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妻が嫌うこと

妻は僕のことを名前で呼んでくれる。

このことがどれだけ、僕を救ってきただろう。

なんど打ちのめされても、なんど先輩から嫌がらせを受けても、家に帰ると、かならず不器用に僕の名前を呼んで「おかえり」と言ってくれたのが、何度、僕を救ってくれただろう。


おそらく妻は知らない。


そのぶきっちょで、愛しい声を聴くたびに、何度も僕は、自分の家に帰って来たのだと心から感謝したことだろう。

だから、僕もせめて妻が帰って来た時には「おかえり○○ちゃん」と言おうと決心しているが、それがなかなかできない。それは、帰ってきて疲れているのかどうかの小さなマウント合戦があるからだ。



イビキをかく息子の隣で携帯をいじっている妻が「起きています」と言わんばかりにこちらにライトを向ける。「○○くん。おかえり」ぶっきらぼうに、ちらりとこちらの様子を見る妻。僕は少し怒ってみせて「腹減った」という。「お疲れ。カレーあるよ」「ありがとう」僕は急いで、静かにドアを閉じる。


夜が遅いと始まるこの疲れましたマウント合戦は、たまに、二人とも非常に疲れている時に意外な声によって幕を閉じる。

妻が嫌う第2位、無意味な喧嘩。
「やめよ。疲れているから」という意外な宣言によって幕を閉じる。


休みの日の昼間とか、ずいぶん暇なときには、僕も妻を名前で呼ぶ「○○ちゃん。この歌良くない?」とか「○○ちゃん。コンビニ行くけど、何か買ってくる?」など大体妻は喜んでいるように見える。

5歳の息子もこういう時は幸せそうに僕らを見ている。

マウントではなくて、たまに、本チャンの喧嘩をしている時もある。

そんなときは「めんどくさいな~。ねーおとーさん」と僕の肩を持ってくれる。こんな小さい人が良くやるよなぁと感心しているが、だからと言ってこの争いを簡単にやめない。


その時ふと、洗面所で声が響く、妻が嫌う第1位、濡れたタオルを洗面台の木でできたカウンターの上に置くこと。
「おい、○○。ちょっと来い」意外な声によって幕を閉じた。

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