長い針が8になったら、ママが来る
「どうしてママは、長い針が8になったらお迎えに来るの?」
保育園から帰る車内で、4歳の娘に聞かれた。
一瞬、驚いた。
そっか。
そこ気になってたんだ。
私はいつも、16時40分頃に娘の教室へ着くようにしている。
理由はすごく単純で、保育園の駐車場が空いているからだ。
以前は16時半頃にお迎えに行っていたけど、お迎えの人が多くて駐車場が混雑していた。
車を停める場所を探したり、駐車できるまで待ったりするだけでも、少し疲れてしまう。
混雑した時間にバタバタするより、少しだけ時間をずらした方が楽だった。
だから16時40分。
私にとっては、ただの生活の工夫だった。
でも娘にとっては違ったらしい。
「長い針が8になったらママが来る」
そう覚えていた。
──────────
とはいえ、子どもの気持ちは難しい。
ある日は、「今日は早くお迎え来てほしかった」と言う。
そう思った次の日。
同じ時間にお迎えに行くと「もっと遊びたかった」と言われたりする。
……どっち?
母は一体、何時に迎えに行くのが正解なんだ?
でも、考えてみたら大人だって同じだった。
楽しい日は、もう少し長く居たいし、疲れた日は早く帰りたい。
4歳には4歳の予定があって、気分がある。
だから娘に聞いてみた。
「じゃあもし毎日、ママのお迎えの時間が違ったらどう思う?
今日は長い針が8かな?12かな?
いつ来るんだろうって不安にならない?」
娘は少し考えて、
「不安になる、いやだ」と言った。
「だからママは、毎日長い針が8になったらお迎えに行くんだよ。
今日はいつかな?って心配しなくていいように。
8になったらママが来るって分かってたら安心できると思うから」
そう伝えると、娘は
「そうだったんだ。いつも同じ方が安心する」と呟いた。
時計を見て、時間を気にして。
ママはいつ来るんだろう。
そんなことを考えながら過ごしていたのかもしれない。
──────────
思い返せば、家でも時計には助けられている。
壁掛け時計の下に時計の表を貼ったり、残り時間が目で見て分かるタイマーも置いてある。
「長い針が6になったら、お風呂に入るよ。
今から20分後……このタイマーが鳴ったら終わりだよ」
そうやって伝えてきた。
何回も伝えて。
何回も繰り返した。
最近では娘の方から時計を見るようになった。
「ママ、8時になったよ!起きて!」
そう教えてくれる。
見てないようで、案外よく見ている。
いやちょっと待て。
時間を教えていたはずなのに、気づけば私が4歳に時間管理されている。
大人からしたら、ただのお迎え時間だった。
駐車場が空いていて、動きやすい。
そんな理由で決めた16時40分。
でも娘にとっては、少し違った。
「長い針が8になったら、ママが来る」
そんな時間になっていた。
もちろん毎日予定通りにはいかない。
遅れる日やバタバタする日もある。
それでも今日も、できるだけ同じ時間に迎えに行く。
長い針が8になる頃、娘の教室の前に立って窓越しに娘を探す。
目が合った瞬間「ママ!」と嬉しそうに走ってくる日もある。
「まだ遊びたかったのに」と言われる日もある。
でも明日もまた。
長い針が8になったら、私は娘の教室の前にいる。
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