母が見ていた海
母が子どもの頃を過ごした、長崎県の大村。
泳ぎがあまり得意ではなかった母は、
よく砂浜から沖へジャバジャバと歩いて行き、
呼吸ができるかどうかぎりぎりのところまで、顔を海につけて、
しばらく海の中に立っていたそうです。
そして満足すると、そのまま砂浜を歩いて家に帰った――。
そんな子どもの頃の話を、私は昔から母に聞いていました。
今回初めて長崎を訪れて、
目の前に広がる大村湾を眺めたとき、
「ああ、母が話していたのは、こういう海だったのか」
と、少しわかった気がしました。
母が見ていた景色を、
ほんの少しだけ、私も見ることができた。
そんな気がしました。

