ハムレットの出演者紹介
静岡芸術劇場でただいま稽古中のハムレット。
翻訳された台本をもとにしているけれど、稽古をしながら俳優への当てがきの要素を加えていったところ、現代語に書き換えた部分も多くて、新しく書き足したテキストもあり、潤色の度合いが強い台本になってきた。
というか悲劇じゃなくてコメディタッチのスペクタクル作品になっている。
こんなに変えちゃって大丈夫?とも当初は思ったが、県内の中高生の鑑賞事業も多い公演なので、痛快で間口の広いものを創りたいと思った。劇場では”変”であることも許されるんだと、若い人たちに演劇の自由さを感じてほしい。
学校の行事なので興味のない学生も見に来てくれるわけで、その人にとっては一生に一度だけの演劇体験かもしれないし、少しでも多くのそういう学生が、疎外感を抱かずに帰って欲しいのだ。
といっても子ども向けの作品作りをするのではなくて、やりたい複雑なテーマを遠慮なく探求するのだけど、それをアナーキーに娯楽化しようとしている。
今日は、この人のこんな一面も見たいしこんな意外なこともやってほしいと私を欲張らせて混乱させてくる、豪華な俳優陣をご紹介していきたい。
ホレイシオ: 本多麻紀
ハムレットの親友役で学者。
まきまきさんは宮城聰作品における”スピーカー”の第一人者。語りの名手で、まきまきさんの声で語られると、やたらと聞いている人の頭に話が入ってくる不思議。いつも誠実で素敵な方だ。
今作では、ホレイシオがキーパーソン。生き残った彼がハムレットに託された物語を観客に語ろうとすると、オフィーリアたちに物語を乗っ取られてしまう。本来は、物語で唯一生き残るはずのホレイシオに意外な結末が待っている。
オフィーリア/ハムレット: 山崎皓司
オフィーリアが演じているハムレット。独り言と考え事の多すぎるデンマーク王子。
こうじさんは、かつて東京の先端的な小劇場で俳優として名を馳せていたそうだが、考えるところあって地元静岡にUターンして鹿や猪を狩ったり米を作りつつ俳優をしているそう。ハムレット役になってしまって今年の稲刈りがピンチであるらしい。
考え過ぎて行動しないハムレットと逆で「やってみてから考える」実践派だそうだ。静的な「2枚目」というより、ぶっ飛んだ破壊力のある「1枚目」の方なので、全く新しいハムレット像になった。
自給自足生活のいきさつはこうじさんのnoteに詳しい。
オフィーリア/クローディアス: 武石守正
ハムレットの叔父。ハムレットの父である先王を暗殺して王位を奪った。しかし完全な悪人というだけでもない人間の弱さと矛盾を抱えている。
武石さんは、2008年、2015年、2021年に上演された宮城聰演出「ハムレット」のタイトルロールを務めている正統派で、他にもSPACの作品でたびたび主演してこられた。
低音の美声のため、声を聞いてしまって話を聞いていないという問題に私を陥らせることだけが問題。今回、全員によるダンス的場面があるのだが、びっくりするほど動きが速くて、何者なんだろう、と思っている。
オフィーリア/ガートルード: 舘野百代
男たちの対立を誘発するキーパーソンの、美しい王妃。彼女やオフィーリアが担う物語上の役割は、男系社会のネガティブな面を強く想起させる。レヴィ=ストロースの構造主義における「交換物としての女性」の立場を思い起こさせる存在。
ももさんは、SPAC作品ではこういう役をあまりやらないとのことだが、神話的なスケールの演技ができて、役にぴったりだと思っている。人間は多面的で自分でも何を考えているかなんて知らないのだ。
オフィーリア/ポローニアス: 若宮羊市
ハムレットの恋人オフィーリアの父親で、クローディアスの廷臣。コメディパートを担う役だが、一家の権力維持に腐心するポローニアスの立ち回りが、ハムレットとオフィーリアの破滅を引き起こす。
若宮さんは、立板に水のアドリブ対応ができる反射神経を持つ方。とにかく面白いのに言っていることも分かりやすくて、毎回どんなアイデアが飛び出すかわくわくさせてくれる存在。
