された想いのことを。
▪️設定
舞台は静かな街の小さなカフェ・ビズ。キッチン担当のマヒロは、カウンター越しに訪れる客たちの姿を背中越しに見守る。客同士の会話や仕草を断片的に耳にしながら、隠された思いに気づいていく。
常連のノブトとトキは友人同士であり、かつて共通の友人ミノルを失った過去を抱えていた。トキはミノルに贈ったライターを形見として持ち続けている。ノブトはタバコを吸うが、ライターを持ち歩かず、いつもトキに借りたライターで火をつける。ノブトがトキの火を借りる行為は、ミノルとの繋がりを感じる儀式でもあった。
▪️登場人物
マヒロ
カフェ・ビズのキッチン担当。穏やかな性格で細かいことによく気づく。トキのライターを持つ姿から2人とミノルの関係を誤解する。
ノブト
カフェ・ビズの常連客。亡くなったミノルの友人であり、密かに恋心を抱いていた。タバコを吸うがライターは持たず、いつもトキにライターを借りる。ミノルに対する秘めた思いをマヒロにだけ打ち明ける。
トキ
ノブトの友人で、ミノルの形見であるライターを持ち続けている。タバコは吸わない。常に持ち歩いているライターはかつてミノルにプレゼントしたもの。ミノルが亡くなった後、形見として持ち続けている。
ミノル(故人)
ノブトとトキの共通の友人。突然亡くなり、二人にそれぞれ異なる形の喪失と想いを残す。
▪️各話構成
第1話:火を灯す人たち
静かな午後、街の小さなカフェで働く私は、キッチンからカウンター越しに常連の二人組を眺めていた。ノブトはいつも、亡くなったミノルが愛飲していた銘柄のタバコをくゆらせている。トキはタバコを吸わないのに、なぜかいつもライターを持っている。そのライターはトキの形見らしい。
私ははじめは2人がタバコを吸ってると思っていた。
「タバコ珍しい銘柄ですね。…バニラの匂い?」
「そうなんだ。ミノルってヤツが好きだったタバコでね。」
トキは静かにうなずきながら、ノブトの隣でコーヒーを飲んでいる。
「トキさんのライターも変わったカタチ」と私がつい言うと、トキは少しだけ笑って答えた。
「ミノルの形見だから。大切なものなんだ。」
私は閉店後の灰皿を片付けながら、2本の吸い殻を見つけるたびに思っていた。
2人とも、ミノルさんって友達と同じタバコを吸ってるんだ。
第2話:2本の吸い殻
カフェの扉が開く音が静かに響く。いつもの時間に現れるはずの2人が、今日来店したのはノブト1人だけ。私はキッチン越しに彼の動きを見つめていた。ノブトはポケットからタバコを取り出す。
「今日はトキさんは?」と尋ねると、ノブトは少しだけ目を伏せて答えた。
「今日は来られないってさ。仕事が長引いてるらしい。」
ノブトは、火をつけずタバコ持て余していた。
「吸わないの?」私の問いに、ノブトは静かに笑った。
「ああ、あいつがいないと火つけられないんだった。あいつは吸わないけど、あのライターは今はトキのものだからね。マヒロちゃんライター貸してくれるかな」
私は別のお客が忘れていった100円ライターを貸した。
タバコの先から立ち上るバニラの煙は、ノブトの胸の内のようだった。吸い込むたびに、彼の目は遠くを見つめていた。
閉店後、灰皿の中に入っていた吸い殻は2本。いつもの2本の吸い殻はノブトが吸ったモノだったと私はその時初めて気がついた。トキさんは吸ってなかったんだ。
第3話:吸い殻、2本の理由
数日後、ノブトとトキは久しぶりに二人でカフェに現れた。彼らはいつもの席に座り、静かに会話を交わしていた。私はキッチンでそれを聞きながら、少しずつ彼らの過去に触れていく気がした。
会話の隙間と私の背中越しに煙るバニラは、ノブトがミノルに対して秘めていた思いのようだった。
閉店後、タバコを忘れたと、ノブトが1人で戻ってきた。
「ミノルさんのこと好きで同じタバコを吸ってるんですか?」
私は立ち入ったことと分かりながら聞いてしまった。
驚いたような顔をして、その後、微笑んでノブトは答えてくれた。
「ああ。伝えられなかったけどね。だからあいつと吸ってるつもりで2本吸うって決めてるんだ。男のくせに女々しいよね。けど好きだった。」
トキが持つミノルのライターで、ミノルと同じ銘柄のタバコに火をつける。
私は彼の切ない想いに少しだけ触れた。
片付けた灰皿にはやはり2本の吸い殻が残っていた。
第4話:煙の行方
雨の降る静かな午後、トキがひとりでカフェに訪れた。私はキッチンから顔を覗かせると、いつもと違う何かを感じた。トキはテーブルに座り、ゆっくりと口を開いた。
「このライター、ミノルにあげたのアタシなの。伝えられるうちに、言っておけばよかったのにね。女から男へって、…ちょっと恥ずかしくてね?」
トキの言葉には長年の想いが滲んでいた気がした。
「ノブトには内緒ね。あいつは今もミノルから借りてるつもりなの。アタシは吸わないけど、あいつの吐くバニラの煙がミノルとの繋がりなの。煙だからすぐ消えるけどね」
私は静かに頷きながら、三人の複雑な関係を改めて理解した。
閉店後、吸い殻のない灰皿を片付けると、かすかにバニラの匂いが煙る気がした。
クボタヤマダ
いいなと思ったら応援しよう!
ありがとうございます!
いただいたチップは
多大なる感謝と共に使わせていただきます! 