「今、止めてる」と言った夫
最近、子どもたちの寝る時間と夫の帰宅時間が重なる。
私は寝かしつけへ行き、その間に夫が私の担当だった洗濯物を干してくれる日が続いていた。
昨日の夜もそうだった。
夫がお風呂から上がってきたので、
「洗濯物ありがとー」と声をかけると、
「今日はやばい」と言った。
「どしたの?疲れた?」
そう聞くと、夫は少し考えてから言った。
「妻ちゃんが望んでもないことを考えてしまう」
「え?」
意味が分からず聞き返す。
すると夫は続けた。
「余裕がない時に、頭の中から自分を責める声が聞こえる」
「今も、体拭くの適当にして、髪の毛乾かすの後にして、ご飯の準備しないとって考えてしまう」
「今日の妻ちゃんは、子どもたち連れて病院行って疲れてるのに、夕飯の準備させちゃいかんやろって」
私は思わず言った。
「なにそれ、こわ。
脳内にパワハラ親父いるやん」
すると夫は笑うでもなく、
「妻ちゃんがそんなこと望んでないのは分かってる」
「でも余裕ないと、こういう思考が出てくるから。今止めてる」
「お、おう……」
なんか大変そうだ。
夫にも、そんな声がいるなんて知らなかった。
「そんなパワハラ親父の言うこと聞かなくていいから」
そう返した。
夫は頷きながら、
「帰りに弁当買おうと思ってさ」と話し始めた。
「唐揚げにするか、生姜焼きにするか考えてた。
妻ちゃんが昼に生姜焼き食べてるかもしれんと思って、じゃあ唐揚げにしようって決めた」
「でも、それだけで疲れて。
いつもの弁当屋行ったら、今日だけ休みで……
次どこの弁当屋に行くか考えるのもしんどくて」
唐揚げか、生姜焼きか。
次はどこの弁当屋か。
一つ一つは大したことじゃない。
それでも、それだけで精一杯だったらしい。
その話を聞きながら、私はふと思った。
そういえば。
昔の私は、こういう声がいつも頭の中にいた。
下の子が保育園へ通い始めた頃。
「働かなきゃ」
「あれもしなきゃ」
「これもしなきゃ」
そんな思考で溢れて、でも現実は毎日を回すだけで精一杯だった。
だけど頭の中では、誰かがずっと急かしていた。
だから夫の話は、少しだけ分かった。
気づけば最近、その声をほとんど聞かなくなっていた。
夫の頭の中には、昨日もパワハラ親父がいた。
そういえば。
最近、私の頭の中では見かけなくなった。
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