オフィーリア/レアーティーズ: 杉山賢
オフィーリアの兄で、「人間たるもの感情に流されず理性的であらねば」と葛藤しているハムレットとは違って迷いなく直情的で激情型の人物。
杉山さんことケンケン氏も、まっすぐで熱い人だ。最若手の一人だがマルチになんでもできる。今回は殺陣師の仕事も担当。
ケンケン氏のポジティブさに支えられる私たちの稽古生活。ハムレット役のスイングも務めてくれて、そのバイタリティとメンタル最強ぶりに安心感がすごい。
オフィーリア/ギルデンスターン: ながいさやこ
ギルデンスターンは、本来は男性の役だが今回は座組の関係で女性役にしてあって、ハムレットと過去に男女の関係があったのかなという役どころ。クローディアスに命令されてハムレットをスパイしようとする。
さやこさんは一本気な稽古魔。今回、ダンサーの川村美紀子さんに奇想天外な身体ムーブメントをつけてもらっていて、さやこさんはそのムーブメントがとても美しい。
オフィーリア/ヴォルティマンド/音楽: 吉見亮
ヴォルティマンドは王の廷臣。
吉見さんは俳優でありつつ、打楽器を中心とした音楽家で、SPACにいい音楽家がいるとフランスでも(!)噂を聞いていたので、今回ご一緒できて非常に嬉しい。役もあるが、音楽家としての活動がメインでの参加。
バランサーなお人柄の吉見さんは、演技や場面を絶妙に察知して演者がやりやすいように音を入れてくれる。
今作ではAフレームという不思議な電子楽器が活躍するようだ。
オフィーリア/役者・道化: 阿部一徳
阿部さんはSPACにこの人ありと知られた名優。SPACの前身の一つであるク・ナウカを形づくり支えてきた存在だ。主役を歴任してきた阿部さんが、今回は、旅役者、墓掘り、オフィーリアの分身(?)や人間以外の生命体など、あらゆるバイプレイヤー的な役を演じる。
というのも、ハムレットやクローディアスなど男性たちを中心として回る物語を、今回はこれまで周縁的な外側に置かれていた存在に重要性を持たせて演出してみる実験をしているからだ。
演劇愛は誰にも負けず、無数の引き出しというクレバーさと子供のように自由な発想力を併せ持つ阿部さんから出てくるプランは私一人の考えることよりずっと豊かなので、私は演出を忘れて観客気分でわくわくしている。
オフィーリア/役者・道化: 貴島豪
貴島さんもSPACを代表する名優。SPACの芸術総監督が鈴木忠志さんだった時代からの俳優で、声も素晴らしいが身体の感覚と動きが特にすごい方。
今回は阿部さんと対になってバイプレイヤー役をやってもらう場面が多く、SPACファンには驚きの豪華コンビによる「墓掘り」と「旅役者の劇中劇」の場面の画の強さに、毎回稽古場がザワついている。一見どうでも良さそうな場面が実はこんな面白い場面なんだ、シェークスピアってやっぱりすごいな、と思い知らされた。
オフィーリアの分身(?)の動きも必見。あと私服が非常にオシャレなきじーさんである。
オフィーリア: 榊原有美
オフィーリアが演じる「オフィーリア」。か弱いヒロインがただただ周囲の言いなりになって陥る美しい悲劇、に浸って楽しむ気にはなれない2025年、今回は従来とは違うオフィーリアの演じ方を探求している。今作でのオフィーリアはアナーキーに行動し、狂者でありながら最も賢者なのかもしれない存在だ。
ゆーみんは宝塚時代の私を推してくれていたそう。SPACの誇るマルチプレイヤーでコメディもシリアスもパワープレイも異化効果もなんでもこなせる最強の共犯者だ。
曰く「この作品は成功するか失敗するかどちらか。私は一緒に泥をかぶる覚悟」とのこと。
オフィーリア/フォーティンブラス: 宮城嶋遥加
オフィーリアが演じるフォーティンブラス(隣国の王子)。ネタバレに関わってくるので、あまり詳細は説明できない。
