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昔話『善意の鬼』

むかしむかし、あるところに、男の多い村がありました。
村の真ん中には夜ごと灯りのともる酒場があり、若い男たちはそこへ集まりました。
仕事を終えた男たちは酒を飲み、笑い、恋の話をし、別れた女の話をしました。
誰が誰を好きだったか。
誰が泣いたか。
誰が裏切ったか。
そういう話は、囲炉裏の煙のように村じゅうを巡りました。
女たちは少なかったので、一人の娘の恋愛は、いつのまにか村みんなの話になりました。
それが、この村の習わしでした。

その村には、善意の翁がおりました。
翁は金を持っており、若い男に酒を飲ませるのが好きでした。
悩みを聞くのも得意でした。
「まあまあ、人生いろいろだから」
そう言って肩を叩けば、たいていの若者は少し元気になりました。
翁は話も面白く、世の中のことをよく知っていました。
だから村人たちは皆、翁のことをこう言いました。
「あの人は面倒見がいい」
「あの人は優しい」
「あの人は理解がある」
翁自身も、自分を良い人だと思っておりました。

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