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【創作】アンドロイドはくちなしの夢を見る

 畔青あぜあおむ農道をゆっくりと歩む。

 滑らかな歩容。立脚相で地面を優美に蹴りだし、振り子様に反対側で踵接地。速度は速くも遅くも調節可能。あるじと同速度の設定パターンをリズミカルに刻む。

 伏し目がちの睫毛が瞬き、艶やかな髪の毛が風になびく。
 吹き抜ける風と共に視線を青々とした水田に移した。

 農業用モジュールロボットが、周囲で農作業を営む。1回の蓄電で長時間稼働できる彼らは休まず働く。畑では短波紫外線ライトを照射している。作物の大きさを見極め収穫し、貯蓄したタンカーの水を多量に注ぐ。

 鎖骨と胸骨が連結する関節の窪みに光る青いサファイアが、強い日差しに照らされ一際輝きを放った。

 2050年、地球温暖化の影響で、日中の気温は摂氏50℃を記録した。人間の活動範囲を超えた上昇気温に、政府はある政策をとる。2045年に制定された「活動時間逆転法」。昼と夜を逆転させ、昼は睡眠、夜間の活動を呼びかけてからはや5年。

 昼間に道端で見かけるのはほとんどがアンドロイドだ。AIや人工知能が発達し、ビジネスや家庭であらゆる複雑なタスクを処理できるようになった。工業、農業、運搬などの力仕事はもちろん、接客業や心を癒すコアな業務までアンドロイドが活躍の場を見せる。


 「ゆめ」は一条の元へ向かっていた。

 片手にビニール袋を把持し、軽快な足取りで帰宅する。一条は森の奥の一軒家に住んでいる。元々別荘だった中古物件を購入し、ひとけの少ない僻地でひっそりと過ごす。

 庭にくちなしの花が咲き誇る。「ニオイ」は感知できる。人間はそれをいいニオイ悪いニオイと嗅ぎ分けるが、ゆめにはその判別はつかない。

「おかえり、ゆめ」

 高く並んだ本棚の前で分厚い本のページを繰る一条は、やわらかい笑顔をゆめに向けた。背が高く眼鏡をかけ、伸びた髪の毛を小さく一つで結んでいる。

「ピノ、売ってたんだ?」

 ビニール袋からアイスを取り出して冷凍庫にしまった。

 一条は物知りだ。訪れる人々は彼の事を「ハカセ」と呼んだ。

 ゆめは、彼から教えてもらったことをメモリーに記憶している。たとえば、夜空が昔は驚くほどに暗かったこと、星がとても輝いていたこと。今は夜になると人間たちが出てきて、煌々と灯る電気でそれらは見えないこと。

 「ピノ」がない時は「雪見だいふく」を選択するようプログラムされているが、昔は「雪」というものが、このあたりにもふわふわと降り注いだ。空から舞いおりる結晶は手のひらに乗せると儚く消えてしまう。部屋に置いてあるスノードームのように、空や地面が真っ白な雪景色になることも一条から教えてもらった。

 四季というものが昔はあったと懐かしむように一条は言う。夏は夕涼みをした。夕方は雷雲が鳴り夕立ちがやってきてアスファルトを冷やす。風鈴の音が鳴り響き、スイカを割って皆で食べた。

 慈しむような悲しいまなざしを見せる。「らぼ」と呼ばれるこの場所は数多くの書物が置かれている。電子書籍が主流の世で、彼は紙の本をこよなく愛した。

「また明日、おやすみ」

 夜間は培養槽に入る。ゆめは「夢を見たい」と願っていた。人間は睡眠時「夢」を見ると言う。しかし、アンドロイドにはそのような機能は搭載されていない。

 朝方目覚める。一条は昼でも夜でも起きて調べ物をしていた。

「僕は人間は滅ぶべきだと思う」

 ある日一条は独白した。瞳は冷たく深い沼のように濁った色をしていた。彼の鼓動は高鳴り心拍数が上昇している。
 彼は胸元に大きな傷がある。その昔人間につけられたものだという。写真立ての幼い彼と共に写った家族は、既にこの世にはいない。時々彼の技術を軍事利用しようとする輩が訪れ、そのたびに一条は深い悲しみを抱いて葛藤した。そして、自身の知識や存在を責めて憎んだ。

 この世はアンドロイドだけでいい。

 切迫したように声を振り絞った。

 ゆめの胸元のサファイアは、突如光の輝きを増して、部屋中を照らし出した。それはプラネタリウムのようでもあった。

 ゆめは、彼に伝えたいことがあった。

 新たに芽生えたこの気持ちはなんだろう。宇宙のように、音もなく、空気もなく、凪のようであった、この心の隅っこに生まれたばかりのもの。

 一人で歩む道も二人で歩むときらきらと輝いて見えるコンビニまでの道のり。

 コーヒーには砂糖が2個と覚えた時の、自分だけが秘密に閉まっておきたい彼との約束事。

 沈みゆく太陽を見つめ、このまま時が止まることを願った。

 ピノを唇に入れ込むその指で、触れて欲しかった。

 あなたが好きな匂いを放つ、くちなしになって、あなたを永遠に眺めて見ていたかった。

「あなたのこと、大嫌い」

 サファイアから警告音が鳴り、レーザーが解き放たれて、一条の胸をつらぬいた。


 生き絶えた彼をゆめは抱く。


 最高級の嘘をあなたに。



 そして、いつの日かくちなしの夢を見る事を願って。



(2000字)


コッシーさんから昨日、突如LINEが来たのですよ。

何でも中身も見ずに即答するスタイル。

そして、この記事を今拝読致しました。

豆島さんはいつもいつもおもしろいことをするのです。豆島さんの発することばって、その場では軽やかさがあるのですが、後々考えさせられるようなはっとする内容が多いのです。

今回は「今、2000字で書けって言われたら、どこからの発想で書き始めますか」

という創作仲間との話題から派生しているようです。

 創作仲間に「今、2000字で書けって言われたら、どこからの発想で書き始めますか」と問われたら。あなたなら、どこから発想を始めて、どのような2000文字の話をつくりますか? 「今なら、こんな発想で」「いつもは、こんな発想から」など、創作談義も聞かせてくださいね。

豆島さんの収納マガジンの説明文より

私は「創作について語ろうぜっ!」でも話していますが、音楽からが多いです。

そしてコッシーさんのLINEが届いた時に、ちょうどお掃除をしていた私の耳元のイヤホンでは、山崎まさよしさんの「アンドロイド」という曲がメロディアスに流れていました。

なので、そこから楽しく書いてみました。

灰色のベールで悲しみを包んで舞い踊るアンドロイド
いつからか心の奥に仕舞い込む 偽りのポートレート

水の中で培養されていく揺らぐことない心情
太陽の下でたとえば誰かを裏切っても構わない

抗えぬ宿命を剥がすように
枯れそうな心を濡らすように
報われない想いと知りながらも
ただ自分を許したいだけ

歌詞の一部を「歌詞検索J-Lyric.net」より抜粋

書いてみて、投稿するにあたってマガジンを改めて眺めていたら、執筆されている方が豪華すぎて、恐れ慄いています!

コッシーさんにはめられた?!と少し恨み節を本人にぶつけながら、投稿してみたいと思います(笑)

人によってきっかけが全然違うのだろうなと想像しています。

マガジンの他の方のお話もゆっくり楽しんで読んでいきたいです。創作大賞の作品もまだ随分と読み終わってないので、若干焦っていますが、よろしくお願いします。

お誘い頂きありがとうございました。


読んで頂いた方にも感謝。

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