はるちゃんは、大学生の時からすでにSPACで主役クラスの役を務めて、ずっと静岡をベースにしてきた生え抜きの俳優で、観客に届く強い声と、オフィーリアが似合う透明な外貌でもって、今作のトリッキーな部分を担ってくれている。
はるちゃん個人は超アカデミックで、意見を聞くと、なるほどこの概念はそう言えば良いのか、今度からそう言おう…とひそかに参考にしている私だ。
出演者は以上となる。
現在、稽古の期間は3分の2ぐらいが過ぎたけれど、自分史上では一番、後先考えず創作できているというか、とにかく思いついたことをどんどんやってみる、俳優からアイデアをどんどん出してもらうという、直感的で現場主義のやり方で進められている。
それができる理由は、稽古期間が非常にしっかりあるということと、劇場が自前でスタッフを抱えているため、バックアップ体制が万全だからだ。
子供にもどって無計画に画用紙いっぱいに絵を描いているみたいだ。
やりたいことを詰め込み過ぎで、さらには俳優のあんなところも発揮して欲しいこれも似合いそうと欲張った結果、とっ散らかっている状態とも言える。今までの自分には恵まれなかっためちゃくちゃ贅沢な機会だ。
もし宝塚だったらこれから新作一本作るだけの日数がまだ残っているから、散らかっているぐらいでちょうどいいだろう。
思えば、宝塚時代には、とにかく失敗しないということを目標に作品作りをしていた。宝塚はスター制度でトップという少ない椅子を競うので、主演作が失敗作と呼ばれるのは出演者にとってキャリア上のダメージだ。その出演者の宝塚人生にかける努力と夢が私の怠慢あるいは芸術的探究心のせいで妨害されるのは許されない気がしていた。
稽古期間が短いので、稽古スタートより前に衣装も装置も全て確定し、感情の流れや曲の流れを、脳内上演できるほどはっきりイメージしておくのが大事だった。稽古は、その脳内の内容を、現実世界で再現するのが精一杯の時間しかない。
やってみてうまくいかなかったら考えようとか、何パターンか試してみようとかいう時間はなくて、役者から予想と違う思いがけない解釈や個性が出てきた時も、それらを生かして全体の台本を調整したり他の人の演技プランを変えていたら時間切れになるので、基本的に青写真どおりの流れに全員が無理にでもはまってもらうことが多かった。
そういう作り方だと、失敗はしなくても、作品は私という一人の頭で事前に想像できるスケールにとどまりがちだ。
今回、SPACから演出依頼を受けて、ディレクターの石神さんに「私に依頼いただいたということは観客からのニーズがあるウェルメイドなものをやってほしいということですか?」と尋ねた。すると「それもいいけど、自分の芸術的関心があることをやるのが第一ですよ」という素敵な返事をいただいた。
でも、中学生や高校生がたくさん観にきてくれるというのも自分にとっては初めてでとても有意義なことだと思うので、そういう若い観客も楽しませるという意識と、ある好きな演出家から言われた「芸術家なんて嫌われてなんぼですよ」という護りに入らないマインドを混ぜ合わせたら、難しいのか平易なのかわからないカオティックなスペクタクルができてきた。
こういう冒険をしたい時には、俳優の協力がとても重要なのだ。改めて強力な俳優陣に感謝したい。
確実に賛否両論な作品になると思うので、ぜひたくさんの方々に、静岡に見届けにきていただけたらこんなに嬉しいことはない。
(東京からひかりで1時間ぐらいですよ!)
公演スケジュール
11月9日(日)*アーティストトーク
11月15日(土)
11月22日(土)*バックステージツアー/◆託児サービス
11月23日(日・祝)*バックステージツアー
11月29日(土)◆バリアフリー日本語字幕/英語字幕
12月6日(土)◆バリアフリー日本語字幕/英語字幕
12月7日(日)*プレパフォーマンス/◆バリアフリー日本語字幕/英語字幕各日13:30開演 上演2時間
会場:静岡芸術劇場(グランシップ内)
チケット情報









